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AI導入前は懸念、導入後は価値創出へ      ─生成AI利用企業の本音─


はじめに:アンケート調査の概要

今回は、生成AI導入の現状を探るために実施された興味深いアンケート調査があったので数字をもとに紹介する。

今回取り上げるアンケートは、box社が調査した「企業における生成AIの活用に関する意識調査」についてのアンケートである。

従業員規模や業種、IT部門の有無といった多様な属性を持つ企業を対象に行われた。

調査期間は2024年10月から11月で、
質問項目は「導入前の不安点」「導入後の実感」「コスト意識」「期待点」など、導入プロセス全般にわたる内容を網羅している。

ポイント1:導入前後の課題感の違い

生成AIを導入する前後で、企業が抱える課題は大きく変化する。
今回のアンケートでは、導入前の懸念点と導入後の実務的課題が分かれていてとても興味深い。

box 社リリースページより

導入中の企業での、懸念は「セキュリティや情報漏洩リスク」(36.5%)「社員が使いこなせるか」(36.5%)の2つが上位を占めていた。

一方、導入検討中の企業が挙げた課題は「社員の実際の利用スキル」(32.8%)や「適切な運用管理」(28.8%)だった。

box 社リリースページより

生成AIは、質の高い結果を得るために適切な指示や検証が必要であるが、
これを実現するためのノウハウが十分に共有されていない場合が多い。

また、導入後にはシステム担当者への負担増加や、ルール整備・運用監視といった日々の管理業務が課題となることが分かった。

ポイント2:導入の決め手・重視ポイントの違い

生成AIの導入に際し、企業が重視するポイントは、導入前と導入後で大きく変化する。アンケート結果から、その違いを詳しく見ていく。

導入検討中企業の重視ポイント

導入を検討している企業の多くは、「セキュリティ面の担保」(45.8%)を最も重視している。

これは、生成AIの利用に伴う情報漏洩やデータ管理のリスクに対する懸念が強いためである。

また、「システム導入の簡便さ」(35.0%)も重要視されており、既存の業務フローにスムーズに組み込めるかが判断基準となっている。

さらに、正確性やリスク最小化への期待も高く、未知の技術に対する慎重な姿勢がうかがえる。

https://www.boxsquare.jp/news/release/20241209-press-release

導入済み企業の選定理由

一方、既に生成AIを導入している企業では、「機能の多さ」(40.0%)が評価されている。

これは、実際の業務ニーズに対応できる多機能性が求められていることを示している。

また、「現在使用しているサービスに簡単に追加できるから」(35.5%)も高く評価されており、現行のワークフローに無理なく組み込めることが重要視されている。

導入後は、実際の運用効率や業務改善に直結する要素が重視される傾向にある。

導入している企業の選定理由

このような結果になった背景として、導入前の企業は、未知のリスクや操作性への不安から、「安全・シンプル・確実」を求める傾向が強い。

一方、導入済みの企業は、実際の業務運用を通じて、より具体的な機能性や統合性を重視するようになる。

この変化は、生成AIの実際の効果や課題を体感することで、評価基準が現実的な視点へとシフトするためである。

ポイント3:生成AIの利用料に対する意識変化

生成AIの月額料金に対する企業の意識は、導入前と導入後で大きな変化が見られる。

今回のアンケートでは、コスト認識の変化が具体的な数値で明らかになった。

導入検討中企業の意識

導入を検討している企業の中では、「2000円以上3000円未満」(21.0%)が多くの支持を集めた。

この価格帯を重視する背景には、初期投資の抑制やROI(投資対効果)の不透明さがあると考えられる。

まだ生成AIの実際の効果を体感していない段階では、コストパフォーマンスよりも価格そのものに目が向きやすい。

特に中小企業では、具体的な成果が見えない段階で高額な投資に踏み切るのは難しいという現実が反映されている。

検討している企業の予算感

導入済み企業の意識

一方で、導入済みの企業では「3000円以上4000円未満」(20.5%)を許容する割合が増加している。

この価格帯は、導入後に得られるメリット、例えば工数削減や業務品質向上などを考慮した結果といえる。

実際に生成AIを活用した企業では、初期コスト以上の価値を感じることで、多少高額でも納得感を持って支払う傾向が見られる。

導入した企業の実際の費用

このように変化が出る理由としては、
導入前は「安さ」を重視しがちだが、導入後は「価値」への意識が強まる。

この変化は、生成AIの効果を具体的に体験することで、単なるコストとしてではなく、業務効率化や生産性向上の投資と考えられるようになるためであるからではないだろうか。

