藤井猛生誕祭
駒テラスで行われた「藤井猛生誕祭」に参加してきました。
「生誕祭」と名の付くイベントは将棋界初?藤井猛九段のイベントにふさわしい新手感あるイベントに藤井ファン界隈は盛り上がり、100名を超える応募者の中から(抽選で)選ばれし30名が集いました。
内容はSNS投稿禁止、というかとてもオンラインには残せないものでした。「どういう話題があったか」ということも書きづらいほど。なので浅いレポートや感想、改めて藤井先生に対して思ったことなどを書いておきたいと思います。
※もし内容に問題があればご指摘ください。
イベントプログラム
出演は藤井猛九段と山本博志五段で、プログラムは以下の通り。
トークショー①②がメインディッシュ。山本先生は「藤井先生のお陰でプロになった」と公言する棋士。「藤井猛生誕祭」というイベントですが、山本先生も間違いなく今日の主役の一人です。
イベント開始前
枯れた将棋ファンなので、開始直前に会場入り、一番奥の隅っこに座り、密やかに過ごし、会場の空気全体をじんわり味わうのが私の定跡。身バレも怖いですしね。
しかし会場に着いた瞬間、目が合った藤井先生や山本先生からなぜか拍手が(?)。奥に行こうとすれば私をご存じのファンの方に「涓滴さんは前に」「大丈夫です前に座ってください」のやり取りを数回(お気遣いありがとうございます)。ようやく隅っこを勝ち取りましたが、どうも流れがおかしい。
そして少し遅れた参加者を待つ時間、いきなり事件が起こりました。
いや身バレ怖いとかそういうレベルじゃない。
「こちら長年のファンでファン代表の涓滴さんです」「アッ、ケンテキデス」のとき、参加者の方から温かい拍手を頂きました(なんの拍手?)。でも、藤井先生に紹介していただいたということや拍手を頂いたということは人の優しさに触れた感じがして、本当にありがたかったです。自分ではファン代表でも何でもないと思っていますが。ただの藤井ファンです。
その後山本先生から藤井先生への誕生日プレゼント。
今日はずっとこんなほんわかふわふわはっぴー!なイベントと思っていましたが……。
山本五段が語る!藤井九段の魅力
ここからは内容非公開。単なる私の感想です。
私は藤井ファンを25年以上やっていますが、それでも内容は浅いもの。将棋も解説を聞かないと分からないですし、稀にしかお会いしないので藤井先生の本当の人となりを知っている訳ではありません。
そこで間違いなく藤井九段のことを深く理解している山本五段の口から何が語られるのか、大いに興味がありました。
山本五段の藤井先生に対する想いについては、以下のエントリーをぜひご一読ください。
ここで嬉しかったのは、山本五段の手には大量の印刷用紙があって、今日のために色々準備してくださったのが分かったこと。ありがたいですよね。
このコーナー、山本先生の褒め倒しに藤井先生がむず痒くなってしまうような、そんな展開を予想していたのですが、実際そんなことは無かったです。山本先生が言う藤井先生の魅力に対し、藤井先生は厳しい顔で「専門家なんだから当然でしょ」という姿勢。ここは声に出さねど会場全員が「(藤井先生カッコいい)」と思っていた自信があります。
山本先生が藤井先生のことを語るとき感じるのは、奨励会2級に落ちた山本先生が、いかに藤井将棋に救われたかという実感が滲み出ていること。藤井将棋にただ感動しただけでなくて、自分を変えて結果を残してきた。そういう人が語る藤井将棋の魅力が、心に刺さらない訳がない。
色々話はありましたが、2012年度の将棋には多くの時間が割かれました。2011年度、山本先生も苦しく、藤井先生もB級2組へ降級した苦しい年度でした。重たい。もはや「藤井猛生誕祭」という雰囲気の内容ではなくなりました。しかし2012年度、藤井先生は王位戦挑戦を決め、B級1組への昇級も果たします。結果だけ見ても劇的ですが、将棋の内容も素晴らしいものが多く、王位リーグや順位戦はぜひ並べて欲しいです。
そして、このコーナーで素晴らしかったのは、山本先生が語る藤井先生の話から、藤井先生が自らこの頃の将棋を振り返る流れになっていったこと。
この頃の藤井先生のことについて、先崎学九段も『先ちゃんの浮いたり沈んだり』で一つエピソードを書いています。
藤井先生はこれまで、ご自身の将棋や結果についてファンに語るとき、他律要因的な話を一切してきませんでした。確かに藤井先生は間違いなく一人で自分の道を切り拓いてきた人です。しかし『藤井猛全局集 竜王獲得まで』『藤井猛全局集 竜王三連覇とA級の激闘』、そして「藤井猛生誕祭」では、先崎先生を始め多くの棋士の名前が出てきました。
プロ棋士は一人で、答えのない研究をずっと続けながら、なおかつ勝ち続けなければならないという、非常に厳しい使命を抱えながら生きていると勝手に思っています。特に藤井先生は他の棋士との繋がりついて語ることが少ない。棋士は倒さなければならない相手。そこでふと、人との繋がりが出てくるのがたまらなく嬉しい。表面的に色々思い、思われることはあれど、結局棋士はこと将棋において、深い信頼関係で繋がっているんだなと思いました。
私も2012年度は藤井将棋は熱狂的に見ていました。王位戦も長野、長崎、徳島と現地観戦行きました。藤井先生がこの頃の将棋のことについて語られたことによって、将棋を見て色々思ったことの答え合わせができたと思います。
