見出し画像

矢沢永吉ディスクレビュー パート4 ワーナー・パイオニア編 (2)

 2枚の海外盤をリリースし、アメリカ西海岸を拠点にメインストリームの最新サウンドを取り込み自身の作品をクリエイトし続ける80年代後半の永ちゃん。アルバムの質はここから快進撃と言える快作をリリースし続けます。80年代ワーナー・パイオニア時代の永ちゃんのディスクレビューを第二回目です。

ワーナー・パイオニア編 (2)

画像1

I am a Model 1983年7月20日
A面
1.Rock You High
2.ミスティ
3.Why You...
4.グッド・タイム・チャーリー
5.このまま...
B面
1.酔えないシャンペン
2.M3/4
3.せめてダンシング
4.シーサイド#9001

 前作に続きサンセット・サウンド・レコーダーズで録音された今作。録音メンバーもP.M9から引き続きほぼ同じメンバーですが、このアルバムは全曲TOTOのジェフ・ポーカロが担当しております。なんとも歌心のあるドラムだなと感心しまくりです。全作詞ちあき哲也となっています。個人的に、このアルバムのAORサウンドが昨今のCITY POP再評価にもつながると思い、山下達郎の中古盤が高値になっているのに対しI am a Modelが数百円という評価に納得がいかない部分もございます。

 アルバム一曲目はミドルテンポのポップロック「Rock You High」で始まります。ピアノとドラム、ベースの絡みはモータウン的なグルーヴを持っているあたりにR&Bがベーシックにあることを感じます。シングルカットとなった「ミスティ」は、バレアリック感の強いナンバーで、マイナー、マイナーセブンス、フィフスを上手く使ったコード進行が都市生活における海岸線への逃避を感じるサウンドになっています。また、サビでのメロディの切なさ、ギターソロのフレージングはまさに白眉です。あと何と言ってもポーカロのキックとハイハットワークのセンスの良さです。そんなグルーヴを持った「ミスティ」に続く「Why You...」は、スライドギターがボーカルに絡むストーンズタイプのR&Rです。

 スウィンギーなR&R「グッド・タイム・チャーリー」ではブラスセクションのノリの良さ、ピアノが引っ張るグルーヴが堪能できます。永ちゃん、この手のノスタルジアを感じる曲との相性が抜群ですね。A面最後は、バラードの「このまま...」です。少しダークな雰囲気を持ちますが、細かくハットを刻むドラム、エレピとギターの細かいフレージングがなんともムーディーです。

B面1曲目「酔えないシャンペン」は、「ミスティ」の世界をアップテンポに明るくした様なブルース進行曲です。エレピの使い方やエレキギターのフレージングがフュージョンAORのファンキー面を感じ、なんとなくワーナー期のジョージ・ハリスンを思い起こさせます。「M3/4」は、イントロのギターのハーモニーが心地よい、アップテンポのR&Rです。そうか、これはDoobie Brothersセンスなんですね。このアルバム全体に言えますが、どことなくR&Bの影響が大きいなと思います。この曲におけるブラスの様に入ってくるクラップの使い方や、ドラムの絶妙な跳ね方に影響を聴くことができます。「せめてダンシング」では70年代のソロの永ちゃんのダークさを思い起こさせますが、演奏メンバーの影響かカラッとしておりフェードアウト中のフィルインなんか粋です。

 アルバム最後は、ダンサブルでポップな「シーサイド#9001」です。「シーサイド・ビラ・キューマルマルイチ」と読むこちらの曲は、ネオモッズバンドが「恋をあせらず」マナーの曲を演奏した様な、ロックバンドがやるR&Bを演奏し素晴らしいというのがたっぷり詰まっていますが、感想のギターなどはLAロック的な展開です。サウンドの組み立ても可愛く軽やかに踊れDJユースにも最高でしょう。
 

画像2

Last Christmas Eve 1983年11月16日
A.Last Christmas Eve
B.シーサイド#9001

 「I am a Model」製作中にRECされたシングルオンリーのナンバー「Last Christmas Eve」は、ノベルティ色の濃い一曲ですが、アコースティックなバラードがクリスマスにぴったりです。矢沢ファミリー名義の作詞ですが、2番以降は永ちゃんの作詞になっています。2:48のところでエディットされた形跡があるのですが、当時「Last Christmas Eve」は永ちゃん出演のジョニーウォーカーCMソングで、このレコード発売前のキャンペーンで応募し抽選でもらえるカセットテープ「yazawa夢です。」ではエディットされていないオリジナルバージョンが収録されているそうです。


