「管楽器の音色は私達に『あなたは無条件に愛され大事にされる存在』と伝えている…かも」
赤ちゃんは何でも初めて見たものは口に持っていこうとします。これは食べようとしているわけでなく、この時期の赤ちゃんにとって口が最も感覚の鋭い信頼できる感覚器官だからです。
このように、口の感覚が最も信頼できるために、口を中心にして、自分も含めた世界を感じ取っている時期を心理学では口唇期(0~1歳半くらい)と呼びます。
口唇期において赤ちゃんは、自分の身体を思い通りに動かすことがまだできませんので、周りの人にさまざまなお世話をしてもらいます。
そういった経験のなかで赤ちゃんは『体をうまく動かせない無力な私が皆に大事にお世話をしてもらっている…私は無条件に愛される大事な存在なのだ』と思います。
これにより心の深い部分で、口の感覚と『私は無条件に愛される(無条件に生きていてもいい)』という感覚が結びつきます。
人が失敗したりしてストレスを感じたときに、口を刺激する行動、お茶を飲む、ガムを噛む、やけ食い…等々をするのは『失敗したけど、自分は無条件に生きていていいはずだから、この失敗で私の生きる意味、価値、理由はなくならない』と無意識に自分に言い聞かせているのです。
話は飛びますが(あとで元の話につながります)私達の心には『共感』という働きがあり、他者がしていることや感じていることを、個人差はありますが自分のことのように感じます。
また、さらに話が飛びますが(これもあとで元の話につながります)シンセサイザーができた初期の頃、「音色」は音の波の形によって決まるという考えに基づきコンピュータで波形を再現したところ、もとの音色とは違って聴こえたそうです。
(このことから音色は波形だけできまるのではないことがわかり、今では楽器の音色はコンピュータによって一から合成するのではなく、サンプルとして録音した音を加工するのが主流になっているそうです。)
波形だけでないなら「音色」って何なんだ?と研究者が調べたところ、音の立ち上がりから減衰までの、大きさ、高さ、波形の全ての変化が音色に影響しており、それらは脳がその音がどのように発せられたかを推測する過程と関わっているそうです。
なので、私達は管楽器の音色を聴いたとき、無意識にその音色から、その音を出すときの口の感覚を推測して共感しており、さらにそれは心の奥の口唇期の記憶を呼び覚ましている…のかもしれません。
もしそうだとすると管楽器の音色は私達に『あなたは無条件に愛され、大事にされる存在』と語りかけていることになります。
吹奏楽を聞くと『今、私が生きていることが、私の生きる意味だ』と思えるかもしれません。