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地域おこし協力隊は『就職先』か、『起業の手段』か。

 どうも、ふじみスポーツクラブの上杉健太(@kenta_u2)です。埼玉県富士見市で、誰もがいつまでも、自分に合ったスポーツを続けられる地域社会の実現を目指して、総合型地域スポーツクラブの運営をしています。

 今日は、『地域おこし協力隊は就職先なのか、起業の手段なのか』というテーマでお話ししたいと思います。


 まずはご報告です。
 昨日、岩手県体育協会さんからご依頼をいただき、総合型地域スポーツクラブが地域おこし協力隊を活用した事例についてオンラインでお話しました。主に行政のかたやスポーツ統括団体のかたが参加者で、常時40〜50名くらいのかたが参加していたと思います。

 事例の発表は私だけでなく、喬木村役場の皆さんやたかぎスポーツクラブの会長からもあり、私からすると同窓会のようで非常に楽しかったです!

 改めて、私は非常に恵まれた環境で仕事をしていたなと思いますし、私と喬木村のような事例が全国にたくさん生まれると、総合型地域スポーツクラブの活性化に繋がるだろうなぁと思います。なので、もし他の県でも地域おこし協力隊を総合型地域スポーツクラブで活用したいところがあれば、ぜひご相談いただきたいです!可能な限り力になります!


 さてここからは、今回の件で改めて気付いたことを共有したいと思います。 

『地域おこし協力隊』と括ってみても、結局は一人の人

 私の地域おこし協力隊としての経験談をお話した後で、今回のコーディネーターのかたから質問をいただきました。それは、「それは、地域おこし協力隊だからできたことなのか、上杉さんだからできたことなのか」ということでした。鋭い質問ですよね。

 これに対する私の回答は、「やり方の話をするなら、例えばテニス部門を立ち上げてクラブの柱にしたとかは、上杉だったからこそ、と言えるでしょう。しかし、じゃあ上杉個人が喬木村に移住して同じことができたかというと決してそうではなく、地域おこし協力隊という立場だったからこそ様々な資源が活用できて、支援を受けられた。地域おこし協力隊という要素は大きかったと思います」でした。

 このような講演をさせていただく場合、必ず聴いているかたに転用可能なようにお話をしなければならないので、事例の発表とはいえ最後は一般化をしていきます。しかし、結局は人がやることなので、“誰がやるか”によって結果は大きく変わる。それは間違いないことです。いくら地域おこし協力隊を利用することが有効といっても、やはり『誰がやるか』は重要です。

 そういう意味では、地域おこし協力隊の活用については追究しながらも、リクルーティングもやっぱり重要なのだと思います。


リクルーティングには2つの方向性がある

 リクルーティング(採用)は行政担当者にとって一番の悩みの種のように思います。地域おこし協力隊関連の講演をさせていただくと、必ず最後にはそういう話になります。「どうやったらいい人財に来てもらえますか?」と。

 今回の件で私は重要なことに一つ気付けた気がします。それが、地域おこし協力隊のリクルーティングにおいては、実は方向性が大きく2つに分かれているのではないかということ。

 2つの方向性とは、『起業家を募集する』と、『働き手を募集する』です。それぞれ説明していきますね。


起業家としての地域おこし協力隊

 まずは『起業家』としての地域おこし協力隊を募集するという方向性について。『地域おこし協力隊』という言葉を考えれば、本来の地域おこし協力隊とは起業家に近いイメージなのだと思います。地域を”起こす”人ですからね。地域おこし協力隊とは。

 地域に課題があり、それを地域の人だけで解決できないからこそ、地域おこし協力隊という打ち手が生まれたはず。課題解決ができるプレーヤーを外から送り込もうという国策ですよね。
 その時に、課題解決の明確な打ち手がない場合に、起業家を求めるということになるのだと思います。目指している姿があって、課題(理想と現状のGAP)があるのは分かっているのだけど、打ち手が分からない(どうしたら良いか分からない)という場合ですね。

 起業家としての地域おこし協力隊を募集しようとするなら、制限は極力少ない方がいいです。勤務時間の規定、市町村から出てはいけないなどの行動制限、ビジネス領域の制限などは設けてはいけません。とにかくフリーにするべきでしょう。
 ただし、「この領域の課題を解決したい」などのように、ある程度は自治体でコントロールしたい場合には、例えば、「起業は観光の領域で」とか「起業はスポーツの領域で」といった制限をかけるのは必要なことでしょう。そこでマッチングさせればいいだけですね。
(※私の場合は総合型地域スポーツクラブという極めて狭い領域でのマッチングだったので、本当に小さな確率で出会ったと言えるのかもしれません)

