「好きなことをめいっぱい頑張ることで、身につく力」こそが、変化の激しい現代社会において必要です
知能テストで測られる様々な認知的能力(記憶、思考、etc)と学業成績の関係を調べると、学力の個人差のうち、知能テストで測られる認知的能力で説明できる部分は約25%くらいだそうです(Neisser et al., 1996)。
それでは、残りの75%くらいの違いはどこからくるのかというと、例えば「どれくらい自分の欲求や感情をコントロールすることができるのか」といった、認知的能力以外の部分、すなわち非認知的能力と呼ばれるものが大きく関わっていることが様々な研究で示されています。
(非認知的能力に関する研究は膨大な量がありますので、ネットでちょっと検索しただけでもたくさん出てきます)
最近の幼稚園や保育園で「非認知的能力を高める」という宣伝をよくしているのは、このためです。
そういった非認知的能力を高めるには、どうしたら良いのでしょうか?
子ども達は、自分達自身の成長にとってどんなことをすると良いのかを知っています。人間は自分の成長にとって必要なことは「楽しい」と感じるように出来ているからです。子ども達が遊びに夢中になるのは、それが、彼ら・彼女らの成長を促進するからです。
従って、非認知的能力も、そういった遊びの中で大きく伸びていきます。例えば、お友達と仲良く遊ぶためには、自分の欲求や感情を上手にコントロールする必要がありますので、遊びの中で、非認知的能力もどんどん伸びていきます(もちろん、遊びによって認知的能力も伸びていきます)。
しかし、子ども達だけでは解決できない問題に直面することもありますし、感情のコントロールに失敗して、大泣きしてしまうこともあります。
そんなとき、周囲にいる大人や、より年上のお友達等が、お手本や解決のヒントを提供したり、一人ではできなかった感情のコントールのお手伝いをすることで、そういった課題を乗りきることができると、子ども達は、その度に、そういった自分の外にある「サポート機能」を少しずつ心の中に取り込んでいきます。
例えば「こんな事があった、悲しかった。」という子どもの話をよく聴いて気持ちを受けとめ、慰めてあげる…という関わりを養育者が何度もしてあげると、やがて、そういった「慰めてもらった記憶」を材料にして、子どもの心の中に、この養育者と同じ働きをする機能が作り上げられます。
ショックを受けたりストレスを感じたりしたとき、自分自身の髪の毛を触りながら「大丈夫、大丈夫」とつぶやいたりする人いますよね。それは誰かに頭をなぜてもらいながら「大丈夫、大丈夫」と言ってもらった記憶をもとに、心の中に、その誰かと同じ働きをする機能が作られているからです。
従って「たくさん遊ばせる(本人が本当にしたいことをさせる)」「困っているときは、お手本を示したり解決のヒントを出したりして助ける」「子どもの話を良く聴いたりして気持ちを受けとめてあげる」ということを繰り返していくと、非認知的能力が高まり、学業成績も高まります。
そして、非認知的能力が高まると、学業成績も高まりますが、これと逆のことも起こります。子どもが自分の意志で勉強を頑張った場合、つまり、子どもが自分で何らかの目標を立て、学業を頑張ったなら、例えば「目標に向かって自分を律する力」のような非認知的能力等も高まります。
(強制されて嫌々勉強した場合は、非認知的能力はあまり高まりません。従って、勉強を強制するのではなく、「勉強して叶えたい夢」が持てるようにいろいろな経験をする機会を与えるのが有効です。)
そして、そうやって高まった非認知的能力は、勉強以外のことにも役に立ちますので、社会に出て仕事をする上でも大いに役立ちます。
(よく、中学生や高校生が「変化の激しい現代社会において、将来役に立たないように感じる内容も含まれるのに、なぜ勉強をしなければならないのか?」という疑問を大人にぶつけたりしますが、もしも仮に学んだ内容そのものが役に立たなかったとしても、学ぶ過程で高まった非認知的能力は、社会に出てから役に立つのです。)
例えば、社会の変化に合わせて新しく身につけなければならないことや、学ばねばならないことが出てきたとき、非認知的能力が高ければ高いほど、それらを学習しやすいです。
そして、このことは、学業以外の部活動等にも当てはまります。
音楽やスポーツのように、目標に向かって長い期間自分を律することや他者の気持ちを考えることが必要なものであれば、その過程において、非認知的能力も高まります。
このように、幼少期に非認知的能力が高まるような環境が得られるかは運も大きく関係しますが、それ以降は、学業、音楽、スポーツ等々どんなものであっても、自ら選んだ分野で、自ら立てた目標に向かって、あきらめずに長い期間頑張るならば、そして、その頑張りをサポートしてくれるような環境を自ら選ぶならば、自分で、自分自身の非認知的能力を高めることが可能であり、その能力は社会がどのように変化していっても、大いに役に立つということになります。
好きな事をめいっぱい頑張りましょう!
参考文献 Neisser, U. et al. (1996) Intelligence: Knowns and unknowns. American Psychologist, 51(2), p77-101