画像3

THE BORDER 1984年3月10日
A.THE BORDER
B.I SAID I LOVE YOU

 世界発売第3弾のオリジナル・アルバムとして制作されていた「THE BORDER」、プロデューサーとのトラブルでこの計画は白紙に、急遽この「THE BORDER」が収録されたベストアルバムが発売された。このベストアルバムは、「YAZAWA」「It's Just Rock'n Roll」の収録曲がA面に、B面は、アルバム未収録の「THIS IS A SONG FOR COCA-COLA」「LAST CHRISTMAS EVE」、「P.M9」「Rising Sun」「I am a Model」からの曲が収録されアメリカ時代の永ちゃん入門にはナイスなアルバムです。

 さてこの新曲とも未発表とも言える曲が収録されたこのシングル、イントロのサックスが心地よく、太陽いっぱいのアメリカ西海岸の空気たっぷりの「THE BORDER」、コーラスパートもたっぷりで心地良いAORで、ボビー・ラカインドとマイケル・マクドナルドのDoobie Brothersのコンビの作品です。B面の「I SAID I LOVE YOU」は永ちゃん作曲のハードなロックとなっています。


画像4

E' 1984年7月25日
A面
1.スタイナー(Introduction)
2.逃亡者
3.あの夜・・・
4.O,Oh
5.Fade Away
6.Long Distance Call
B面
1.Ball And Chain
2.棕櫚の影に
3.罪なデマ
4.Good Luck!!
5.回転扉

 前作から約一年ぶりにリリースされた「E'」、このアルバムでは共同プロデューサーに「P.M9」でギタリストとしてアンドリュー・ゴールドが参加しています、録音場所もコンウェイ・スタジオに変わり、サウンド面でも変化が現れています。

 シンセサイザーのインスト「スタイナー(Introduction) 」に続く「逃亡者」では、ビートがこれまでの生っぽさよりもデジタルっぽいドラムサウンド、シンセサイザーによるリフ演奏など、エレクトロポップへ接近しており、新しいサウンドメイクを聴かせるにはバッチリなキャッチーな曲になっています。シーケンサーのフレーズに導かれサックスがイントロで響く「あの夜・・・」はミドルテンポのブギーといったリズムですが、ギターの音は殆ど目立たずソロのみで派手に聴こえるだけで、オブリのフレーズもシンセによるプレーです。

 それまでのアルバムであればバレアリック路線と言える曲の「O, Oh」ですが、メロディや歌唱はいつもの矢沢節ですが、デジタルのドラム、シンセのエキゾチックなフレージング、ペラペラのギターリフからのカッティングにプラスチックス、それよりMELONの様なニューウェーブ的なサウンドメイクとなっています。アコースティックギターのイントロに導かれる「Fade Away」で生っぽい音が登場しましたが、ビートがジャングルビートとなっており、ブラスセクションのアレンジも、ラテンファンク系ニューウェーブの影響を伺わせます。「Fade Away」の終わりとリズムボックスのイントロが繋がっている「Long Distance Call」、リズムボックスとシンセサイザーの使い方が完全にKraftwerk的で、乾いたギターの音が入る物の矢沢流テクノポップとなっています。

 B面冒頭は、ダンサブルなシンセポップ「Ball And Chain」で幕を開けます。ギターカッティングのシャープさ、曲を彩るシンセのフレーズ、非日本語話者による日本語コーラスが無国籍感を演出しています。完璧なテクノポップバラード「棕櫚の影に」におけるリズムプログラミングとベースのフレーズが気が利きすぎており、シンセサイザーの浮遊感もムーディーなのですが、感想が生サックスというところにバランス感覚があるなと思います。スネアのゲートリバーブがギンギンの「罪なデマ」ではシンセベースが曲を引っ張ります。前半シンセサイザーが上物でリードしますが、途中からエレキギターによるバッキング、アコースティクギターも効果的に聴こえます。ブラスが煌びやかな「Good Luck!!」はR&Bテイストの強いロックです、またスタジオに入ってきた犬の鳴き声も聴こえます。このアルバムでは「罪なデマ」と共に今までの永ちゃんっぽいトラックとなっています。

 アルバム最後を飾るのは、ピアノバラードの「回転扉」です。このアルバムの中心となっていたエレクトロサウンドとは打って変わって、ドゥー=ワップ、ゴスペルライクなコーラスが非常に美しい曲となっています。もちろんシンセサイザーも入っていますが、静かに響いています。


画像5

YOKOHAMA二十才まえ 1985年7月25日
A面
1.浮気な午後の雨
2.Take It Time
3.Yokohama二十才まえ
4.モーニング・レイン
5.光に濡れて
B面
1.苦い雨
2.瞬間(いま)を二人
3.SORRY…
4.逃避行
5.あ・い・つ

