クラばな!(仮)第65話「いっそ降れ」

〜クラブマネジャー 大野の視点〜

夏の天気は難しい。晴れていたと思ったら突然雨になることも少なくない。ここ千賀村は村の中での高低差があり、低いところでは雨が降っていなくても、高いところでは降っているなんてこともザラだ。
午後6時。ふと窓から外に目をやると、怪しい雲が見えた。うげ、と思ってスマホを取り出し、天気予報アプリを起動する。雨雲レーダーの予測を見ると、どうやらこの後雨雲が接近し、千賀村にも雨が降るらしい。今日はこの後大人のテニスの活動がある。実は今月はこのクラスは一度もテニスができていない。毎週雨が降るのだ。雨は1週間周期なのか?他の曜日ではそこまで雨天中止になっていない。
もう一人のマネジャーである植田に相談したいが、植田はジュニアのテニスの指導に出てしまっていて、事務所にはいない。コーチに相談したいが、先ほど電話をかけたら出なかった。恐らくまだ仕事中なのだろう。
どうしようか。雨雲レーダーを100%信じるなら中止だが、まだ降ってきていない中で中止判断をするのは勇気がいる。もしこのまま降らなかったら・・・。開示時刻の7時半までまだ時間があるから、とりあえず様子を見てみることにして、俺は中断していた作業に戻った。
時計の針が6時35分をさす頃、あたりが一気に暗くなり、強い雨が降り始めた。雨雲レーダーは正しかった!これはもう迷う必要はないと判断し、まずはコーチにLINEを送った。「残念ながら雨ですね。今日は中止にします」
そしてすぐさま会員へも一斉に中止のメールを送った。
これで今週も中止となってしまったが、仕方ない。屋外でのスポーツは天候に左右される。雨の中参加する人はいないから、中止はやむを得ない。残念ではあるが、どこかスッキリした気分で俺はまた作業に戻った。テニスも中止になったことだし、さっさと終わらせて今日は早く帰ろう。
すると、7時を過ぎた頃、雨が極めて小降りになってきた。俺は焦った。もしかして止む?テニス、できる?中止判断、失敗?
スマホを取り出してまた雨雲レーダーを見る。開示時刻の7時半の予報を見ると、雨雲は千賀村にかかっていることになっていた。うん、中止判断は変えない。このまま中止だ。
しかし開始時刻が近づくにつれて、雨脚は確実に弱まっていった。今さらやるとは言えない。もうみんな中止のつもりでいるだろう。そう思ってもどこかで不安を覚える。もういっそ、雨よもっと降れ、と俺は思った。
7時半。雨は完全に止んでいた。会場のテニスコートは砂入り人工芝で、水捌けが異常に良い。雨さえ止んでいれば余裕でプレーできる。あーあ。できたか。そう思っているところに、事務所の電話がなった。
「はい、クラブハイツリー、大野です」電話に出ると、相手はテニス会員だった。
「あ、テニスの大館ですけど、今コートにいるんだけど、電気ついてないんだよ。今日やるよね?」おそらくメールを登録していないか見ていないのだろう。中止連絡を見ずに行ったようだ。
「あ、メールしたのですが、今日は雨予報だったので中止にしたんです」俺は申し訳なさそうに言う。
「いや、降ってないよ」
「そうなんですけどね、雨雲レーダーだと降る予報だったんですよ」
「今からでもやればいいじゃん」
「いやー、コーチにも中止と伝えてしまいましたし、今からいきなりやるとなっても出てくる人がいるか・・・」
「まぁ、そうだな。じゃあ中止ね、はいよー」会員の大館さんは電話を切った。
「そうだよねー、できたよねー」と俺は一人呟いて、窓を見る。反射して映る自分の姿が何とも情けない。もう1件くらい電話が鳴るかなと思ったが、なかった。
俺は帰り支度をして事務所を出た。空は完全に晴れて星が見えていた。愛車のルクラに乗り込み、走り出すと、ポツリポツリと雨が降ってきた。
ほら見ろー、と俺は叫んだ。

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上杉健太@総合型地域スポーツクラブ
総合型地域スポーツのマネジメントを仕事としています。定期購読マガジンでは、総合型地域スポーツのマネジメントに関して突っ込んだ内容を毎日配信しています。ぜひご覧ください!https://note.com/kenta_manager/m/mf43d909efdb5