チームが機能不全に陥るのはなぜか
私はこれまで、チームビルディングのファシリテーターとして様々なチームを見てきました。私がほとんど介在しなくてもスムーズに物事が進んでいくチームもあれば、崩壊寸前のチームや、ギスギスしているチーム、冷ややかなチームも経験してきました。
そんな私の経験から、なぜチームが機能不全に陥るのか、そして何をすれば機能し始めるのかについて、3つのポイントに絞ってお伝えしていこうと思います。
「あ〜、ウチのチームでもこんなことあるなぁ」と思い当たることもあると思います。それを解消し、機能する&強いチームを作っていくためのコツをお知らせします。
【ポイント1】チームが陥りやすい会話の傾向
特に営利を目的にした企業の場合、チームというのは何らかの成果を上げるために存在します。例えば、事業部門が1つのチームだとした場合、売上目標の達成がチームの目指す成果となります。経営幹部層が集まったチームであれば、経営課題を解決し企業価値を高めることが目指す成果の1つかもしれません。
チームには目標数字や、達成期日などが明確に定義されていることが多いため、会話は自ずと「何を」(What)、「どのようにやるか」(How to)の構成比率が高くなる傾向があります。例えば、経営会議で起きがちな会話を例に取るとこんな会話が起きがちです。
人事部長:「この数年、離職率が上がっていまして、それになんとか歯止めをかけなくてはいけないと思っているんですよね」
営業部長:「競合のA社が最近ものすごい予算かけて採用してるんですよ。ウチからも何人かそっちに転職しました」
社長:「A社は最近勢いがあるからな、A社に人材を取られないようにする方法はないのか」
マーケティング部長:「今の製品ラインナップだと正直厳しいですね」
開発部長:「ウチのせいってことですか?営業がちゃんと交渉しないからA社にシェアを奪われてるんだと思いますが・・・」
社長:「だったら営業施策から話すか」
営業部長:「そうですね、まず弊社が長年使っている代理店をA社が使っている代理店に切り替えるのが有効かと思います・・・」
こういった光景を私は何度も繰り返し、様々な企業内チームで目撃しています。会話の中心は「何を」と「どのように」にありますよね。そして、こういった会議には、上の登場人物の他にも、経理部長や経営企画室長、品質管理部長、相談センター室長など声を出さない「冷ややか」(あるいは話題に無関係)な参加者も存在するのですが、上の4人の登場人物は会話を独占的に進めています。
そして、この会話では冒頭で提起された離職率の話が、とても短い時間で営業施策の話に流れていきました。こんな会話を「How toの連鎖」と呼ぶことにしますが、How toの連鎖が起きることにより、会話は本題とは関係ないところに流れていく傾向があります。
これでは、提起者の人事部長も話題が取り扱われなかったことに不満が残るでしょうし、声を出さない参加者も参加している意義を感じられず、積極的に参加している人たちも最終的に何の話をしていたのかわからなくなるといった状況が生まれます。
そして、こういった会議やミーティングが繰り返されれば、メンバーの参加意欲は徐々に下がっていき、最終的に機能しないチームが出来上がるというわけです。
【ポイント2】チームは何を話すべきか
先程の会話に存在しない要素で、チームが積極的に語るべきは「なぜ?」(Why)という要素です。ただ、日本語の中で「なぜ?」という問いかけは詰問あるいは問い詰めになりやすいので注意が必要です。例えば先程の会話で、人事部長が最初に課題提起したところで、社長が「なんで離職率が上がってるんだ?」と強い口調で問いかけたとします。職務的な序列も影響し、人事部長は言い訳をまず考えるのではないでしょうか。これでは議論が進みません。
では、どんな「なぜ?」が必要かというと「なぜそれを今やることが大切なのか?」という問いです。この要素を先程の会話に入れるとするとこうなります。
人事部長:「この数年、離職率が上がっていまして、それになんとか歯止めをかけなくてはいけないと思っているんですよね」
社長:「今日この会議で離職に歯止めをかけることを話すことがなぜ大切なのかもう少し教えてくれるかな?」
人事部長:「はい、今まででしたらお金をかけて新しい人材を採用してくれば離職率がある程度高くても問題なかったんですが、最近は他の企業も良い条件で中途採用をしているので、当社の条件で採用できる人材が減っているんです。それによって、必要な人材が採用できないという現実に対して何らかの対策が必要かと思います。」
となります。最終的に人事部長から「なぜこの話題が大切なのか」という理由が語られました。この会話の例でおわかりのように、問いかけ一つで話の方向はガラッと変わります。
この「なぜ?」の他にも、チームは以下のような問いかけを活用することができます。
・それを今日決めることができたら、どんな変化が起きますか?