 前作でシンセサイザー、デジタルサウンドの大幅な導入でエレクトロポップ的なサウンドメイクを聴かせてくれた永ちゃん、1年ぶりの今作もアンドリュー・ゴールドとの共同プロデュースでエレクトロテイストを武器にアルバムをリリースしています。New Orderの様なドラムサウンドを持つ「浮気な午後の雨」で幕を開ける今作、バレアリックな雰囲気を持ち、クルーナーにリラックスして歌う永ちゃんの歌がたまりません。2曲目の「Take It Time」はシングルでもリリースされたアップテンポなナンバーで、シンセサイザーの使い方やギターフレーズがThe Policeを思い起こさせます。ちなみにこの曲、アルバムリリースの12日前に出演したライヴエイドでも「苦い雨」と共に歌唱され、ライブ中継されました。

 シンセファンクと言えそうなビート、グルーヴを持つ「Yokohama二十才まえ」はオーケストラル・ヒットも登場します。一聴お水っぽい歌謡曲になりそうな楽曲ではあるのですが、トラックの尖り方が一歩手前で止まらせています。83年にリリースされたHerbie HancockのFuture Shockの影響もありそうです。

 リズムボックに導かれ、エコーいっぱいのエレキギターのフレーズ、バッキングのシンセサイザーのプレー、浮遊感のあるトラックで永ちゃんがメロウに歌う「モーニング・レイン」、明るくコーラスとのアンバランスさも面白いのですが、この手の曲に永ちゃんのメロディのバタ臭さを感じます。またシンセベースが実に気の効いたプレーを聴かせてくれます。続くシンセサイザーによるリフがポップな「光に濡れて」は、バリアリック路線の一曲です。ティンパニがドラマチックに響き、「シーサイド#9001」と同種の非常に可愛い曲ですが、David Bowieのベルリン三部作時代を思い起こさせます。

 B面冒頭はライヴエイドでも中継された「苦い雨」です。シンセサイザー、エレドラが鳴り響くミドルテンポのロックナンバーです。当時のツアーでもオープニングを飾っており、じわじわとくるグルーヴがなんとも言えません。打ち込みのリズム+パーカッシブなシンセが中期YMOの香りもする「瞬間を二人」は、トラックのニューウェーブ感の上にエモーショナルなメロディと歌唱が最高のナンバーです。なによりトラックのエキゾッチックな感じとゴスペルライクなコーラスが無国籍感を聴かせます。リズムマシーンとシーケンサー、シンセサイザーがサイケな「SORRY… 」の様なバラードも聞き逃せません。ファンキーなベースとギターと言葉数の少ないサビのメロディの絡みがスマートな印象です。「Take It Time」と並ぶロックサウンド、B面では「逃避行」で聴くことができます。シンセサイザーがリードしますが、エレピのサウンド、ギターも前に出ておりこのアルバムで一番ササクレ立つR&Rな永ちゃんを堪能できます。なおLPではフルコーラス、CDではフェイドアウトされています。

 アルバムの最後はバラード「あ・い・つ」は、前作の「回転扉」と同じくシンセサウンドが引っ込み、エレキギターとオルガンが印象的なソウルバラードです。

画像6

TEN YEARS AGO 1985年11月28日
A面
1.ホープ
2.コーヒー・ショップの女の娘
3.憎いあの娘
4.やりきれない気持
5.ヘイ・タクシー
6.二人だけ
B面
1.レディ・セブンティーン
2.0時5分の最終列車
3.ミスター・ギブソン
4.SHE BELONGS TO HIM(彼女は彼のもの)
5.最後の恋人
6.ファンキー・モンキー・ベイビー

 ソロデビュー10周年となるこの企画アルバム、永ちゃんのツアーバンドのバンマスで元クローバーのジョン・マクフィーがプロデュースした、キャロル時代の楽曲のセルフカバーアルバムは、「YOKOHAMA二十才まえ」と同時期に制作された。煮湯を飲まされた言い良い思い出が無いと語っていたキャロル時代の自作曲を現状のサウンドでアプローチするというのは、自身のキャリアの自信からの遊び心を感じさせます。「P.M9」や「YOKOHAMA二十才まえ」のサウンドの延長でキャロルをカバーするという非常に絶妙なバランスの作品ですし、ある種矢沢マニア向けの上級編とも言えるかもしれません。

