囲碁界についてその後思うこと

 以前、囲碁の本因坊戦が縮小するという話にショックを受け、いくつかnoteに記事を書いた(こちらなど)。あれから1年以上が経ったが、若手棋士が囲碁界に見切りをつけて休場するなど、あまり明るい話題は出てきていない。

 そうした中、先日「囲碁というゲームがこの先も活き残るには」という記事を見かけた。https://note.com/gouponline/n/nedbf64883c00

 初心者向け囲碁対局サイト「Go-Up」を運営されていた方によるもので、それだけに重みがある内容だ。指摘されていることについては、筆者もおおむね同意できた。ということで、少しその内容を読んで思ったこと、筆者なりの補足のようなものを書いてみたい。

 ・「感情」を見せること
 先述のGo-Up氏の記事では、「将棋棋士のキャラクターの豊富さ」について触れられていた。確かに囲碁の棋士は、よく言えば真面目、悪く言えば面白みに欠けるキャラクターが多いように思う。対局前後のコメントなども、通り一遍で印象に残るものはほとんどない。

 もちろん、棋士たちに無理してはっちゃけたキャラクターを演じてもらったり、奇をてらったコメントをしてもらったりする必要はないと思う。ただもう少し感情を表に出し、ぶつけ合って見せてもいいのではないか。

 去年のWBCで日本中を沸かせたのは、ヘルメットをかなぐり捨てて力走し、二塁ベース上からナインを煽り立てる大谷翔平の姿であり、不振にあえいだ末についにサヨナラ打を放ち、抱き合って喜ぶ村上宗隆の姿ではなかったか。感情を爆発させる姿は、やはり人の心を打つのだ。

 現在の将棋人気は、もちろん藤井聡太という大天才の出現が最も大きな要因だ。しかしそれ以前にも、プライドを賭けてコンピュータに立ち向かう名棋士たちや、一度は断たれたプロ入りの夢を諦めきれず、再挑戦を直訴した元奨励会員が話題を集めていた。こうして勝負の世界に生きる者たちの強い思いが、一般にも広く伝わっていたことが、現在の将棋ブームの下地になっていると思う。

 囲碁界でいうなら、棋士・一力遼が「情熱大陸」で取り上げられたきっかけは、「井山に完敗し、己の不甲斐なさに人目もはばからず涙を流す20歳の青年の姿」であったという。世間的にはまだ無名であった一力にスポットライトが当たった理由は、「感情」を見せたことだったのだ。

 昔の囲碁棋士でも、呉vs木谷、坂田vs秀行、大竹vs林、趙vs小林などライバルが火花を散らし、「絶対に負けたくない」と歯を食いしばる姿にファンが沸いた。それに比べると、今の棋士はあまりに淡々として見える。もちろん彼らとて、負けじ魂は昔の棋士に劣らず持ち合わせているはずだ。もう少し己の感情の部分を、ファンに見せてほしいと思う。どうも今の棋士たちは、抱いている思いを表に出すことを、誰かに抑圧されているように見えるのだ。

 ・新機軸はないのか?
 Go-Up氏の記事には、囲碁界には「保守的で、変化を嫌う風土」があるという指摘もある。筆者はプロ棋士などに知り合いはいないので詳細はわからないが、まあそういうところはありそうだ。

 今期から縮小となった本因坊戦も、何か今までにない形式を打ち出し、表面だけでも「リニューアル」を謳っていたら、少しでも「格下げ」感を薄められていたのではと思う。結局、王座戦や天元戦などとほぼ同じ形式にしてしまったので、もろに「縮小格下げ」のイメージになり、結果として囲碁界に大きなダメージを与えることになった。もう少しやりようがあったんではと思える。

 新しい変化といえば、今年から始まる日本女子囲碁リーグがある。ドラフト会議でチームメンバーを選出するなど、囲碁界では今までなかった形式(将棋ではとっくにやっていたけど)であり、筆者も中継を見たがなかなか楽しめた。ただ、せっかくの新棋戦であるのだから、もうちょっと目を引く工夫はなかったのだろうか。

 リーグ名も「日本女子囲碁リーグ」といかにも気が利いておらず、何か愛称でも考えたらよかったのにと思う。たとえば「ジュエルリーグ」とでも名づけて、カラー碁石で対局してもらうくらいしたらどうだろうか。いろいろな色の碁石が市販されており、盤の方もきれいなものがある。モノクロと木目の世界を脱して「映える」ものにすれば、ニュースなどで取り上げられる機会も増えるのではないか。そうなれば新たなスポンサーだって期待できるだろう。

カラー碁石の例(京都大石天狗堂のサイトより)

 もちろんこのへんは、事情を知らない部外者のおっさんの考えでしかない。幸い、企画力と実行力のある女性棋士はいるようだから、もっと時代に即したいいやり方を考えてくれることだろう。棋院のエラい人たちより、若手に企画を任せたほうがいいんじゃないかと思える。

 長くなりそうなので、次回に続く。


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