チームコーチング 【チームは1時間40分後に口を開く】

コーチングというと、エグゼクティブ・コーチングやパーソナル・コーチングなど1対1の関係で進められる手法というイメージがあると思うのですが、最近は「1対他」という形式でコーチングを実施するチームコーチングという手法も一定の認知を得てきました。今日はチームコーチングの現場で起きていることについてお話をしていきます。

「うちのメンバーは一人ひとりは優秀なんですけどね。それがチームで集まるとなんか急にトーンダウンするというか、本音を言わなくなるというか、そんな感じなんですよ」

社長とのエグゼクィブ・コーチングセッションをしていると時々耳にするのがこういったセリフです。チーム単位での業務遂行に関しての「関係性」を示唆する話題です。また、こんな話をお聞きすることもあります。

「チーム内でのいざこざが絶えなくて困ってるんですよ。チームを任せてるリーダーは仕事はできるんですけどね。。。言葉が厳しくて周りのメンバーから一緒に働けないという苦情がいつも出てくるんですよ」

こういったチーム単位での課題が表出した時に有効な手法の一つにチームコーチングというものがあります。

チームコーチングは社長を含む経営幹部や事業部門長が集まるチームや、1つの事業部に所属するメンバー全員といった単位を対象として実施する手法です。対象となる人数は少ない時で3人、多い時で10人程度になります。そして、通常3時間から1日程度の時間を使い実施するものになります。

大抵の場合、経営者へのコーチングを実施している中で、先ほど挙げたようなチーム単位の課題が表出することが多く、その場合チームコーチングの実施をお勧めしています。

そんなわけで、チームコーチングセッションに参加してくるメンバーの方々は、あまり意味がわかっていないまま社長に招集され会議室にやってきます。

冒頭で社長からチームコーチングの目的や、チームとして解決したい課題などを伝えてもらいます。例えば社長がこんな形で話を切り出したとします。

「今日皆さんに集まっていただいたのは、このチームがより大きな成果を出すために、お互いの関係性を良くしていこうということが目的です。最近新しいメンバーも入ってくれてちょうど良い機会だと思うし、毎日仕事をしている中でいろいろとコミュニケーションの問題もあると思うので、そのあたりのことを今日はざっくばらんに話ができたらいいかなと思ってます。そのためにプロのコーチをお呼びしているので、みんなも安心して本音を語って欲しい」

ここで社長が心の奥底で期待していることは、参加しているメンバーが「そんな機会を待っていました。今日は腹を割って話しましょう」と口々に言うことだと思うのですが、そんなに現実は甘くありません。現実としてより起きる可能性の高いことは、「社長の息のかかった外部の人がチェック入れにきた。これは用心しなくては」という思考がメンバーの中に生まれるという方向です。

例えばここで私が「今日は皆さんどんなことを期待して、この場所に来ましたか?」と問うたとします。おそらく、こんなコメントが返ってくるのではないかというものを書いてみます。

「いや、期待も何も、そもそもなんのために呼ばれているのかわかりません」

「なんかよくわからないんですけど、みんなで話す機会があまりないので楽しみです」

「プロのファシリテーションは前から興味があったので、いろいろ学びたいです」

「うちのチームは結果出してるし、上手く行ってると思うので特に期待はありません」

私の見立てでは、こういったコメントを発する人々は「ガードが固い」です。第三者に向かっていきなり本音や具体的な内情は言えない、という意思表示だと捉えています。更に、メンバー間の信頼関係のレベルは低いと考えられ、お互いが本音を言い合えていない関係性のレベルにあると見立てます。私はこれまで多くのチームに関わっていますが、大半のチームの関係性はこのレベルにあると考えています。そして、チームコーチングなどの機会を活用しお互いが近づき議論する機会を作ることで、チームは関係性をより強化し「一枚岩」に近づいていくことができます。

チームコーチングの方法やツールについては別の機会にお話しますが、チームが先ほどのようなガードの固い状態からスタートした場合、本音が全く言えない状態が実際かなり長く続きます。当たり障りのない会話や、社歴の古い人に同調する傾向、声の大きな人が話し続け、物静かな人が沈黙を続けるといったことが起き続けます。

これが面白いことに、どんなチームであっても、何人で集まっていても1時間40分という時間の経過を経て、チームは堰を切ったように本音を語り始めるのです。きっかけになるのはこんな言葉たちです。

「いや実はね・・・」

「これは言うべきかどうか迷ったんだけど・・・」

「さっきからずっと黙ってたんですけど・・・」

「せっかくの機会だから一言言わしてもらうけど・・・」

こんな切り出しで人々は本音を語り始めます。そして、誰かがこういった言葉で口火を切り本音を話し始めると、チームのダイナミズムは一気に変化します。より具体的な会話をすることで、お互いのスタンスが明らかになり、濃淡のはっきりついた会話をすることでお互いが関わり合い方を実践的に学んでいきます。この積み上げがチームの関係性の向上に繋がります。

ではなぜ1時間40分という時間を経て人々は本音を語り始めるのでしょうか。それは「安全性」という言葉に集約されます。人は安全を感じられないと本音や内に秘めている不都合な真実を語らない傾向があり、チームという集団ではその傾向がより顕著に現れます。お互いが様子を見ながら「今日は本音をある程度ぶつけても良さそうな場なのか?」とか「不都合な真実を伝えても、自分の立場や今までの評判を守れるか」といったことを考えながら、場の空気を読んでいます。

組織内で行われている会議は1時間単位で実施されていることが多いと思います。その1時間で語られる内容を思い出してみてください。恐らく、事実情報の伝達、確認といった事柄をお互いに伝えあうだけでも40〜50分はすぐに経ってしまうのではないでしょうか。つまり、チーム内で何が起きているか、どんな課題があるか、どんなアクションは実施されていて、何は実施されていないのか、といった事実情報(ファクト)だけを語っていても1時間程度はかかるということです。

そして、ファクトだけを語っていたのではチームメンバー間の信頼構築にはさほど影響がないと考えています。お互いが一人の人間としてどんな感情や信念、好みなど持って仕事をしているのかを開示し、理解し合うことでチームは近づきます。これを一言で言うと「相互理解」になりますが、チーム内で相互理解が進むと「安全性」が増すと考えます。そして、安全性が増せば増すほど人々は本音を開示して良いと感じるようになるのです。

そして、それにかかる時間が平均して1時間40分だということになります。

時間が解決するとはよく言ったものですが、チームが安全性を確保し意見交換をし始めるためには最低でも1時間40分かかるということを念頭に置けば、ミーティングの時間をより長く設定するなどの工夫ができると思います。

そしてそういった工夫が関係性に大きな影響を与えるのではないかと考えます。

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