健太しゃちょう 弾丸漫遊記 中編(ニセコ・クッチャン町編)
まんゆう
【漫遊】
《名・ス自》気のむくままに、諸方をまわって遊ぶこと。 「諸国を―する」
【セミナー編】
「八幡地域センター」
おそらく農協か行政の施設であろうと、目星をつける。都市部のように建屋が密集しているわけではない。まさか見逃すことはあるまい。道路の両側をみてもポツンポツンとしか建屋、あるいは民家はないのである。
Google先生曰く。
「目的地に到着しました。お疲れ様でした」
え、うそ?まさかの通過?
言われてみれば確かに。雪国特有の除雪された雪壁が両サイドにそそり立っている。その見えざる向こう側に隠れる形で目的地があるのか?!
だとしたら探す難易度、高過ぎないか?
ニセコの道幅と交通量を考えれば、その場でのUターンは容易ではある。
折り返して戻る。
またもGoogle先生曰く。
「目的地に到着しました。」
また通過。マジか。ホントにあったか?
結局車を降り、絞られたターゲットゾーンを歩いてよく見れば雪壁には車一台分の入り口があるじゃないか。雪壁の後ろに隠れるカワイらしいコンクリ建屋こそ、八幡地域センターであった。
よしよし。ちゃんと15:00に、15分も余裕を持って到着できたじゃないか。(Google先生の勝ち)
公民館というか公的施設というか、コンクリート建屋の駐車場は車で一杯であった。
受付を探して建屋に入る。
右の部屋は照明を落とし、なにやらスクリーンを見ながら話をしている。
お目当てはこれではなかろう。まだ14:45なんだから。
しかし、正面の部屋はお年寄りがサークル活動か何かをしている。
左の部屋は完全なる空室。
「どういうこと?」
右の部屋からオジサンが(私もオジサンだが)顔を出して声をかけてくれる。
「農業?こっちだよ。早く入りなよ」
なんでー!?
始まっとるんかい!結局遅刻かーい。
講堂はじゅうたん貼りで椅子が50脚ほど並べられ、立ち見もいるようなごった返した、熱気あふれる状況である。
雛壇には中心となる農家さんが3人。スクリーンに資料を投影しながらお話をしている。
もう、「ホントは何時からだったのか論争」は置いといて、速やかに合流しよう。
お、よしよし。最前列に空席発見。
身をかがめ、手刀を小刻みに切りながら最前を図々しく横切って空席に滑り込む。合流完了。
そもそもなんのセミナーに参加しに来たのか説明してませんでした。
「直播無湛水水稲栽培」
である。
苗作るのでなく。いきなりモミを田んぼに撒いちゃう。
おまけに水も貯めない。
え?畑じゃん、それ。畑作じゃん。
そう、正しい。まさに畑である。
そう言うチャレンジングな栽培に挑戦し、成果を出している集団の集まりに、わざわざ静岡から来たのである。キノコ天丼を食べに来たのではない。
いち早く、未踏の栽培に挑戦し、成果をあげ、またそれを惜しげなく誰かに伝えようとする彼ら(今回のメインは3人)は、私の中では尊敬すべき人物達であり、アイドル同様の扱いをして差し上げてたいと、心から思う。聴衆席から蛍光ライトペンを振りたい気持ちを抑えるのだった。
セミナーというよりは、実績報告をしながら質疑応答を交え、観衆側ともやりとりをしながら、和やかな雰囲気の集まりであった。
日に焼け、エネルギッシュな雰囲気のA柳氏が司会進行。彼がこの倶知安の生産者らしい。
やや細身のK合氏がYouTubeで発信し、バズったのが今回の盛り上がりのきっかけだ。いわゆるYouTuberである。
そしてY本氏はガッチリの温厚そうな人で初期からの成功事例を作った立役者だ。素晴らしい。
聞く話はあくまで聞く話。私が欲しいのは「情報」ではなく「体験」である。また、この挑戦者たちの「体験」を、私が「二次体感」したくて、わざわざニセコまで来たのである。
