人間関係の心理
人間関係には「力の関係」と「距離の関係」という法則があります。
「力の関係」は「高圧的な人に対して抵抗せず服従すると、より高圧的になることが多い」という非対称的な関係であり、
「距離の関係」は「人は自分に好意を持ってくれた人に好意を持ちやすい」という対称的な関係です。
平和が破られるのは「力の関係」により、人間関係に上下の差が広がっていき、それが耐えられないレベルに達して爆発し暴力となったときです。
(例えば自殺は、自分自身への暴力であると同時に、相手への社会的制裁を狙った間接的な攻撃です。)
そうなると、関わっている人すべてにマイナスな影響が出ます。
よって、耐えられないレベルになる前に「力の関係」の法則が働くのを止める、すなわち、服従や暴力的反撃ではなく平和的な抵抗、すなわち言葉で抵抗することが大事です。
具体的には『私は嫌です』『その命令には従いません』『その要求を拒否します』等、毅然と言うということになります。
(ただし、抵抗といっても相手の人格を攻撃するのは絶対にダメです。相手の命令や要求、ハラスメント等の「行為」のみを拒否して、相手の「人格」は尊重します。そうしなければ、相手はその抵抗に対して全面的に戦わざるを得なくなりますので、平和的に解決できなくなりますし、社会的制裁や法的な罰を受ける可能性も出てきます。
また、この抵抗の仕方には心理学的な理由もあります。
人は基本的に自分自身を「良い存在」であると信じてます。それ故、相手の「人格」を責めず、相手の「行為」によって感じた悲しみや辛さを冷静に伝えると、相手は「良い存在である自分が、意図しない苦しみを与えてしまった」と後悔し、攻撃が止む可能性が高いのです。
しかし、相手を感情的に責めてしまうと「良い存在である自分を攻撃する相手は悪い存在であるから、攻撃しても良い」と考え、攻撃が強くなる可能性が高まります。)
そのためには二番目の「距離の関係」を上手に利用する必要があります。
というのも、人は一人ぼっちの時は、権威や暴力、脅しや雰囲気といった高圧的な人が相手を服従させるときに使う手段に抵抗するのは難しいからです。逆にもし仲間が一人でもいれば、抵抗できる確率が上がります(例;ミルグラムの「服従の実験」)。
したがって「距離の関係」を上手に使って普段から仲間を作っておけば、被害が小さいうちに、理不尽な攻撃に対して仲間とともに平和的に抵抗し「力の関係」の法則を止めることが出来ます。
では、具体的に「距離の関係」を使うにはどうしたらよいのでしょうか?
「距離の関係」によれば、人は自分に好意を持った人に好意を持ちますので、仲間になってほしい人に好意を示すことが大事です。
さて、人は好意を示す方法として「自己開示」や「自己呈示」を行います。
「自己開示」は「相手を信頼して自分の心の内面を打ち明けること」であり、
「自己呈示」は「相手に良い印象を持ってもらおうと自分の良いところをアピールすること」です。
しかし、この二つもうまく使わないと逆効果になります。
「自己開示」には相補性というものがあり、自己開示された相手は、自分も同じくらい深い自己開示をしなければならないと感じます。よって、まだ信頼関係が築けていない人から突然深い自己開示をされると、『えっ、そんなに深い自己開示をまだ返せない』と感じて逃げたくなります。
従って、自己開示をするときは相手との心理的な距離を測って、それに見合った深さか、それよりもちょっとだけ深い自己開示をすると信頼関係が深まります。
「自己呈示」はもっと注意が必要です。人は無意識のうちに他者と自分を比べていますので、自分より素晴らしいと思う人に出会うと悔しい気持ちになったり嫉妬したりします。よって、自己呈示をされると、『自慢しやがって…』と嫌いになりがちだからです。
それ故、この自己呈示によって好感度を上げるには、憧れの気持ちを抱かせるくらい、その良いところをずば抜けたレベルにして嫉妬を感じさせないようにするか、『相手の良いところは、自分の良いところに感じられる』と一体感を感じるくらい深い人間関係を作っておく必要があります。
(他にも、自分の良いところと同時に自分の欠点も同時に呈示する2面呈示や、自分と相手の共通点、例えば出身地などを探し出して強調し、一体感を高めるといったテクニックも有効です。)
こういったことに注意しながら、普段から仲間を多く作っておく努力をし続けることが、力の法則が働くのを防ぎ、平和を保つことにつながります。
余談︰このことは、国と国同士の関係にもだいたい当てはまります。
平和を維持するためには、多くの国々と、それぞれの関係性に配慮した大変な外交上の努力を永遠に続ける必要があるのです。
これは本当に大変なことでしょうから、そんなこと出来るのかなと不安になりますし、実際に、歴史をちょっとみるだけでも、失敗して戦争状態になった例がたくさん出てきます…。
しかし、クラシック音楽を聴くとそれは不可能ではないと私には感じられます。
何百年も前に作られたクラシックの名曲が、今も演奏されているのは、その伝統を絶やさないようにと、人間の一生よりもずっと永い間、数えきれないほどの人が努力を続けた結果だからです。
追記:「力の関係」も「距離の関係」も『ある行動の直後に報酬が与えられたら、その行動が増える』というオペラント条件付けから説明できます。
「力の関係」においては高圧的にでる側は『高圧的にでるという行動の直後、相手が服従した』のでますます高圧的になりますし、服従する側は『服従した直後だけは、高圧的な行動がとりあえず止む』ので(長期的には増えますが…下記補足説明参照)、服従する行動を選択しがちになります。
(補足説明、行動の直後の報酬の方が、長期的な事態の悪化よりも行動に与える影響は大きいので、人は、直後に報酬が与えられるならば長期的には事態を悪化させるとしても、その行動をしがちになります。
例えば、煙草を吸うという長期的には事態を悪化させると分かっている行動をやめることが出来ない人が多いのは、煙草を吸った直後に、ニコチンによって「頭がすっきりする」という報酬が与えられるからです。)
「距離の関係」は『相手に好意を示すという行動の直後、相手が嬉しそうな様子をするなどの対人的社会的報酬及び、好意を返すという報酬が与えられる』ので、この行動が増えると考えられます。