深夜に綴る

社員寮の狭いキッチンで人目を盗んで料理をして、自己顕示欲丸出しのレシピもどきのわけのわからない記事を書いてから2年が経とうとしている。

改めて読み返してみると、当時の文章は自分が好きな小説や漫画の影響をもろに受けていて、かつ稚拙な表現ばかりで少し恥ずかしくなった。

記事をしばらく書かなかったのには理由がある。

俺は文章ではなく、絵や漫画を描くのにハマったのだ。

流石に2年も経っているし、リアルな知り合いはもう俺のnoteの存在を忘れていると思うが、俺が描いているイラストを掲載するのは、念のためやめておこうと思う。

イラストや漫画を描いてTwitter上に投稿し、フォロワーからいいねをもらって自己顕示欲を満たすことに快感を覚えた俺は、Youtubeのとある女性配信者のファンアートを描くことで、そのファンの界隈の人間と繋がった。

時を同じくして、Twitterにスペース機能がつき、夜な夜なその女性配信者のファン界隈の人間や自称イラストレーター達と話すことでコロナ禍の寂しさを紛らわしていた。

仕事の方はというと、イラストのアカウントのフォロワー数と反比例するようにやる気を失っていき、仕事が残っていても定時で上がるような、典型的な「給料泥棒」になっていた。

何もしなくてもただ出社するだけで出張手当がもらえていたので、仕事に熱意を失っても生活に困ることはなく、むしろ経済的余裕があった。

その後調子に乗った俺は、とあるYoutube配信者と意気投合し、毎週金曜にラジオと称してツイキャスでダラダラと話す枠を取り始めた。

当時知り合った顔も知らない人たちのおかげで、俺は大きなストレスを感じることなく、毎日を過ごすことができた。

2年の横浜の赴任期間の内、1年と半年が経とうとした頃、予定よりも半年早く地元の本社に戻ることが決定した。それと同時に、ネット記事の挿絵の制作の仕事の依頼が舞い込んできた。

横浜から離れるのは嫌だったが、生まれて初めて受けるイラストの仕事に俺は舞い上がった。

お盆休み直後に結膜炎に伴う発熱でコロナ感染を疑われ、1週間の休みを上司に言い渡されたが、その期間中はひたすらに依頼されたイラストを描くことに専念できた。熱は1日で引いた。

イラストの報酬自体は高くなかったが、少し高い焼肉屋に躊躇なく入れるくらいには副収入があった。

引継ぎそっちのけでイラストばかり描いていたため、後任の社員に大目玉を食らったが、俺はどこ吹く風だった。

女性配信者のファン界隈のボスみたいな奴に、そいつの名前を伏せた状態で苦言を呈し、「イラストで仕事をしてる俺はもうお前とは違う。」とも取れるわけのわからない声明文をしたためて、俺は自らそのファン界隈を去った。

当時の俺は完全に天狗になっていた。

地元に戻った後もイラスト制作は続けていたが、描くときの体制が悪かったのか、肘部管症候群という指に力が入らない神経症になった。今思えば相応の報いを受けたのだと思う。

当時一緒にツイキャスをしていた配信者ともツイキャス時の俺の態度について苦言を呈されることが増えた。俺は「自分は悪くない。」という態度で話半分で説教を聞いていた。

そのタイミングで仕事の時間が昼勤から夜勤になり、ツイキャスの配信ができなくなることで、そいつとの距離はさらに開いた。

夜勤の期間が終わったころ、「改めてラジオやろう!」と誘ったが、当日にそいつは他の配信者とコラボの予定を入れていて、それ以降俺から何かやろうと誘うことはやめた。

「もともと繋がりなんてあって無いようなもんだ。少し前に戻っただけだ。」と自分に言い聞かせて自分を慰めていた。

だが、そう思っているときに限って新たな人との繋がりができる。

スペースで話したことがある女の子からネット上の人間関係の相談を持ち掛けられ、その相談に乗ったことによって、その子から気に入られ「側近」という地位を得た。

始めはごっこ遊びのようなものだと思っていたけれど、

「寝るまで通話しててほしい」だの
「通話しながら添い寝してほしい」だの
「ここには書けないようなこと」まで頼まれるうちに

俺は「こいつゼッタイ俺のこと好きじゃん」という錯覚を覚えた。

あまつさえ、俺もその子に惚れていた。

だが、その子がネット恋愛をするバカップルを指して、
「顔も知らない相手と恋愛するなんてありえない」と言っているのを見て、
当時側近としての立場をわきまえているつもりだった俺は、愚直にその発言を守り、募る思いを隠していた。

一方で仕事の負担は着々と増えていき、遂に俺は今年の6月にキャパオーバーした。

出社はしたものの胸の痛みが治まらないという症状に苛まれ、病院に行って検査をしたものの検査結果に異常はなく、心因性の疑いがあると診断された。

生まれて初めて精神科に行き、薬を処方してもらった。しばらくは薬のおかげで痛みに苦しむことはなかった。

だが、このタイミングで更にショックなことがあった。

女の子に彼氏ができたのだ。

「顔も知らない相手と恋愛するなんてありえない」と言っていた彼女は、ネットで知り合った顔も知らなかった男と結ばれた。

そいつは自分の女性フォロワーにセクハラばかりするどうしようもないブ男だった。

俺が側近として思いをひた隠している間、2人は着々と逢瀬を重ねて仲を深め合っていた。

俺は完全に打ちのめされた。追い打ちをかけるように2人の情事の話を彼女から聞かされた。

俺は気が狂いそうになっていた。

姉弟や友人に相談して結局俺は完全に彼女とは連絡を絶つことを決心した。

治療中に体を動かして気を紛らわすためにジムに行き始めた。

体重は全く減らず、むしろ増えたが、少なくとも精神状態は幾分かましになった。

仕事の方も上司と相談して、現場職に移ることになった。


この約2年の間、様々なことがあったが、根本的に俺は成長していないと思う。いまだに女性と付き合うことは叶わないし、むしろ女性が苦手になった。

リハビリのために婚活パーティーに参加したが、あまりにも相手にされなかったので発作が起きたくらいだ。

仕事の方もキャパオーバーしてからは今までの業務に戻ることは拒絶した。結局俺は責任を負うことに値する人間じゃなかったのだ。

総合職から一般職にキャリアチェンジしたことで仕事は楽になったが、給料はこれから減るだろう。

一方で俺の周りの環境は目まぐるしく変化した。

姉は結婚し、弟には婚約者ができた。両親は定年で仕事を辞めたが、俺の給料だけでは生活できないため、年金をもらえる歳になるまで新しく仕事を始めた。

実家に戻った身としては本当に情けないと思う。金もなく、伴侶もいない。ただ実家に居座って自分を慰めているだけのパラサイトシングル。

一般的に「いい歳」と呼ばれる年齢になった今。
これまで女性に縁がなかったが、今後は加齢に伴い肉体も容姿も衰えていく一方なのでこれまで以上に女性に縁はなくなるだろう。

最近は父から圧力を感じる。

「休職してたのにボーナス出るとは、それはありがたいね。今時、なかなか無いよ。しっかり勤めて損はないと思う。」だとか
「もし今度ライブ見に行くなら、俺の会社の女の子とも行ってみないか。」だとか。

色々と気を使ってくれたり、気をまわしてくれるのはありがたい。
ありがたいだけに逆に申し訳ない。俺は親の期待にこたえることができない失敗作だから。

今はだれにも迷惑をかけず、だれにも煩わされず一人暮らしをしてひっそりと過ごしたい。

生きていくのに必要なだけ細々と仕事をして、一人でいたい。

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