キノコ天丼を食べに来たのではないのである。
マイクを握り、この栽培、取り組みの可能性について語るK合氏。
ぐっと力を込めて語る瞬間瞬間で、チラと目が合う。私は小さく頷く。(もちろん初対面)
またグッと力を込める瞬間で目が合う。私もまた小さく頷く。何度かそんな雰囲気を繰り返した。
「なんだ。良く目が合う」
「私に気があるのか」(自意識過剰)
「ないのか。なんならこちらはあなたに気があるぞ」
まあ、それだけ、場が一体感を持っていたってことですよね。(笑)
私も雛壇に立って話をする機会はありますが、聴衆と目があったり、頷き返しがあったり、質問が飛び交ったり、雛壇⇆聴衆の親和性が高いセミナーとかって、大体「良いセミナー」ですよね。
観衆が無反応で目も合わないセミナーで雛壇に立っちゃうと「ここに並んでいるのは全部コケシではなかろうか」とでも言いたくなることもある。
それだけこの「直播無湛水栽培」のセミナーに集まった面々は等しく、強く、同じテーマに向かって、強いモチベーションを持っている、ということなのだ。
同じく、強く、課題を解決しようという意思を持っていた、ということなのだ。
議論百出。私もたくさん質問をさせてもらい、また丁寧に答えてもらった。しかし、「正解を答えてもらったのではない」。彼らもまた、試行錯誤中なのだ。
この後は、私もその試行錯誤の輪に交えてもらいたいと、強く願うのだった。
※セミナーの内容はこの漫遊記では深堀しない。
他にも資材屋さん、保険屋さん、機械屋さん、財団や農業プロデューサーなど、様々な立場の人々が、熱い眼差しで場を見つめていた。「ここから、必ず日本のナニカが変わる」
そんな予感や期待感があり、おそらく早々に確信へと変わるのだろう。
【懇親会編】
無事セミナーを終えたので、次は図々しく懇親会に参加である。地元の「リストランテ・さかもと」さんへ移動して、会はなごやかに始まる。メイン講師の広瀬氏ともようやくここで、ご挨拶である。
「また来たな、変態王子。ついにはニセコまで」
もう、私への愛を込めた敬称である。(自称ではない。あくまで他称である)当初変態大魔王とか呼ぶので、お年頃を考え配慮した愛称への変更を依頼したのだ。
広い変態界において、大魔王を名乗るのは、まだ憚られる。王子が妥当だろう。むしろ大魔王はアンタや。
強く脱線した。戻ろう。
今日の日のために増刷をかけた名刺を、印刷屋から届いたまんまの紙箱から取り出して交換する。
もう、皆さんご存知のズボラさである。朝、部屋が暗く、皮の名刺入れを見つけられなかったのだ。
北海道の、どうもニセコ・倶知安だけではない。道内各地から。また山形、福島からも生産者、関係者が参加。それだけ、すべての農業者にとって、注目のコンテンツなのだ。
絶対友達になって帰るぞ、という油ぎったオジサンから発せられる強い圧とオーラを、先方がどう捉えたかは知る由もない。知りたくもない。(知るのは怖い)
会では各々の状況や背景、取り組み、未来展望などを肴に酒席も多いに盛り上がった。広瀬氏からはサプライズ計画発表などもあり、農業会、100年に一度レベルのゲームチェンジが予想された。(さまざまな企業にとっての発表前情報が多く含まれすぎ、とても私の独断では掲載できず 笑)
とにかくも、語り、飲み、食い、そして語り、ひたすらに盛り上り、笑い、また語り合った。
そう、繰り返すが、私はキノコ天丼を食べに来た男ではないのだ。
このアツい会は知らぬまに近隣スナックに場所を変え、更に温度感を上げて、農業と日本の未来が語られるのであった。
総括して「めっちゃ楽しい飲み会だった」と、詳細に表現しておこう。(わー。簡単)
後編に続く
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