・それを実行することは、会社の将来にとってどんな意味を持ちますか?
・今日、この話題を話すことは私達にとって大切なことですか?
すべて「なぜ?」(Why)の要素を含んでいる問いかけです。
「そんなの言わなくてもみんなわかってるよ、林さん」なんて声が聞こえてきそうですが、そもそもなぜ、チームはこのような問いかけを必要としているのでしょうか。
例えば、あなたが営業部長であれば、「販売状況とその改善策」は優先度が極めて高く、会議の一番最初に話したい話題だと思います。しかし、その話題はチーム全体の優先事項でしょうか。あるいは、チーム全体として興味のある事柄でしょうか。役割や立場が違えば、その話題の優先度や重要度は異なります。そんなチームの多様性を理解し、全員が同じ会話をするためのすり合わせをすることは非常に重要なステップです。
チームは「なぜ?」を端折らず語ること。これに気をつけるとチームが「話すべき内容」に向けて議論を進めていけるようになります。
【ポイント3】進行役は何に気をつけるべきか
皆さんも会議の進行役を務めることがあると思います。私の場合、チームビルディングではこの進行役専門ですが、進行する時に気をつけていることが2つあります。それは「承認する」ことと「合意を取り付ける」ことです。
例えば私が進行役だったら、先程のポイント2で紹介した会話をこんな風に進めると思います。
人事部長:「この数年、離職率が上がっていまして、それになんとか歯止めをかけなくてはいけないと思っているんですよね」
社長:「離職に歯止めをかけることを、今日この会議で話すことがなぜ大切なのかもう少し教えてくれるかな?」
人事部長:「はい、今まででしたらお金をかけて新しい人材を採用してくれば離職率がある程度高くても問題なかったんですが、最近は他の企業も良い条件で中途採用をしているので、当社の条件で採用できる人材が減っているんです。それによって、必要な人材が採用できないという現実に対して何らかの対策が必要かと思います。」
林:「最近必要な人材の確保が難しくなってきているので離職に歯止めをかけることが大切だということですね。(承認する)このお話をこれから進めていくことについて、まず皆さんの合意を取りたいのですがいかがですか?(合意を取り付ける)」
ここで大切なのは、発言者の功績を称えるために承認すること。つまり「こういう発言があったね」という事実を言葉にして渡すことです。(それはいい発言だね、みたいな判断が入ったものはNGです)
これがどんな作用を起こすかというと「あ、このチームでは発言すると聞き入れられるんだ」という安心感をメンバーに生み出すことで、様々なメンバーが能動的に発言できる環境を醸成するきっかけになります。
そして、合意を取り付けることに「手間をかける」ことで、社長と人事部長以外の参加者も意見を発する機会を得られるため、主体的に参加しているように感じられ、当事者意識が醸成されます。
つまり「承認」と「合意形成」を実践することが、機能するチーム、強いチームを作る最初の足がかりになるんです。とても些細なことですが、これをやるかやらないのかの違いは案外大きく出てくるものです。
ここまで、ポイントを3つに絞ってお話をしてきました。最後にポイントをおさらいしましょう。
【ポイント1】チームが陥りやすい会話の傾向(How toの連鎖を止める)
【ポイント2】チームは何を話すべきか(なぜ・Why?を語る)
【ポイント3】進行役は何に気をつけるべきか(承認する・合意を取り付ける)
この3つを心がけることでチームは徐々に変化していき、機能する&強いチームへと育ちます。既存の習慣を変化させていくのは1回の会議やミーティングでは難しかもしれませんが、少しずつの積み上げが大きな変化を生むことを忘れないでください。継続は力なりです。皆さんも是非、次の会議やミーティングでできることから試してみてください。
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