都市経営プロフェッショナルスクール開講式集中研修@北九州市(1)〜フィールドワーク編〜
都市経営プロフェッショナルスクールの開講式集中研修が9月7日(土)から9月8日(日)にかけて北九州市にて開催されました。
初日は、リノベーションまちづくりの舞台になった、小倉魚町地区周辺でのフィールドワーク。ここでも新たな課題が立ちはだかります。
開講の儀
いよいよ始まりました開講式集中研修。初日は開講式の後、フィールドワークを行い、2日目はフィールドワークによるエリア分析を各グループ単位で発表し、その後、選抜された受講生が個人事業の発表を行います。
冒頭に北九州市長のビデオメッセージが放映されます。木下斉さんが北九州市のアドバイザーを勤めているということもありますが、市長としても公民連携に関心を持っているということでもあります。人口90万人規模の政令指定市としても、生き残りをかけて民間との連携を模索している事情が伺えます。
その後、木下さんからの今回のフィールドワークの趣旨が説明されます。
いろいろなまちに行ったときに、どういうエリアがあって、どういう特徴があって、自分だったらそこで何をするのか常々考えていただきたい。
小倉の商店街も常に変化している。地方のそれなりの規模感の都市でも人口が減少している中、新しいものがどのように動いているのか、自分だったらこのエリアをこうしたいとか、自分のまちと比較したらここが違うとかというところに気づいていく。これを今日だけで終わりにするのでなく、いろんなまちに行った時に毎回そういう行動をしてもらいたい。
アイディアが出てこないのは移動距離が少なくて、行ったことがあるまちが少ないから。政令指定都市ぐらいは全て制覇してもらいたい。
いろんなまちに行かないで、自分のまちの良さをわかることはないし、いろんなまちでやっていることを知らずして、自分のまちで取り組み自体を良くすることも難しい。
自分のまちは閉鎖的だと言う人がいるが、どこのまちも閉鎖的なので言い訳をしない。事業における地域での人間関係や資金調達の方法など、いろんなケースを知るためにも、いろんなまちを知ることは重要。
まちを見る作法をコーチ陣から学んでもらいたい。
その後、コーチ陣から自己紹介と共にお話をいただきます。
北九州市は最高107万人いたのに、今は90万人。政令指定都市であっても人口が減るため、何らかの原因があるので深く考えてもらいたい。
フィールドワークの狙いは、エリアをきちんと読み解いていく力と、このエリアはどうなっていったら面白いのかというビジョンをつくっていくための見立てを立てる力を身につけること。まちづくりに必要な能力であるため、鋭くまちを観察する。
豪華な講師陣とさまざまな地域からの受講生がいるので、交流していろんな情報を聞いてもらいたい。
都市の規模感で違いはあっても、世界中を回って見ても都市が抱えている課題はよく似ている。どういう背景でどういうふうにそうなったのかという歴史も含めて、現在と過去を見ていろんなことを考えてもらいたい。
時代によってどんどん変化していく。魚町でスモールビジネスを集積させてエリアの価値を高めた結果、デベロッパーがビルを建てまくっている。その時に住民がどういう判断をするのか、スモールビジネスがどこにいってしまうのか、自分自身がどう生き残っていくのかを常に考えている。自分ごとで考えている人ばかりなので、考え方を学んでもらいたい。
ポートランドは成功事例と言われているが、コロナ禍の影響で空洞化が進んでいて、ライフスタイルホテルのはしりのエースホテルも売却されて違う資本になっているなど街は常に変わる。まちづくりも時代に合わせて変化しないといけない。
フィールドワークはものすごく大事。継続してやることができる人は、ちゃんとしたことができる。
大通りから路地裏までくまなく全部歩いてください。繰り返し各まちの路地から路地まで全部を歩き尽くして、初めてまちが体に染み込んでくる。それが基本ルール。
観察力に基づく、まちをどうやって動かしていくのかという観点が大事なので、楽しみながらやってもらいたい。それが、「まちにダイブする」ということの本質。
まちで暮らしている人たちをよく観察することがベースなので、みなさんも欠かさずやってもらいたい。
バルセロナのまちも30年かけてゆっくりだが激変して、ウォーカブル化している。まちづくりは30年くらいのスパンで物事を考えるのがちょうどいい。
