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BARは楽しい

いつでもカメラを持っているのは、もう20年近く。
良いなって思った時にカメラがあって欲しい、というだけではなく、「写真に撮りたいって思った時に限ってカメラを持っていない」という経験が多すぎたからだと思っている。
 
最初の頃は、何となくその日食べた物を記録し、散歩(通勤?)しながらも撮影し、飲んだくれる時も気になる物があったらカメラを向ける。
今でこそ食べる物を撮る事に飲食店側も慣れてきたけど、最初の頃は「何事?」って顔をされる事も多かった。

BAR Three Martini
EOS 5D MarkⅡ EF24-105mm F4L IS USM
ISO1250 f/5.6 1/6s 73mm

多くの人達と一緒に飲むのが苦手な自分は、いつの間にか1人で飲むのに適したBバーで飲む事が多くなった。
 
バーには魅力的な酒があり、また独特の雰囲気があって、ちょっとした物でも撮影したい輝きがあったりするから、飲みながらそんな輝きを切り取ったりもする。
(バーがそれを許すなら・・だけど)
 
勿論、言われなくてもしてはいけない事がある。
それは、あからさまに他の客を撮らない事。
背景に写り込む場合はピントが完全に外れていて、誰だかわからない事が必須となるのは言うまでもない。
 
だから私の場合、撮った写真は積極的にバーテンダーに見せる。
そうする事によって私が「飲み物を主体に撮る人」と認識され、店の調度などを撮った時も見せて、例えばブログ等でアップしても問題ないかを確認するようになっていた。

BAR SHOW TIME
EOS KissX6i EF35mm F2 IS USM
ISO1600 f/3.2 1/50s

バーは暗い。
 
灯りは飲み物が魅力的に見えるよう、また同席する他者の存在を隠すようなセッティングがなされる事が多い。その事により酒が主役となりやすくなり、1人で飲む時は自分と酒との会話に入りやすくなる。
 
「夜目遠目笠の内」とは言ったもので、そんなシチュエーションでは同席する人も魅力的に見えるし、調度や食器も輝きのコントラストが増して、グラスの底に刻まれたメーカーロゴさえも魅力的に見えた。

BAR CABLE CAR
EOS R RF35mm F1.8 MACRO IS STM
IS01600 f/3.5 1/20s

今でこそメジャーになったモルトウィスキーだが、NHK朝ドラの「マッサン」によって広く知られ、サントリーとニッカ(アサヒビール)は最初から美味しく、放置しても味が変わりにくい造りにシフトした。
 
チューハイ嗜好がハイボールに変化したのは、ベースの酒が少なくとも3年は熟成しているウィスキーと、場合によっては焼酎甲類を使う物とでは美味さが違って当たり前。サントリーの戦略でハイボールにレモンを入れるスタイルが巷に溢れ、CMの効果もあってウィスキー人気がさらに盛り上がる。
 
だけどモルトの魅力は、カクテルで引き出される事は希有。
ストレートで飲む事を前提に調整されている酒に、何かを混ぜる時点で本来の味が消えてしまうからに他ならない。
 
ちなみに、モルトウィスキーには2種類あって、加水されアルコール度数を調整されたスタンダード品と、樽から出した状態の物を瓶詰めしたカスク物がある。
 
当然だが、カスク物は樽それぞれでアルコール度数や風味が変わるので、アルコール度数・蒸留年・瓶詰め年・樽ナンバーなどに加えて、その樽から何本瓶詰めし当該ボトルの通しナンバーが付けられる事もある。
 
一樽で何本とったかを見れば仕込んだ樽の大きさも予測できるので、熟成による蒸発分(エンジェルシェア)を計算して樽について考えるのもモルトラバーの楽しみだった。
 
だが、今のモルトは以前の様に1杯を30分かけて飲むような酒ではない。最初から美味しいけど変化しにくい物が多く、客が一杯に費やす時間を短縮させる事で回転率を上げる作戦が見え隠れする。
 
コアなモルトラバーは、注がれたウィスキーが時間をかける事で開いていく楽しみが失われたとガッカリし、貴重な原酒を高く売りさばいた結果が招いたNV(ノンビンテージ)酒の増産で、ビンテージ酒の高騰に悩む事になった。

Royal Ascot
EOS KissX2 EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS
IS0800 f/4.5 1/6s 29mm

「マッサン」が放映される前は、ニッカでは毎年ビンテージの入ったモルトを販売していた。
 
写真の右端にある「ニッカ シングルモルト 余市1987年」はウィスキーの国際的コンペティション「ワールド・ウィスキー・アワード」のシングルモルト部門で最優秀賞を取った20年もの。現存する未開封品で895,000円なんて馬鹿げた価格が付いているが、ウィスキーを投資対象と考える人達がそんな動きを支えているのかも知れない。
 
私自身は、スタンダードと言える8年物は8〜15分、12〜18年物は30分は様子をみたい。この3本は20年物とされているので、一杯に30分以上かけて楽しむので、樽出しに近い55%の度数も気にならない。
 
ちなみに、ワインでよく言われるブラインドテイスティングでボトルを当てるような事は、ウィスキーではかなり難しい。
何故ならモルトは樽で風味に違いがある上に、ボトルそれぞれがまた違う個性を持っていて、かつアルコール度数が高いので、味わいがマスクされやすい。
 
以前に、行きつけのバーでやらせてもらったら、アイラとハイランドの違いがわかっても、スペイサイドとアイランド系との違いが物によっては判断しにくかったし、アイラだけでやってもボトラーズが入ると全滅だったっけ。