 シンセサイザーのアルペジオがシーケンサー的に響く「ホープ」にひっくり返った人も多いのではと思います。メタリックなギターと重心が重いドラムが過剰な「コーヒー・ショップの女の娘」では、コーラスパートが原曲よりも多くアレンジされています。テンポもノリも軽くなった「憎いあの娘」ではLAポップロックテイストとなっています。原曲ではジョニーが歌う「やりきれない気持」を永ちゃんが歌うというのはなんとも言えません。原曲のコーラスパートがオミットされた分ギターのオブリが多く入っております。テンポを落とし重いノリを狙っている「ヘイ・タクシー」ではバッキングのシンセがキュートに響き、ドゥーワップ風のコーラスも新鮮に聴こえます。シンプルなアコースティックギターが中心だった「二人だけ」では、85年の矢沢のバラードサウンドに生まれ変わり、甘いジョニーの歌と打って変わり永ちゃんのドラマチックさ表面化しゲートリバーブの効いたドラムも時代の新しさです。

 B面は、シンセサイザーがファンキーなリフを刻む、「レディ・セブンティーン」、テンポを落とし重いビートになった「0時5分の最終列車」に続き歪みの激しいギターが絡みまくる「ミスター・ギブソン」では永ちゃんが激しく歌います。80'sロックバラードに生まれ変わった「SHE BELONGS TO HIM」ではLAのカラッとしたサウンドとエレピの音色が色っぽく響きます。湿っぽさがあったマージービートライクだった「最後の恋人」もカラッとしたサウンドに。メロディの良さは相変わらずですが、ギターのザクザクとした刻みが新しいものになっています。

 アルバムラストは、ささくれ立ったノリは無くなったものの80's LAサウンドと一番相性の良く聴こえる「ファンキー・モンキー・ベイビー」です。ベースを持つキャロルの矢沢はもちろん想像できませんが、マイクスタンドで歌う永ちゃんのフィーリングにリメイクされた、この時点での最新の物になっています。


画像7

東京ナイト 1986年7月25日
A面
1.東京ナイト
2.風芝居
3.ISLAND HOTEL
4.BELIEVE IN ME
5.YOKO
B面
1.さまよい
2.傘
3.エイシャン・シー
4.止まらないHa〜Ha
5.めざめたら

 3作目となるアンドリュー・ゴールドとの共同プロデュース、サウンドメイクは「E'」からシンセサイザー、デジタルサウンドの延長線上にあるが、「YOKOHAMA二十才まえ」と同時期に制作されたキャロル時代の楽曲のセルフカバーアルバムの影響か若さと勢いタフさが表面に出た様なアルバムとなった。永ちゃん本人も「36歳の矢沢がもう一度、キャロルの頃みたいな“やんちゃ坊主”やったって感じ」とコメントしており、西岡恭蔵、ちあき哲也、山川啓介、3人の作詞家陣のリリックもリゾート感ある大人の歌詞から不良のカリスマ矢沢永吉的なやんちゃさが表現されている。
バキバキなドラムサウンドとシンセサイザー、綺麗に歪むエレキギターのグルーヴがスリリングな「東京ナイト」での永ちゃんのワイルドなボーカルで幕を開け、ポップな「風芝居」はクリーンなエレキギターと心躍る様なドラムのビートが80's東京の夜のお楽しみを感じさせます。シンセサイザーファンクと言えるファンキーな「ISLAND HOTEL」の変速的な16ビート感覚と歌メロディの抜き方、言葉の譜割の素晴らしさはビートを殺さず歌うセンスを感じまくります。

 シングル曲となった「BELIEVE IN ME」は永ちゃん流フィル・スペクター/Be My Babyと言える切なく染みる曲となっています。アメリカ人ミュージシャンを起用し80年代的なスペクターサウンドを構築しようとする試みに永ちゃんのポップスファンとしてのセンスを感じます。A面最後は前年誕生した娘さんである洋子さんを歌ったと思われる「YOKO」で終わります。優しいオルガンにリードされ、リムショットのドラム、優しいメロディとゴスペルライクなコーラスが浮遊感を持ちワイルドな曲が揃うこのアルバムの中のバラードとして美しく並びます。

B面冒頭「さまよい」における疾走感は、都会の生活における騒がしさを感じます。四つ打ちのドラム、オーケストラル・ヒットのバッキング、エレキギターのリフに永ちゃんの歌唱とストリート・ロックの最高点といった趣です。BメロバックのシンセサイザーアルペジオはThe Whoのババ・オライリィを思い起こさせます。このアルバムのワイルドサイド第一弾「傘」で熱くなりましょう。端正な16ビート歪みの深いギターリフが、ファンキーハードロックと言えるR&Rとなっています。個人的に90年の「Rock'n'Roll Army'90」ツアーの武道館での歌唱で痺れて好きになった曲でもあるのですが、スケールの大きいビート感とメロディは流石のロックシンガーという感じです。
このアルバムのバレアリック路線は、この「エイシャン・シー」です。空間を活かしたようなサウンドプロダクション、シンセサイザーとエレピのオーケストレーションが静かな雨と都市における靄や霧を感じますが、サックスソロが霞を拭う様です。

