
第五話 勝負の行方
ガルドとセラは石造りの休憩所で向かい合い、小さなサイコロを手にしていた。
「じゃあ、振るわよ。」
セラが指先でサイコロを弾き、テーブルの上で転がす。コロコロと音を立てながら、サイコロはゆっくりと止まる。
「……六。」
ガルドは目を細めた。
「強運だな。」
「ふふ、運も実力のうちよ。」
セラが余裕の笑みを浮かべる。
「さて、あなたの番よ。」
ガルドはサイコロを手のひらで転がし、ゆっくりと振りかぶる。心を落ち着かせ、一気に放り投げた。
サイコロは弾みながら、やがて静かに止まった。
「……五。」
「私の勝ちね。」
セラは満足げに腕を組んだ。
「お前、魔法で操作してないだろうな?」
「そんなことしないわ。純粋な運よ。」
ガルドはため息をついた。
「それで、俺に何をさせるつもりだ?」
セラはしばらく考え、ニヤリと笑った。
「そうね……。次の探索、私の指示に従ってもらうわ。」
「おいおい……。」
「大丈夫よ。危険なことはさせないから。」
ガルドは頭を掻きながら、仕方なく了承する。
「わかった。どうせ俺の負けだ。」
「よし、それじゃあ準備をして、先へ進みましょう。」
セラが立ち上がり、通路の先を指さす。
ガルドは深く息を吐き、剣を腰に戻した。
「次は何が待ってるのかね……。」
彼らは休憩所を後にし、新たな冒険へと足を踏み出した。
軽い遊びのはずだったが、この勝負が思わぬ展開を生むことになるとは、その時のガルドには知る由もなかった。
---
通路は静寂に包まれ、二人の足音だけが響いていた。
「ねえ、せっかくだから次の探索はちょっと変わった方法で進めてみない?」
セラが提案する。
「変わった方法?」
ガルドは眉をひそめる。
「そう。あなたはいつも正面から戦おうとするけれど、時には回り道をしたり、環境を利用したりするのも大事なのよ。」
「まあ、確かにな。」
ガルドは思い返す。今までの戦いはほとんどが力任せだった。セラの言う通り、違う戦い方を試してみるのも悪くない。
「じゃあ、お前の指示に従ってやるよ。ただし、変なことはさせるなよ?」
「ふふ、楽しみね。」
セラは小さく笑いながら、通路の先を指さす。
「まずは、この分かれ道。右と左、どちらを選ぶ?」
「普通なら左だな。右側は壁が崩れていて、進みにくそうだ。」
「でも、あえて右を選びましょう。」
「理由は?」
「右の道の方が、敵に見つかりにくい可能性が高いの。」
ガルドは少し考え、頷いた。
「よし、なら右へ行くか。」
二人は慎重に足を進め、崩れかけた石の隙間をくぐり抜ける。
すると、前方に微かな光が見えた。
「……何かあるな。」
「ええ、慎重に進みましょう。」
彼らはさらに進み、ついに開けた空間に出た。
そこには、古びた祭壇のようなものがあった。
「これは……?」
ガルドが近づくと、祭壇の上には小さな宝箱が置かれていた。
「どうする? 開ける?」
「開けない選択肢はないだろう。」
ガルドは剣を構えながら、慎重に箱を開いた。
その中には、一振りの短剣が収められていた。
「武器か……?」
「でも、ただの短剣じゃなさそうね。」
セラが魔力を込めると、短剣が微かに光を放った。
「魔法が込められている……これは貴重な品かもしれないわね。」
「役に立ちそうなら、持っていくか。」
ガルドは短剣を腰に収める。
「さて、次の道を探そうか。」
彼らは再び歩き出す。
──サイコロ勝負から始まったこの探索は、思わぬ形で新たな発見をもたらすことになった。