成果を上げなければ金がもらえないのがプロ。プロフェッショナルスクールに来たからには、プロフェッショナルとして毎日正当に契約更新してもらえるようなパフォーマンスでやっていくことが極めて重要。
毎年いろいろな計画を見る中で、まちを全く見ていない人がすごくいる。地元を全然歩いていない。まちづくりをやるためには、まちを歩いて回ることと、いろんなお店に入ることをしないと、地元に何があるかという具体が見えてこない。計画が上滑りするのは地元の情報が圧倒的に少ないから。
まちの企画や事業を仕掛けている人がどうやってまちを見ているかを、各グループで個別にワークして実践してもらいたい。
重要なのは課題ではなくビジョン。やらない人は課題を指摘するが、やる人はこうしたいという夢を語る。ここの圧倒的な違い。課題をつぶしたところで良いまちにはならない。こうしたいという話があって、それに向かっていろんなことが進むからまちが良くなっていく。課題をつぶしてもマイナスから0点に戻るだけ。
いろんなまちに行って、こういう体験がすごくいいな、自分のまちだったらもっとこういうことができるな、ということをみんなで前向きに話していくことがすごく重要。
実践を是非してください。次回の合宿までに、すぐやってもらいたい。組織名や肩書きではいらない。何をやった人なのか、何を仕掛けた人なのかということが地元での信用になる。
自分で始めていったものが地元の人たちに知られることが、まちでより大きなプロジェクトを仕掛けていく基礎になる。何もやっていない人が、デカいことをいきなり言っても、そこに到達することは非常に難しい。
我々もいきなりデカいことをやっているわけではない。最初は小さなことから始めて、雪だるま式に大きくなっていく。事例が名刺になっていく。
やるっていうのがプロの基本。「知る」のではなく「やる」というのが、このスクールの大きな目的であることを忘れずにいてください。
コーチの皆さんから、アドバイスと共にまちづくりに対する熱い想いを伝えていただきます。コーチ陣は、行政と民間の双方から、自分の地域でさまざまな取り組みを実践されている方々。みなさん売れっ子で国内外を飛び回っているような、そうそうたるメンバーが一堂に会するすごい状況になっている。そんなすごい人たちが、受講生のために時間を割いてくれていることに、興奮するとともに気合が入ります。
フィールドワークの良し悪しは準備で決まる
フィールドワークに際して、各グループに分かれてコーチ陣から説明を受けます。コーチからは事前準備として、どの程度調査してきたのか質問されます。しかし、グループメンバーの誰も答えられないものが多々あります。
「そんなことも調べてないの?」
コーチからため息混じりの言葉が漏れます。もちろん、グループのメンバーで事前にミーティングをしながら、各自調査は行ってきました。しかし、コーチが必要と考えるレベルに達していないのです。そのため、フィールドワークに出る前に、以下のように指導があり、30分間で再度情報収集するよう指示が入ります。
都市経営分析はエリアの方向性を見るためのもの。それがないと何をやっていいかわからなくなる。まちづくりは何も決まっていないため、何をやるべきか方向性を立てることが大事。
目的を設定することで、戦略が定まる。戦略からの方法論として戦術がある。いきなり戦術レベルの瑣末な話をするのではない。このまちが何で飯を食っていくのかを考えるのが、都市経営分析。
正解はない。自分が感じた違和感を深く調べつくす。
自分ならまず人口コーホート分析や古地図の読み込みをやる。それを持ってまち歩きをする。本を読むのは当たり前。常に違和感を感じたところを掘る作業をやる。そこから課題を見つけて、解決策を考える。
違和感を感じるアンテナを鍛える。おかしいと感じたところを調べ直すことで、自分の見落としていたところがわかる。
同じ産業構造のまちは同じトラブルがある。
国主導で金太郎飴のような都市政策を実施してきた結果がリノベーションまちづくりにつながっている。政令指定都市においてリノベーションをまちづくりの軸にした2011年の小倉家守構想は衝撃的だった。構想を作ったのは全国初。それから13年経っている。
何も情報がない中でまちに入ってもわからない。最低限の基礎となる作法があって、それをしないまま都市を見ても集められるものは少ない。