 永ちゃんの「トラベリン・バス」と並ぶ代表曲かつタオル投げ曲、「止まらないHa〜Ha」はこのアルバムのワイルドサイド第二弾です。スケールの大きいビート感はもちろん、シンセサイザーのアルペジオのリフ、比較歪んだギターとハードバップなサックスがR&R感を演出し、永ちゃんがシャウトし血も煮えるような熱いロックで聴くものを震わせます。なによりキャッチーなメロディが一度聞いたら忘れられないです。

 アルバム最後は、バラードの「めざめたら」です。アンドリュー・ゴールドとの3作ですが全てアルバム最後はバラードで終わっていますが、なんともドラマチックな仕上がりです。のびのびとした歌唱にボーカリストとしての演出力を聴くことができます。地味ながらも凝ったドラムプレイもドラマチックにバラードを効かせます。


画像8

FLASH IN JAPAN 1987年5月18日
A面
1.Something Real
2.Take It Time
3.Flash In Japan
4.Island Hotel
5.Secret Love
B面
1.Tokyo Nights
2.Long Nights (Samayoi)
3.Yoko
4.Umbrella
5.Hurricane

 海外進出に関してのプロモートに関するサポートを行わなかったワーナー・パイオニア、永ちゃん自らワーナーブラザーズと87年3月に契約を結び全米のみでリリースした日本国内未発売の海外盤アルバム第三弾は、アンドリュー・ゴールドプロデュース、アメリカ人作家の新曲と「YOKOHAMA二十才まえ」「東京ナイト」からセレクトされたアルバムとなった。日本国内発売がなかったのは、アメリカでの売り上げを見たかったとコメントし日本語曲も収録されているのが興味深いですし、英語詞が当たっているリリース済みの楽曲に関しても違和感がなく、英語日本語が並ぶ一枚のアルバムとしても非常に楽しいレコードとなっています。なお99年に国内盤CDがリリースされ容易に聴くことができます。
 
 アルバムのオープニングを飾る「SOMETHING REAL」は、TOTOとも繋がりのあるMr. Misterも後に録音しリリースした典型的な80's USロックサウンドとなっておりバキッとしたベースとドラムのノリがなんともたまらないボディビートです。「YOKOHAMA二十才まえ」収録の「Take It Time」に続くアルバムタイトルナンバーは「Flash In Japan」アメリカ人ソングライターによる広島の原子爆弾とうかを題材にした反戦歌です。永ちゃんが被爆2世であることを知らずこの曲が提供されたそうです、ミュージックビデオ制作されシングルカットもされた曲です。オリエンタルなメロディのシンセサイザーリフ、アコースティックギターの美しいバッキングに切ないメロディーが非常にエモーショナルなロッカバラードです。「東京ナイト」収録の「Island Hotel」、同アルバムの「Secret Love」の英語版でA面がクロージングします。

 B面はアルバム「東京ナイト」からセレクトされた曲が並び、「東京ナイト」英語版「Tokyo Nights」、「止まらないHa〜Ha」英語版「Hurricane」の二曲が英語歌唱、他は既出曲で「さまよい」改題され「Long Nights」に「傘」も改題され「Umbrella」、シングル「Flash In Japan」にカップリングもされた「Yoko」もアルバム「東京ナイト」と同一音です。
 

 以上、矢沢永吉ディスクレビューパート4 ワーナー・パイオニア編(2)でございました。大人のリゾート感から非常に過激かつ意欲的な最新サウンドを求め、やんちゃな矢沢永吉へ回帰したワーナー・パイオニア時代の永ちゃん。ライヴエイドや海外リリースがあったものの海外での大成功を果たすことは叶わなかったが、所謂洋楽と遜色のないクオリティの作品をリリースしつづけていたのはアルバムを聴けば理解できるでしょう。88年に入るとワーナー・パイオニアを離れ東芝EMIに移籍、国内ではBOØWYやブルーハーツがデビューしバンドブームが始まっており、その中で国内へ目を向けた活動を行いベテランの一言では済まないシンプルなロックサウンドを展開し始める昭和終盤、東芝EMI時代のアルバムをレビューしたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?