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第一話 剣士の直感
石造りの広間に静寂が満ちていた。
ガルドは目の前の少女を見つめながら、剣を握る手に力を込めた。少女──セラ・アルシェルは銀の髪を揺らしながら、紅い瞳を細めてこちらを見つめている。
「……あなたの実力を見せてもらうわ」
セラの声が響くと同時に、空気が震えた。
瞬間、魔力の波動が周囲に拡散し、床に張り巡らされた紋様が淡く輝く。ガルドは直感的に身構えた。
(こいつ……只者じゃないな)
彼は傭兵として多くの戦場を経験してきた。だが、この少女が放つ魔力の密度は、今までに出会ったどんな魔術師とも違う。
「来るぞ……!」
ガルドが呟いた瞬間、セラの姿が消えた。
いや、正確には高速移動──残像を残すほどの速さでガルドの背後に回り込んでいた。
「速い!」
咄嗟に剣を振るうが、セラはわずかに身を捻り、難なくそれを避けた。
「今度はこちらの番ね」
セラが軽く手を振ると、魔法陣が浮かび上がり、そこから刃のような魔力の塊がガルドを狙って放たれた。
「くっ……!」
剣を横に振るい、魔力の刃を弾き飛ばす。しかし、次の瞬間、さらに三発の魔力の刃が襲いかかる。
(こいつ……遠距離攻撃主体か!)
ガルドは素早く地を蹴り、距離を詰めた。セラの懐に入り込むと同時に剣を振り抜く──
「甘いわ」
刹那、セラは右手を軽く翳すと、空間が歪んだ。
ガルドの剣が目の前で止まる。
(なっ……!? 剣が動かねぇ!?)
重力を制御する魔法。セラの能力は、ただの攻撃魔法ではなかった。
「あなたは近接戦闘が得意なのね。でも、それだけじゃ勝てないわよ」
ガルドは歯を食いしばりながら、魔力の圧に抗う。自由を奪われたままでは不利だ。
(この魔法……突破するしかない!)
彼は剣に魔力を込め、一気に振り抜いた。
「はぁっ!」
瞬間、剣圧が空間を切り裂き、セラの重力魔法が破られた。
「ほう……」
驚いたようにセラが呟く。だが、その目はまるで楽しんでいるかのようだった。
「あなた、面白いわね。じゃあ、もっと楽しませてちょうだい」
再び魔力が渦を巻く。
戦いは、まだ始まったばかりだった──。