自分のベクトルを、何を基準とするか考えることで思いつくことはある。家を買うときに調べるように、都市の交通の便や、周辺の状況を見る。その情報もないまま事業はできない。
行政主導の事業がうまくいかないのも基礎データが無さすぎるため。
人口が減ったといっても90万人がいる。その人口であの規模の商店街は小さい。商店街以外のどこに人が行っているかも考えてもらいたい。そこからポジショニングも考える。
若い人はRESAS(地域経済分析システム)を見てまちに来ない。若い人はインスタを見てまちにくる。Instagramのマップを見て若い人に人気そうなところを探し、そこを実際に見に行って一次情報をとる。
コーチ陣の挨拶でもあったように、フィールドワークの狙いは、まちづくりに必要な能力であるエリアをきちんと読み解いていく力と、このエリアはどうなっていったら面白いのかというビジョンをつくっていくための見立てを立てる力を身につけること。
そのためには、まちを鋭く観察することが必要となるのですが、観察のために必要なのがまちについての仮説をあらかじめ頭の中に入れておくということ。つまり、自分の頭の中に、仮説という「自分なりのまちを測る物差し」がないと、どれだけまちを歩き回っても、何を持って面白いとするのか、何を持って課題とするのか判断できないということです。
そのため、図書やインターネット上で拾えるさまざまな情報などを用いた定量調査を実施した上で、まちに対する仮説を立て、それを現地で検証することが、本来のフィールドワークということになります。
それが全くできていなかった。普段から都市経営分析を実践していなかったことが露呈します。頭が真っ白になりそうながらも、時間が刻々と過ぎていくので、可能な限り調べた情報をグループメンバーで共有してフィールドワークに向かいました。
まちを歩いてもよくわからない…
私が所属するCグループは、リノベーションまちづくりの中心となった小倉魚町地区から旦過市場までのエリアを調査するチーム、行政が主体となって整備した紫川周辺のエリアを調査するチーム、エリアを決めずに面白いと思うところを回り関係者にインタビューするチームの3つに分かれました。
フィールドワークの後に各チームの意見を取りまとめて明日の発表資料を作るのですが、全体の懇親会が18時30分より開始します。そのため、14時30分から16時30分までの2時間で勝負です。私は紫川周辺のエリアを調査するチームになったため、旦過市場を通って紫川方面へ向かいました。
私は現地へ前入りしていたため、前日の夕方と夜、そして当日の午前中の状況をグループメンバーに共有しながら進みます。途中、船場広場や井筒屋の前を通って紫川にかかる鷗外橋を渡ります。土曜日ということもあってリバーウォーク北九州を訪れる人は多いものの、炎天下の中で川沿いの遊歩道を利用する人はほとんどいません。
今度は紫川沿いを通って勝山公園方面へ向かいます。大芝生広場でフリーマーケットがやっていましたが、出店者のほとんどは店仕舞いをしています。そのうちの一人にインタビューできましたが、地域のためにやっているという言葉が聞けたものの、商売については景気の良い話は聞けませんでした。
過去に、公共工事によって河川の護岸工事とともに整備された綺麗な空間は、どこか寂しい感じが漂っています。また、鉄工業を中心に栄えたことで公害によって汚染され、大腸菌すら住めない「死の川」とまで呼ばれた紫川は、今では水質が改善されていますが、そのほとりを利用する人はまばらです。
それと対比するかのように、魚町銀天街を中心とした商店街のほうは、さまざまなものが入り混じった無秩序な空間に人で賑わっています。目と鼻の先の距離感で、これだけ対照的な風景がある小倉というまちに対して、何か心が動いているのですが、全く言語化できない。
これが事前準備を怠った結果だと気づくのに時間はかかりませんでした。自分の頭の中にまちのデータと仮説がないので、まちを見ているようで、何も見えてこないのです。
結局時間切れで研修会場に戻ることになりました。
フィールドワークのフィードバック
研修会場に戻ってからは、フィールドワークで感じたことをグループで共有します。しかし、まちの表面的な印象しか話が出てきません。