 とにかく、起業家としての地域おこし協力隊を採用したいなら、自由や裁量の高さを感じてもらわなければなりません。その際に、具体的すぎる業務内容や限定的すぎる条件は阻害要因となるので注意が必要です。

 起業の為の利用手段として地域おこし協力隊という制度を捉えると、非常にうまみがあります。任期の3年間の間に事業を軌道に乗せ、その間、売り上げに関わらずサラリーが支給されるのですから、リスクを最小限にして起業ができます。さらに、活動費もついてきますし、行政支援も受けやすい。田舎で事業を起こさなければならないという大きな制約はありますが、それが差し支えないビジネス領域であれば、うま味は非常に強いです。


働き手としての地域おこし協力隊

 2つ目の方向性が働き手としての地域おこし協力隊を採用するということです。既に事業としては確立されていて、人口減少などにより働き手が不足している場合に採用したい方向性ですよね。実はこっちのパターンで募集している自治体がかなり多いのではないかと言うのが私の印象です。

 例えば農業ですよね。地域おこし協力隊が農業をやることは多いですが、恐らく今更革新的な技術を農業界に持ち込んで新しい何かを起こそうとする人はあまりいないでしょう。その地域の農家さんの仲間入りをして、やり方を教わりながら、地域の農業の働き手の一人となっていくパターンが多いと思います。

 また、喬木村の総合型地域スポーツクラブでもまた地域おこし協力隊が関わろうとしているようですが、「このクラブをどうにかしてやろう」というよりは、「クラブにも関われたら」「お手伝いできたら」くらいの感じのようで、それはつまりクラブの働き手の一人として採用することになるということですよね。クラブ経営や事業の内容がある程度確立されていて、課題と打ち手が明確な場合には、このように働き手としての地域おこし協力隊を期待するようになるんですね。

 ここで採用する側が絶対に注意しなければならないことは、働き手の一人として募集する場合の地域おこし協力隊という立場や制度は、地域おこし協力隊側からすると魅力がかなり小さいということです。要するにこれは、地域おこし協力隊を、一つの就職先にするということとほぼ同じ意味になってしまい、そうすると世の中に溢れている他の就職先と並べて検討されることになります。そうなった時に勝てますか?ということです。報酬は魅力的ですか?将来性はありますか?ここに自信を持って「YES!」と答えられる自治体は少ないでしょう。ここをしっかり認識しておく必要があると思います。

 そう考えると私は、地域おこし協力隊を採用する場合の基本スタンスは、『起業家として採用する』であるべきだと思っています。少なくとも私は、喬木村が総合型地域スポーツクラブのマネジャーを募集していた時に、働き手の一人くらいの感じで考えていたら絶対に行きませんでした。設立1年目でマネジャーを募集しているということで、まだ何もでき上っていないクラブをマネジメントできるということは、かなり自由にできそうだなと思えたからこそ、私は喬木村へ行ったんです。一からの起業ではありませんが、起業マインドを持っていたからこそ、私は地域おこし協力隊という制度を利用しようと思いました。


 さて、もう一つ喬木村の発表を聞いていて、すごい驚いたことがあります。それは、喬木村が丁寧にクラブの設立経緯について説明していたパートについてです。私が知らないことがめちゃくちゃあったんです(笑)

 私は喬木村の総合型地域スポーツクラブが設立された2年目に地域おこし協力隊としてジョインしました。厳密に言えば、2年目以降のクラブしか知らないのです。
 もしかしたら事前にクラブ設立の経緯などの説明を受けていたのかもしれませんが、少なくとも私の記憶にはほとんど残っていませんでした。この事実に少なからず衝撃を受けたのですが、でも、ここにもまた重要な気づきがありました。


地域おこし協力隊は地域に染まるべきではない

 ここからは起業家としての地域おこし協力隊をイメージしてお読みください。

 地域に新しい産業を作るとか、会社を作るとか、事業や組織を変革するとか、そういった結果を地域おこし協力隊に期待する場合、地域おこし協力隊には事前情報は必要ない。これに気付きました。

