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企業がリーダーにコーチをつけるときに知っておくべきこと (その1)

今日は企業がリーダーに向けてコーチングを採用したいと思ったときに、知っておくべきことについてお話します。企業でコーチングを採用することに関わる方にとっては実践的に有益な情報としてお読みください。またプロのコーチにとってもコーチとしての関わり方を考えるのに有益な情報です。

(こんなことありませんか)
「ウチのリーダーにはいろいろやったんだけど、全然成長しない。これはもうコーチングしかないか」
企業の担当者がこんな切実な状態で外部のプロコーチにコーチングを依頼するケース、実はかなり多いのではないかと私は思っています。
社内でメンターをつけたり、学校に通わせたり、部署異動させたり、いろいろと策を講じた中で最終的にコーチングにたどり着く、そんなケースがあると思います。

このような状況ではコーチングが最終的な駆け込み寺になっているわけですが、実際に起用した場合、上手くいくケースと上手くいかないケースが存在します。今日は私の経験から、コーチングを上手に活用するために会社が考えるべきポイントを以下の3つに絞ってお話を進めてみたいと思います。

【ポイント1】上長が直接的に関与する
【ポイント2】リーダーが能動的に関わる対価を明らかにする
【ポイント3】退職という選択肢をオープンにする

それではまず【ポイント1】上長が直接的に関与するということについて、以下の切り口で話を進めていきます。
 【クライアント側の言い分】
 【上司側の言い分】
 【どうするべきか】

【クライアント側の言い分】
企業のリーダーとのコーチングセッションを進めていく中でよく起きる会話にこんなものがあります。

リーダー:「全社的に業績が良い中、私の部署だけ業績が悪く、私がチームを上手くマネジメントできていないという会社からの指摘には納得できるんですよ。」
コーチ:「そうなんですね?」
リーダー:「ただ結局、私の一存では決められない問題が多いんです。例えば、会社の方針は既に決まっていて、人員計画も期初に決まってるんです。今年はライバル会社が採用を強化していて、うちのチームからも何人か転職してしまって。ただ今年は予算的に新規採用をストップされているので、退職したメンバーの代わりになる人材を採用できないんです。」
コーチ:「そうだったんですか。」
リーダー:「はい。それで私は彼らの仕事も肩代わりして現場に出なきゃいけない。それを上司に言っても、それを何とかするのがお前の仕事だと言われるだけで。どうやってマネジメントする時間を確保すればいいのか、もうお手上げなんですよ」

ここが経営者へのコーチングと企業リーダーへのコーチングの一番大きな違いです。経営者の場合は、ほぼすべての意思決定を自分で行うことができます。
しかしリーダーは会社に雇用されている従業員という立場上、一人で重要な意思決定ができない立場にいます。例えば、人材の採用、当初予算にない投資、会社の戦略や計画に添わない施策の実施、現状を打破する新規事業の提案、内製している業務の外部委託など、会社全体の財務状態や戦略などに関連することを自由裁量で決められる立場にはいないわけです。

【上司側の言い分】
一方、上司側からこういったお話を聞くこともあります。
「彼はね、文句ばっかり言うんですよ。人が足りないとか、予算がないとか、できることは限られてるとか。私がやってたときはその中でうまくやりくりしてましたから、彼もできると思うんですよ。なんだろう、能力が足りないのかなぁ、それとも気合が足りないのかな。もし今回の取り組みで変化が見られなかったら、会社としても抜本的な判断が必要で、最悪別の人を採用してくるしかないと思っているんです。」

これはいわゆる「厳しい評価者」という立場からの発言です。一緒に解決策を模索する立場ではなく、「変容しろ」と迫る指示命令者という立場です。

【どうするべきか】
この状況では、コーチが板挟みというか橋渡し役を担っているだけで、根本的な問題解決には至りにくいと思います。
これをわかりやすく言うとすれば「夫婦仲の悪いご主人と奥様のお話を個別に聞いている」のと変わりません。
こういうときは一緒に話すことでブレイクスルーを起こすことが必要です。
双方が本音を伝え合い、できること・できないことを明らかにし、互いの役割を再定義し、アクションプランを共に作る。そんな事ができれば、物事は前に進み始めるはずです。

ここでは特に上司側の意識改革が重要で「本人を後方支援する立場」(外の人)ではなく、「本人の変容のために汗をかく人」(中の人)として関わることに舵を切る必要があります。

コーチングセッションという言葉の持つイメージは「1対1でコーチとクライアントが実施する」ものというのが一般的ですが、これを例えば3者間でのグループコーチングやファシリテーションという枠組みで捉えると、様相が変わってきます。
プロのコーチが真ん中に入り、双方の主張を公平に聴き取り、会話を整理し、洞察を得るというプロセスがあれば相互理解が生まれ、共に何かを達成するための信頼感も増幅されます。
今まで部下のパフォーマンスを評価し、足りないことを指摘する役割だった上司が、同じ課題を共有し解決に向かう道筋を一緒に歩く当事者の一人になる。部下にとってこれほど心強いことはありませんよね。
リーダー一人ではできなかった上位レイヤーでの根回しや、より重要な意思決定を速やかに下すこと、より金額の大きな予算を通すこと、阻害要因となっている要素を能動的に排除することなど、様々なことが可能になるため、影響範囲が変化し、結果が出やすい環境が整備されていきます。
こういった共創、協働活動が始まれば、コーチングでの成果は飛躍的に向上すること、想像に難くないと思います。

企業においてコーチングをこのような形で進めるには事前の計画が大切です。企業の担当者とコーチが事前にすり合わせを行い、3者でのグループコーチングを定期的に挟む形でプログラムを練り、上司を当事者として巻き込む。これにより「厳しい評価者」を減らし「当事者」を増やすことで必要な変化を起こす。
コーチングという手法を優先させるのではなく、目的に根ざして柔軟にプログラムを組む。そういったことが今求められています。

さて、この記事でこれまでお話してきたのは、企業がリーダーにコーチをつけるときに知っておくべきことのポイント1として、上長が直接的に関与することについてでした。
企業においては、リーダーひとりの力で大きな変容を生み出すことは極めて難しく、上司のサポートが必要不可欠です。そして、コーチングの実施方法を工夫することにより、上司を当事者として巻き込むことを考える必要があるというお話をしました。

「コーチをつけたからこれで大丈夫」という安直な起用方法ではなく、本当に成功する方法を関係者全員で考え、柔軟なプログラム構成を考えてみてください。
次回は【ポイント2】リーダーが能動的に関わる対価を明らかにするについてお話します。

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