クラばな!(仮)第5話「ぼくの心はボールのようにはずむ」
〜コージの視点〜
あ、あの人だ。たいいくかんに入ると、よく村のテレビに出てきて、スポーツクラブのせんでんしてる人がいた。テニスのせんせい。今日はとうとう、ぼくがあの人におそわるんだ。
「こんにちは!はじめまして!コーチの植田といいます。よろしくお願いします」コーチがさわやかに言った。
「ほら、あいさつ!」後ろからついてきていたおかあさんがぼくのおしりをたたく。
「よ、よろしくおねがいします」なんとか言えた。きんちょうする。なんてったって待ちに待ったテニスなんだ。この人が来てから村ではテニスを目にすることが多くなった。おにいちゃんやおねえちゃん、おかあさんがやっている友だちもいる。でもぼくはまだ1年生で、入れるテニス教室がなかったんだ。それが今日、やっと1年生のぼくでも入れるテニス教室がスタートするんだ!まだ『たいけんかい』ってやつで、ちゃんとはじまるわけではないみたいなんだけど。
「じゃあ時間までまだ少しあるから、このボールとラケット使って遊んでていいよ!」うえだコーチがボールとラケットをわたしてくれた。
ボールは1年生のぼくの手のひらからはちょっとはみ出るくらいのスポンジのボール。ラケットはきいろいプラスチックみたいなのでできたやつ。ほんとうのテニスじゃないんだというガッカリもあるけど、それよりもうれしさの方が大きい!これでテニスができるんだ!
「はい!では時間になったので始めまーす!集まってください!」大きなこえでうえだコーチがみんなをあつめた。
「私の名前は植田隆史といいます。『植田コーチ』と呼んでください。今日は皆さんとテニスをやります。一緒に楽しくやりましょう!よろしくお願いしまーす!」コーチが大きなこえであいさつをすると、あつまったみんなもおおごえで「よろしくおねがいします!」とあいさつをした。ぼくはこえがだせなかった。まだきんちょうする。
子どもの数は10人よりは多いとおもう。20人くらいいるのかな。ほとんどが『せんがむら小学校』のせいとだと思う。やっぱり3年生が多いかな?
「ではまずは、ボールやラケットに慣れていきましょう!ラケットの上にボールの乗せて、落とさずに歩けますか!?」うえだコーチが横にしたラケットの上にボールをのせてスーッとあるく。
ぼくもまねをしてみる。すぐにボールがラケットから落ちた。
む、むずかしい!あ、あれ!テニスってこんなにむずかしいの!?みんなは?あ、みんなもできてないや。でも3年生はちょっとできてる。
「じゃ次はボールだけでやりましょう。落としてキャッチしたり、上に投げてキャッチしたりしてみましょう!」うえだコーチはバウンドしたボールをキャッチしたと思ったら、こんどはてんじょうくらいまで高くボールをなげてキャッチした。
す、すごい!ぼくもやってみる。
バウンドキャッチ。できた。これはかんたん。つぎ。上になげる。あ!うしろのほうにとんじゃった!
2年生の女の子がひろってくれた。
つぎは高くなりすぎないようになげる。あ、こんどはキャッチの時にボールが手に当たってはずんじゃった。小さいボールってむずかしいんだな。でもスポンジボール、フワフワしてきもちいいし、なんだかたのしいぞ!