企業が生成AIを最大限に活用するには、初期コストだけでなく、その後の運用に伴う価値を見据えた判断が求められる。

ポイント4:さらなる活用への期待ポイント

生成AIの活用に対する期待は、導入を検討している企業と導入済みの企業で大きく異なっている。それぞれの期待しているポイントをみていこう。

生成AIを導入している企業の方に対して、今後の生成AIの活用意向を尋ねたところ、94.0%の回答者に活用意向がある(「活用していきたい」56.3%、「やや活用していきたい」37.7%の合計)ことが分かった。

活用の意欲度

また、今後の生成AIの活用に何が必要か尋ねたところ、利用者の53.7%が「高い回答精度」と回答したのに対し、導入関与者・運用担当者では「回答精度の向上」は34.4%に留まり、「ユーザーのITリテラシーの向上」が37.6%、次いで「生成AIで利用するファイルの整理」が36.0%と最も多い結果となった。

これは、利用者と導入関与者・運用担当者で考えていることにズレが出ている興味深い結果である。

利用者の回答結果
導入関与者・運用担当者の回答結果

この結果からも、導入関与者・運用担当者は、生成AIの能力を引き出すために、IT環境の整備や利用者のITリテラシー向上など、利用者に起因する事柄を重要視している一方で、利用者はAIの回答の精度に目を向けていることが分かる。

AIを活用するためには、利用者の使いやすさや満足度などのサービス面はもちろん、利用者のリテラシーの向上が今後の生成AI活用促進の鍵となる。

まとめ:生成AI導入前後の意識変化と今後の展望

生成AIの導入に伴い、企業の課題や意識には明確な変化が見られる。

導入前は未知のリスクや不確実性への懸念が中心であったが、導入後は実務における運用課題や次なる活用方法への期待が浮き彫りになった。

また、生成AI導入した企業での社内の反応について、
導入関与者・運用担当者に尋ねたところ、ポジティブな反応が72.5%(「とても好評だった」24.0%、「好評だった」58.5%の合計)を占めており、
実際に生成AIの活用に前向きな声が多いことがわかった。

導入後の社内の反応

そのため、生成AIの導入を成功に導くために以下のステップを提案したい。

1. 導入前に課題を先回りして解決する体制の整備
導入前の段階で懸念される「セキュリティリスク」や「社員の使いこなしへの不安」については、事前に社内で議論を重ね、運用ガイドラインや研修プログラムを用意することが効果的である。

2. 現場の意見を積極的に取り入れるアプローチ
生成AIの活用が社内に定着するかどうかは、
実際に利用する現場の声を反映できるかにかかっている。
利用者の満足度を高めるためには、IT部門だけでなく、各部署や現場担当者が参加する形で、活用状況をみえるかすることが重要になる。

3.  利用者リテラシー向上が次の鍵
アンケートの結果からも分かるように、利用者側のITリテラシー向上が生成AIの真価を引き出す上での鍵となる。
定期的に生成AI教育を実施し、ツールを正しく活用するスキルを社内で共有することが、さらなる効果を引き出すための重要なステップである。

最後に
生成AIの導入により、企業が得られるメリットは大きい。

しかし、それを最大限に活かすためには、事前の準備や導入後の運用改善、さらには利用者の育成が不可欠である。

今回の内容を通じて明らかになった意識変化や課題は、これから生成AIを検討する企業にとって貴重なヒントとなるだろう。

生成AIは単なるツールではなく、企業の成長を支えるパートナーとして位置づけられるべき存在である。

持続的な運用体制を整えることで、その可能性を最大限引き出していきたい。

また、今後もX(旧Twitter)で最新動向や活用事例を発信していくので、
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