Sirius 「Old Fashioned」
EOS KissX2 EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS
IS0800 f/4 1/3s 24mm

ホテルバーも町場のバーも通い詰めたが、サービスとクオリティが高い店が楽しい事に気がつくと、ホテルのメインバーに通う事が多くなった。
 
何故、そうなったかと言えば、揃う酒の豊富さと1ショットの量の正確さ。
さらには、集う客層の確かさが大きくて、メインバーでは馬鹿騒ぎする飲んだくれを見る事はほぼ無いと言って良い。勿論、町場のバーでもオーセンティックで客単価が高い店は同様だが、敷居の高さはホテルのメインバーを超える。
 
行きつけとなったホテルのメインバーは「横浜ロイヤルパークホテル」の「ロイヤルアスコット」で、場所がなんと二階。眺望が売りのホテルで外も見えない二階のバーに集う客は、正に酒好きな人達ばかりで面白かった。
 
バーテンダーは技術職なので70階の「シリウス」に異動する事もあり、自然と70階との関係も深くなり、その眺望を楽しみたい客を招待する事も増える。
そして、そんな時に頼むのはカクテルが多く、キープするボトルも有名なスタンダード品にする事が多かった。
 
写真は「オールドファッションド」というカクテル。
本来のレシピはバーボン(もしくはライ)ウィスキーをベースに、角砂糖1ヶとビターズを数ダッシュ振ったものだが、ベースはその時入れているウィスキーを選んでいた。(正式にはスコッチ・オールド・ファッションドと言う)
 
このカクテル、角砂糖を溶かしたりフルーツを搾ったりして味変を楽しむもの。
だからこのカクテルを頼んだ時にマドラーが付いてない場合は、注意が必要だ。
 
単に、バーテンダーがマドラーを付け忘れたのならまだ良いが、マドラーが無い状況で客が悩んでも気づかない場合は、店のメッセージとして捉える必要も感じてしまう。
「この店に来て欲しくない客」として認定されたのか、「マドラーが必要な事を指摘するかどうかを見ている」のか、こういった投げかけにどう反応するかを見ている可能性が考えられるからだ。
 
私の場合は、クレームなどせずに「マドラーを下さい」と言うようにしている。
ただ、そんな出し方をするホテルバーがあったので、HBA(日本ホテルバーメンズ協会)会員でもあるバーテンダーに、「ありえる?」って伝えた事があったっけ。(凄く遠回しなクレームですな)

EOS R RF35mm F1.8 MACRO IS STM
ISO2000 f/2.8 1/60s

バーに限らず、同じ店に通い続けると顔なじみとなり何かと融通が利くようになるのは、世の常。「寿司屋は顔」と言われるように店との距離によって待遇が変わる場合は多くあって、バーではそんな傾向が特に強いように感じている。
 
で、ホテルバーの場合はスタッフに異動があって、それがホテルの各所に配置される事から、あらゆるシーンで便宜を図ってもらえる事も増えるのが、見えにくい利点だ。
 
町場のバーだと、その店のスタイルがあるので難しいが、良く行く店だと座る位置を決めてくれたり、放置の仕方を覚えてくれていたりするので、結果的に居心地が良くなって通ってしまう事になりやすい。
 
ただ、そんな店でも、守らなければいけないルールがそれぞれにある。
バーのカウンターは聖域で、店によっては何も置かせない事もあるし、隣に座った人に声をかける場合は、何かを奢る事を求める店だってある。
 
ホテルのメインバーだと格式によってドレスコードがあったりするが、幸い私が通ったバーは、タンクトップ、短パン、ビーチサンダルがアウトな所謂スマートカジュアル指定ではあった。

Royal Ascot
EOS KissX2 EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS
IS0800 f/5.6 0.6s 55mm

バーで一番好きな時間は、他の客が帰った閉店前。
その静かな時間に、1日の終わりを感じつつシメの一杯を楽しむのは、バーならではのものだと思っている。
 
自宅そばにあった町場のバーでもそうだったけど、その店は客が帰らないと店を閉めないスタンスだったので、周りが明るくなってきて帰る・・という馬鹿な飲み方をする事も多く、寝不足に陥りやすかった事を思い出す。
 
ただ、その店ではモルト以外の酒を飲む事が多く、そこで様々なリキュールの味を覚えたのが面白かった。
アブサン、ウゾ、コアントロー、シャルトリューズ・・等々、それらをどうやって楽しく飲むかをバーテンダーと話しながら試す時間は、その後の飲酒ライフの幅を広げてくれたのは言うまでも無い。

EOS KissX2 EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS
IS0800 f/6.3 1/10s 55mm

東日本大震災で深夜営業が自粛され、新型コロナウィルスによって営業時間を大きく削られた酒場は、1年以上続いた自粛営業に慣れてしまった客の行動もあって、日を跨ぐ営業をする店が激減した。
 
「昼間から飲める」、「夜中でも飲める」といった店が減ると、自分としてはかなり悲しい。
 
上質な酒が揃う店が少ない上にそんな傾向だと、飲んだくれな自分としても自宅で飲もうという気にさせられる。だけど不思議なもので、自宅だと量を飲む気になれないのだ。
 
バーの魅力とは「その空間で飲む時間」という事。
時間を費やす贅沢を一緒に味わうから、楽しいのだ。
 
それにしても、11波急拡大とのニュースを見て、またこの楽しい時間に規制が入る程の感染拡大にならない事を祈るばかり。
酷暑故のマスク外しは熱中症予防の観点では必要なので、避けられない状況だとわかっていても、酒飲みには厳しい時代になったものですね。

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