「じゃあ次はラケットでボールを打ってみましょう!」うえだコーチが言うと、いえーい!とこえがあがる。
コーチが上にポンとなげたボールを、ワンバウンドさせてうつれんしゅうみたいだ。コーチをせんとうに、2れつにわかれてならぶ。
「テニスはね、右向きでも左向きでも打つからね」やきゅうとはちがうみたいだ。
「ま、とにかくやってみよう!ラケットの面をボールを飛ばしたい方に向けるんだぞー」うえだコーチがおてほんでうったボールは、ネットをこえてバウンドした。そのボールのうごきがなんだかとてもキレイだった。
せんとうの人からじゅんばんにうつ。からぶりする人もいれば、やきゅうのホームランのようにとばしちゃう人もいた。でもコーチはずっわらって、いいぞいいぞ、と言っている。
ぼくは、からぶりがはずかしいからチョンってやさしくボールにラケットをあてた。ボールはすぐ目の前におちてころがった。
「みんな、空振りしてもいいんだぞー。ボールの動き、リズムに合わせて思い切りスイングしちゃおう!ホームラン、どんどん打っちゃえ!」コーチがそんなことを言うもんだから、おもいきりラケットをふって“ホームラン”をする人がたくさんあらわれた。でもみんなゲラゲラわらってすごい楽しそうだった。
またぼくの番がきた。こんどはおもいきりスイングした。
1回目。からぶり。ちょっとはずかしい。
「ナイススイング!」コーチは笑顔でほめてくれた。
2回目。あたったけどボールは高く上がっただけ。ネットのこっちがわにおちた。
「いいぞいいぞ!面をまっすぐにして、飛ばす方に向けてみよう!」コーチがてのひらをラケットのようにしてアドバイスしてくれた。
3回目。コーチがボールを投げる。上がったボールがおちてバウンドする。ボールがまた上にきたところでおもいきりスイングした。ラケットがボールにあたった。さっきとはちがうかんしょく。ボールはネットをこえてせんの中にバウンドして、さらにいきおいよくはずんでいった。コーチのおてほんみたいなボールがうてた!
「おーー!!!ナイスショット!凄いショットが出ました!!」コーチがおおげさによろこんでくれて、ぼくはさらにうれしくなった。やった!!
けっきょくあれから、“あの球”はいちどもうてなかったけど、ボールなげをしたり、コロコロころがしてうつテニスをしたり、すごい楽しかった!でもやっぱりまた、“あの球”がうちたいな。
テニス教室がはじまったらぜったいに入って、れんしゅうがんばる!
「・・・ごーろくしちはーち。はい、これで体操は終わり!このクラブハイツリーのテニス教室はこれからも1週間に1回のペースでやっていく予定です。やりたい人はおうちの人と相談をして、申し込んでもらってね!テニスはあまり楽しくなかったなーという人も、クラブハイツリーにはフットサルとかランニングとかドッヂビーとか、みんなも入れる教室がたくさんあるから、よかったら一度遊びに来てね!またみんなと会えるのを楽しみにしています。今日はありがとうございました!」うえだコーチがさいごのあいさつをして、みんなはおかあさんやおとうさんのところへ行ってかえった。
「ぜったいにやりたい!」ぼくはすぐにおかあさんにおねがいした。
「楽しかった?」おかあさんがきくので、めちゃくち楽しかった、とこたえた。
「じゃあ先生にも聞いてみましょうか」おかあさんはぼくのせなかをおしてあるきだす。
「先生、今日はありがとうございました」コーチの前までくると、おかあさんがおれいを言う。おかあさんはいつもほかのおとなにおれいを言う。
「あ、ありがとうございました!」こっちにきづいたコーチもおれいを言う。おれいがっせん。
「うちの子、また来ても大丈夫でしょうか?楽しかったみたいで」
「もちろんですよ!楽しかったならぜひ!」
よかった。ほかにもたくさんうまい人がいたし、じつはちょっとふあんだった。
「また一緒にテニスやろうね」こんどはぼくにむかってコーチが言う。
はずかしくてこえが出なかったけど、なるべく大きくうなずく。きもちがつたわるといいな。
「『よろしくお願いします』でしょ」」おかあさんがぼくのせなかをポンとたたく。
「よろしくおねがいします」やっとこえがでた。たぶんへんなにがわらいになっちゃってる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」コーチはぼくにもペコっとおじぎをした。
たいいくかんを出て、おかあさんがうんてんしてきた車にのりこむ。シートベルトをしめる。心ははずむ。今すぐラケットとボールをかいにいきたい。でもきっとおとうさんに言わないとダメだから、家までがまんする。
「テニス、よかったねー。先生もやさしいね」おかあさんがエンジンをかけながら言う。
あ、そういえば、と思った。
「おかあさん、『先生』じゃなくて『コーチ』だよ。学校とはちがうんだから」まったく、と言うぼくをかがみで見ながら、おかあさんがわらった。
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今回はテニスの体験教室に来た小学1年生の目線で描いてみました。
テニスの難しさと面白さを感じたこの子か今後どうなっていくのか、乞うご期待!