藤井猛九段の軌跡
「山本五段が語る!藤井九段の魅力」では山本先生によって2010年頃の藤井先生が語られましたが、ここからは藤井九段がメインスピーカー。子ども時代、将棋を覚える前、はさみ将棋をやるところから今に至るまで、何を考えながら、なぜその将棋を指してきたかという話を聞くことができました。
藤井先生「ファン代表の方はいつからのファンでしたっけ?」
涓滴「1997年です」
という大事故レベルの会話を交えながら。
途中、藤井式上達法の話も。
似たような話は以前から公言されています。
しかし大事なことは、「藤井猛生誕祭」で少し補足されましたが、ボコボコにするにしても丁寧に指すこと。勝った将棋もちゃんと振り返ること。藤井先生の記憶力の良さは至る所で語られていますが、藤井先生ご自身もこうした「振り返り」によって記憶の定着力を上げているのではないかと思っています。それに勝って楽しく上達するというのも、裏返せば将棋に負けるつらさを人一倍知っているということだとも思っています。
今回「ぴよ将棋」がおすすめされましたが、ボコボコにするのが飽きたら次のレベルでやってみる等、レベル設定できるのが良いみたいです。
また、藤井先生がプロに入ってから、目標を立て、それに向かって突き進んでいった話もありました。これも『藤井猛全局集』で話が出てきましたが、これまで表に出てくることはありませんでした。藤井先生は不言実行の男なんです。
私も、わざわざ棋士は心の内をファンに公言する必要は無いと思っています。ファンと言うのは将棋の内容や結果、食事の内容からでも勝手に妄想して、勝手に楽しめる人種なので。気が向いたらたまに喋っていただければそれもそれで嬉しいですけどね。
藤井九段の目標立ての話は普通に一般会社員にも通じるところがあります。単に目標を考えてできるできないの話ではなく、自分の立ち位置を理解した上で目標を設定し、達成していく。よくある話ですが、ちゃんと実現していける人は多くありません(自戒)。
「ここ一番に勝つ」話になる時、居飛車穴熊を相手にしたくないから藤井システムを開発したと言うのは常軌を逸していますが、それでも根本は、藤井先生がご自身の力を見極めた上で、その目標に向かって邁進していった話です。
将棋は負けたらまた来期、順位戦を1年間好成績で戦い抜かなければならない、トーナメントの下から這い上がっていかないといけない。それは見る側も容易に想像できるつらさですが、それが藤井先生にとってどれ程のことだったか。勝たなければいけない、負けたくない。ちょっとした精神的な揺らぎでも将棋の内容や結果に影響を与える。「藤井猛生誕祭」ではそうした正直な心境が吐露されたと思います。しかしそれでも、研究に没頭し、ギリギリの勝負を勝ち切って結果を残してきた。藤井将棋にはそうした苦労が垣間見えるから、藤井ファンは藤井先生が勝った時にめちゃくちゃ喜ぶんですね。
このコーナーが終わるころ既に終了予定の17:00を超えていました。藤井先生の魅力や軌跡を語るには3時間じゃ全然足りない訳です。
その後は質問コーナーと両先生からのご挨拶、サイン会や写真撮影と続き、終わりは結局19:00を超えていました。
サイン会はリクエスト自由と言うことで、藤井先生には「涓滴」を、山本先生には「藤井先生」をお願いしました。特別な日に特別な二人による特別な揮毫を。
私は長年の藤井ファンですが、藤井先生はこれまで変わらずご自身のスタンスを貫き続けてきました。それはきっとこれからも変わらない。私もそんな藤井先生を応援し続けると思います。
将棋ソフトが台頭しても藤井将棋が全く通用しなくなるとか、魅力的でなくなるということは絶対にない。将棋ソフトがやや評価しない世界であっても、それが藤井先生によって独創的に構築された世界では、藤井先生にアドバンテージがあります。序盤の形であっても、中盤の攻防であっても、終盤の手筋であっても、どこにでも藤井先生しか知らない世界があるはずです。私は今後も藤井先生にしか指せない将棋を応援していこうと思います。
イベント終了後
イベント終了後、山本先生があのボードのあの場所に。大団円です。
「藤井猛生誕祭」、まさにここだけでしか聞けない話のオンパレードでした。棋士のクローズドイベント、ファンが棋士の本質に触れられる機会です。今日は藤井先生の話でしたが、別の棋士がまったく同じテーマで話せば、まったく別の話になるはずです。今後も多くのクローズドイベントが開催され、多くのファンが参加できますように。
ただ、時間オーバーについて、とにかく全員が寛容でありがたかったですが、帰らなければならない等の理由で全員が同じサービスを受けられない不公平感が生まれかねないので、タイムマネジメントは厳しめにされた方が良いのではないかと思いました。
とは言え、素晴らしい内容であったことは間違いありません。「生誕祭」らしからぬ重たい内容でしたが、でもそれが良く、棋士が生きている世界の厳しさを教えてもらえた気がします。
また、多くのファンの方に声をかけていただいたのも嬉しかったです。
藤井先生も山本先生も、運営の方も参加されたファンの方も、皆さんありがとうございました!