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ブリューゲルは脱キリスト教視点

ピーテル・ブリューゲル 雪中の狩人(Pieter Brueghel_Jagers in de sneeuw)
ブリューゲルといえば、この絵を思い浮かべる人も多いでしょう(昨年開催された展覧会では「バベルの塔」が前面にでていましたが)。中学校の美術の教科書にも載っていたっけ?

この絵が描かれた1565年は歴史画や宗教画が一般的なモチーフで、パトロンに依頼されたとして風俗を描くことは少なかった時代です。
私は画家の作品にはその画家が見ている世界が投影されていると言いますが、この依頼された絵にもそれが見て取れると思います。

再度言います。この時代、風俗画はまれでした。なぜこの風景で風俗を描いたのか、それは画家が感じた世界の構造を表現したかったからでしょう。

雪の山間集落で、狩から戻る狩人が猟犬を引き連れています。獲物が少なかったからでしょうか?狩人や犬の足取りは重く力なく歩いています。遠景には凍った池でスケートを楽しむ人たち。その対比が生活の貧富や人生の浮き沈みを鑑賞者に問いかけます。これがブリューゲルが感じた、「世界」なのです。

それまではイエスや聖人が絵のモチーフでした。キリスト教ではそれが世界だからです。画家は自分の世界観(キリスト教世界)を描いているのです。ルネサンスが終わりに差し掛かり、キリスト教の縛りが少し緩むことで、風俗などに世界を見出す視点が生まれてきたのでしょう。ブリューゲルは脱キリスト教視点という転換を成し遂げたのです。

補足:それまでも肖像画などの人物画は描かれました。でもそれはカメラのない時代に画家の芸術性ではなく写実的に書ける技術力が発揮されたに過ぎないと考えられます。

なお、紛らわしいことに、長男も画家ですが名前が同じでピーテル・ブリューゲルです。その弟は(つまり次男)ヤン・ブリューゲルというのですが、彼も息子に自分と同じ名前をつけて、4人とも画家!美術史上やっかいな一家です。

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