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第九話 深淵への足音
石像兵が崩れ落ちた後も、遺跡は沈黙に包まれていた。
「無事に片付いたみたいね。」
セラは深く息を吐き、魔力を抑えながら呟いた。
ガルドは短剣を確認し、刃の輝きを見つめる。
「この短剣……さっきの戦いで何か変わった気がする。」
彼がそう言うと、セラは興味深そうに短剣に手を伸ばした。
「確かに、魔力の流れが少し違う……。もしかすると、この遺跡の封印を解く鍵なのかもしれないわね。」
ガルドは短剣を鞘に納め、新たに開かれた通路を見つめた。
「ここから先に進むぞ。何が待っているか分からないが……用心しろ。」
「ええ、もちろんよ。」
二人は慎重に通路の奥へと歩を進めた。
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通路の先は、広大な空間へと繋がっていた。
天井は驚くほど高く、壁には無数の古代文字が刻まれている。
中央には巨大な扉があり、淡い光を放っていた。
「これは……?」
セラが扉に手をかざす。
「魔法で封印されているわ。でも……この短剣があれば開くかもしれない。」
ガルドは短剣を取り出し、扉の中央に刻まれた鍵穴にそっと差し込んだ。
瞬間、扉が低く唸りを上げ、ゆっくりと開き始める。
中からは冷たい風が流れ込み、暗闇が広がっていた。
「行くぞ。」
ガルドが剣を構え、慎重に扉の向こうへと踏み込んだ。
そこには、これまでとは異なる不気味な雰囲気が漂っていた。
「……気をつけて。何かいるわ。」
セラが低く囁く。
ガルドは周囲を見回した。
壁には奇妙な文様が浮かび上がり、そこから微かな光が漏れ出している。
「この模様……さっきの石像兵にも似たものが刻まれていたな。」
「そうね。もしかすると、ここ自体が巨大な魔法陣の一部なのかもしれないわ。」
ガルドは扉の奥を睨みつけた。彼の勘が告げている。
「この先には、ただの敵じゃなく、何か重要なものがあるはずだ。」
「ええ……行きましょう。」
二人は一歩踏み出した。
足音が響き渡ると同時に、闇の奥から低い唸り声が聞こえた。
「……ガルド。」
セラが小さく名を呼ぶ。
前方の空間に、ゆっくりと何かが姿を現した。
それはまるで、人の形をしていながら、闇そのもののような存在だった。
「これは……!」
その瞬間、影が猛然と襲いかかってきた。
ガルドは剣を抜き、迎え撃つ。
「避けろ、セラ!」
セラはすぐに魔法陣を展開し、光の盾を作り出す。
影は一瞬ひるんだが、すぐに姿を変え、ガルドの背後に回り込もうとした。
「こいつ……速い!」
ガルドはすかさず短剣を抜き、影の中心へと突き立てる。
刹那、短剣が強く光を放ち、影が一瞬だけ怯む。
「やっぱり、この短剣は奴らに効果がある!」
セラが素早く魔法の詠唱を始める。
「なら、これで決めるわ!」
ガルドが短剣を深く突き刺すと同時に、セラの放った炎が影を包み込んだ。
影は一瞬のうちに弾け飛び、消滅した。
「……終わったか?」
ガルドが剣を納める。
「ええ。でも、まだ奥があるみたい。」
セラが再び奥の通路を指さす。
ガルドは静かに頷き、剣を握り直した。
彼らの旅は、まだ続く。
闇の先に、何が待ち受けているのか──二人はそれを確かめるために、さらに奥へと進んだ。