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第四話 休息と小さな賭け
試練の戦いを終えたガルドは、石造りの通路を進みながら荒い息をついた。
「まったく……あの影の魔物、しつこかったな。」
剣の柄を握り直しながら、彼はぼやいた。
後ろを歩くセラ・アルシェルは、相変わらず涼しげな表情を浮かべていた。
「でも、ちゃんと倒せたじゃない?」
「倒せた、というより、しつこく戦った結果、なんとか片付いたって感じだな。」
ガルドは肩をすくめ、壁にもたれかかった。
「そろそろ休憩しないか? あの戦いでだいぶ消耗した。」
「そうね。ちょうどあそこにいい場所があるわ。」
セラが指さした先には、小さな休憩スペースのような空間が広がっていた。中央には古びたテーブルと椅子が並び、壁際には何やら壺や食料庫のようなものも見える。
「こんなところに休憩所があるなんて、妙だな……。」
「遺跡の管理者がいたのか、あるいは試練のために誰かが整えているのかもしれないわね。」
ガルドは椅子を引き、どかっと座った。
「ともかく、休めるならありがたい。」
彼は腰から水筒を取り出し、一口飲むと、大きく息をついた。
「それにしても、セラ、お前、疲れないのか?」
セラは椅子に腰掛け、優雅に髪をなびかせながら微笑んだ。
「魔力を制御できる者は、体力の消耗を抑えられるのよ。あなたみたいに力任せで戦っていると、すぐにバテるわ。」
「ぐっ……痛いところを突いてくるな。」
ガルドは苦笑しながら、剣を机に置いた。
「まあいい。ここで少し休んでから、また先へ進もう。」
「そうね。でも……。」
セラがニヤリと笑い、テーブルの上に小さな袋を置いた。
「休憩中に、ちょっとした遊びでもしない?」
「遊び?」
ガルドが眉をひそめると、セラは袋の口を開き、中から小さなサイコロを取り出した。
「この遺跡には、運試しのための遊び道具が残されているのよ。あなた、運には自信がある?」
「ふむ……。」
ガルドは腕を組み、しばらく考えた。
「剣の腕なら自信があるが、運はどうかな……。まあ、やってみるか。」
彼はサイコロを受け取り、手のひらの上で転がした。
「ルールは簡単。私とあなたで交互に振って、出た目の大きい方が勝ち。」
「単純だな。」
「ええ。でも、賭けるものがなければつまらないわ。」
セラはにっこり微笑んだ。
「勝ったほうが、次の探索で相手に一つだけ命令できる。それでどう?」
「おいおい……嫌な予感しかしないな。」
ガルドは頭を掻いたが、興味を持ったのも事実だった。
「まあいい。受けて立とう。」
彼はサイコロを握りしめ、テーブルに投げた。
カラン、と乾いた音が響く。
さて、運命はどちらに微笑むのか──。
ガルドとセラの、ささやかな勝負が始まった。