バイセルからfundbookへ――非効率な市場を打破し、資本戦略でスケール&エグジットする起業家戦略
はじめに
スタートアップを志す起業家にとって、非効率な市場を攻略し、テクノロジーを駆使して成長・エグジットするまでのプロセスは大きな指針となります。
バイセルテクノロジーズ(以下、バイセル)の創業者・畑野氏は、リユース市場で急拡大したバイセルを軸に、新たな領域としてM&Aアドバイザリー事業fundbookを内部で創出、その後独立させ、最終的には大手企業グループへのエグジットを実現しました。
本稿では、バイセルとfundbookの業績推移を比較しつつ、畑野氏の資本戦略やビジネスモデル変革から得られる示唆をお伝えします。
畑野氏が示す「非効率市場攻略」の基本戦略
畑野氏は、属人的な商習慣が残る市場にテクノロジーとデータ活用で効率化をもたらし、圧倒的な成長を獲得する戦略を貫きました。
バイセルではリユース市場を、fundbookではM&A仲介市場を舞台に、その手腕を発揮しています。
バイセルの成長軌跡:リユース市場へのテクノロジー導入
バイセルは、着物・ブランド品・美術品などを対象とした買取再販モデルで、オンライン集客や査定システム最適化により業務効率を飛躍的に向上しました。
以下は、近年のバイセル業績推移(参考例)です。
バイセル 業績推移(参考)
3年間で売上は1.7倍超、営業利益も倍増以上を達成しており、着実な効率改善と認知拡大が奏功しています。
資本戦略:ミダスキャピタルへの株式売却で成長基盤を強化
バイセルが成長する中で、畑野氏は一部株式をミダスキャピタルへ売却し、さらなる成長資金と経営基盤を確保しました。
スタートアップにとって、適切な投資家との提携は事業拡大や新規事業開発を後押しします。
この資本戦略により、バイセルはより強固な経営基盤を築き、新規事業領域への展開を可能としました。
新規事業「fundbook」の誕生と独立
畑野氏が次に挑んだのは、事業承継ニーズが高まる中堅・中小企業のM&A仲介ビジネス。バイセル内部で芽吹いた新規事業「fundbook」は、案件管理のシステム化やオンラインマッチングによって成約件数を増やし、M&A手数料収益で高い利益率を確保。
このビジネスはリユース事業とは大きく異なる特性を持ち、畑野氏はfundbookを自ら買い取り独立させることで、機動的な経営と一層の成長を追求しました。
fundbook 業績推移(参考例)
M&A領域では、情報・信用仲介ビジネスが中心となり、物的在庫を抱えない分、高い利益率が期待できます。
バイセルとfundbookの業績比較
両社を比較すると、市場特性と事業モデルの違いが鮮明になります。
バイセルは大規模流通改革でスケールを重視、fundbookは信用仲介ビジネスで高利益率を確保。
両者は非効率な市場構造に挑むという共通点を持ちながら、収益構造や成長パターンに違いが見られます。
最終的エグジット:fundbook、CHANGEグループ入りへ
2024年12月、fundbookは地方創生やDX推進を図るCHANGEの子会社になることが発表されました。
資本力・ネットワークが増強されることで、地方企業のM&Aを促進しさらなる成長が見込まれます。
畑野氏にとっては、バイセルに続くもう一つの大きなエグジットであり、非効率を解消するビジネスモデルを構築・拡大させ、しかるべきパートナーへバトンを渡す成功パターンを再現しています。
起業家への示唆
スタートアップ起業家にとって、ここから学べるポイントは明快です。
非効率な市場を選ぶ:市場に存在する情報非対称や属人的オペレーションを発見し、テクノロジーで改善することは短期的なスケールを可能にします。
柔軟な資本戦略:ミダスキャピタルへの株式売却や、fundbook独立時の資本再編など、資本政策は事業ステージに合わせて最適化することで成長を加速できます。
事業特性に応じた組織設計:fundbookを独立させたように、事業モデルに適した組織とガバナンス構造を取ることで、機動性・収益性を最大化可能です。
エグジットは成長戦略の延長線上:fundbookのCHANGEグループ入りは、単なる「売却」ではなく、次の成長ステージへの飛躍点。エグジットを通じて市場全体の発展にも貢献できます。
さいごに
バイセルとfundbookを通して畑野氏が示したのは、非効率な市場を見つけ、テクノロジーで価値創造し、戦略的な資本政策・組織改革を行うことで、事業をスケールアップし、最終的なエグジットまで見据える、一貫した成長モデルです。
起業家の皆さんにとって、これは一つのロールモデルとなるでしょう。自社の成長戦略にこの哲学を取り込み、非効率を打破する独創的なビジネスモデルを築くことで、次のエグジットやマーケットリーダーシップ獲得への道が開けるはずです。
執筆者紹介
シード期のスタートアップに特化した会計士・税理士。資本政策と財務戦略の最適化を通じて、スタートアップの成長加速を支援。創業期特有の課題に寄り添い、適切な資金調達と持続可能な成長を実現するための伴走型アドバイザーとして活動。
実務に即した会計・税務・資金調達の知見を発信しながら、スタートアップエコシステムの発展に貢献できるよう日々奮闘している。
Twitter: @kandmybike
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