コーチから、競合となる福岡市との関係性をどう考えるかと質問がありますが、的を射た回答ができません。さらに、小倉駅前の家賃、テナント料、路線価は、博多駅前と比べてどうかと質問されても誰も即答できず、皆で慌てて調べます。
若干呆れ気味のコーチから助け舟として、都市経営分析をする際は、相対的に見なければ特徴をつかめないため、他の都市および都市圏と比較しながら見る必要があると指導が入ります。そのため、今回の北九州市の場合では、家賃、テナント賃料、路線価などを福岡市と比較して、何なら勝てるのかを考え、そこから誰をターゲットとするかを考えるといった、マーケティングを行うということになります。
なぜ、マーケティングをするのかというと、まちとして今後は何で食っていくのかについて方向性を定めることによって、自分たちがこの場所でどういう事業を行うのかということを考えるためです。
また、まちとして将来に何で飯を食べていくのかを考えるために、過去からの流れについて考えることについても指導が入ります。北九州市は、官営八幡製鐵所とその後身である新日本製鐵株式会社(現 日本製鉄株式会社)を中心に、かつては九州最大の工業都市と支店経済都市として栄えていたが、北九州工業地帯の相対的な地位の低下や産業構造の変化、市内にあった大企業の支店・支社の福岡市への流出などによって、現在は産業基盤が停滞している。
その結果、増加した空きビルを活用して、新たに産業を創出するため、リノベーションまちづくりによって飲食店などの都市型産業を活性化させてきた。しかし、お金を使う消費者がいなければ都市型産業は稼ぐことができないため、まち全体として新たな主力産業が必要になるということ。
その他、小倉は典型的な城下町商店街であり、鉄道駅よりも先に商店街が形成されたため、汽車の煤煙をから遠ざけるよう駅と離れた位置にあること。また、商店街の店舗の多くが、城下町の名残がある敷地であるため、間口が狭く奥行きが長い「うなぎの寝床」のような形状をしていること。このエリアにおいて百貨店の井筒屋の売上規模の影響が大きいことなど、まちの特徴についてアドバイスしていただきました。
コーチからさまざまな視点をいただきましたので、後は、受講生で発表資料をまとめる段階になりましたが、懇親会が迫っており、時間切れです。グループメンバーの一人が、取り急ぎ今後の作業の方向性をまとめてくれたので、作業を一時中断して懇親会に向かいました。
発表に向けて
全体の懇親会は、研修会場とは打って変わって皆で楽しく盛り上がっています。コーチ陣も軽妙なトークで会場を沸かせます。
ところどころで、名刺交換をしながら受講生たちが交流を深めている中、無職の私は名刺を用意しておりません。痛恨のミスです。結局、挨拶するのも気が引けてしまい、すみっこでおとなしくしていました。(次回の集合研修では、「職業 無職」の名刺でも作っておくか…)
ただ、明日のグループ発表の資料ができていないことが気がかりで、酒はまったく進みません。
全体の懇親会が終了した後、各グループに分かれて二次会へ移ります。Cグループでは、明日の個人事業の発表者を選抜して、プレゼンの練習とコーチからのフィードバックを受けます。懇親要素ゼロの真剣な空間です。コーチも受講生も熱が入ります。
それと同時進行で、個人事業を発表しないメンバーがグループ発表の資料を制作してくれています。それらの様子を交互に見ているうちに二次会もあっという間に終了してしまいました。
二次会解散後、発表資料をブラッシュアップするために全員で作業をすることを主張するメンバーと、資料は形になっているので補足内容をフィールドワークの各エリアの担当者が追記するだけで問題ないと主張するメンバーで意見が割れました。どちらの言い分も道理は通っており、話は平行線です。
結局、一部のメンバーが残って作業をすることになりましたが、時刻は23時過ぎでみんな疲労と酒の酔いが回っており、作業は全く進みません。明日もあるので、日をまたいでしばらくしてから解散となりました。
ホテルに帰ってからは、自分のフィールドワークが準備不足で不甲斐ない結果になったこと、積極的に受講生同士で交流が図れなかったこと、グループワークにおいて意見することを遠慮してしまい積極性に欠けたことなどが、頭の中でぐるぐる回っていて中々寝付けません。
そのため、発表資料の補足説明ができるよう調べ物をしていたら、気づけば午前3時を過ぎていました。
「明日は一体どうなるのだろうか…」
そう思いながら眠りにつきました。