 厳密に言えば情報は必要なのですが、それは地域の人から与えてはいけないものなんです。どういうことか説明しますね。

 重要なのは、同じものを見ても、見る人によって見え方は違うということです。例えば、私は喬木村の稼働率の低いテニスコートを見てテニス部門を立ち上げたのですが、村の人はずっとそのテニスコートを目撃していたはずです。学校のすぐ近くにある総合運動場の一角にあるのですから、かなり多くの人がその状況を見ていたはず。でも、村の人からしたら誰もいないテニスコートは日常の風景でしかなく、「そういうものだ」としか思いません。ところが、「クラブに基幹となる事業を!」と思っている私には、まだ手を付けられていないブルーオーシャンに見えるわけです。チャンスでしかない。

 たぶん私は村役場の人に村内を案内してもらっている時にこのコートをはじめて見たと思うのですが、もしもこの時に役場の人が「このコートはかつては賑わっていたんだけど、今では全然使われない。何とか色々やってみたんだけど、どうしてもだめだね。この施設はもう使えないと思うよ」とか言っちゃったとしたらどうでしょう。ひねくれものの私は、かえって「ここで何かしてやろう」という気持ちを持つような気もしますが、少なくとも『この施設は魅力がない』という先入観は植え付けられることになりますよね。

 せっかく外からまっさらな状態で来ている人がいるのだから、地域の資源はできるだけフレッシュな目で見てもらった方がいいです。そうすれば、地元の人には発見できなかった資源の活用方法を思いつくかもしれない。必要な情報は、起業家であれば自分から質問してくるはずです。地域の人は、聞かれれば答えればよくて、自分からあれもこれも”教えてあげる”というのはかえって逆効果になりかねないのでやめた方がいい。
(※よかれと思ってやっていることは分かる!それはよく分かる!)

 今回私が気付いたのは、私はクラブの設立経緯を知らなかったからこそ、自分の描くクラブ像を追究できたのだということ。そして、だからこそ私はどんどん事業の拡大路線を突き進めたのだということです。もしも、クラブの設立に携わった人たちが、私に熱烈にクラブ設立の経緯や目指しているクラブ像などを話していたら、少なくとも私はそこに気を使わなければならなくなったし、アイデアもある程度限定的になっていたことでしょう。
 ここに関しては、行政やクラブの役員の皆さんが意図的に私に情報を伝えなかったのか、あるいは、実は私は説明を受けていたのだけど聞かなかった振りをしたのか、シンプルに忘れていたのか、実態はもはや分かりません(;^_^A でも事実として言えるのは、私はクラブの設立経緯のことを無視したからこそ、クラブの改革・事業拡大を進めることができたということです。これは間違いないと思います。

 起業家としての地域おこし協力隊を採用するなら、思考を制限してしまうような情報(特に、地元住民の常識や慣例、思い込み)は極力与えないようにした方がいいのだろうということです。

 どうしても地域おこし協力隊は地域に馴染もうとします。見知らぬ土地で知り合いもいませんから、当然の行動選択です。誰も一人で生きていきたいとは思いません。でも、その土地に染まってしまっては、せっかく外から来た意味がかなり減ってしまいます。同じ視点で地域を見ては地域は起こせないんです。そういう意味で、情報を意図的にシャットアウト・コントロールすることは重要です。協力隊目線で言うと、情報は自分から取りに行くべきで、地域の人からもたらされる情報は鵜呑みにしてはいけないということです。
(※別に地域の人が悪意をもって何かを言ってくるわけではないですからね(笑) ただ、思い込みや先入観というのを侮らない方がいいということです。それはどこにでも存在していて、言っている人は気付いていないということです)


 ということで今回は、地域おこし協力隊についての新しい気づきについてお話ししました。やっぱり普段話さない人とお話しすると、それだけで多くの学びが得られますね。それをお仕事としてやらせてもらえることをとても幸せに思います。地域おこし協力隊も総合型地域スポーツクラブも行政も、3者がWin-Win-Winになれる方法をこれからも考えていければなと思います!
(※とはいえ、協力隊としての記憶はどんどん古くなっていくので、私が地域おこし協力隊について語れるのもあと1~2年がいいところでしょう!)

今回もお読みいただきありがとうございました!
ではまた!

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総合型地域スポーツクラブや筆者の挑戦のリアルな実態を曝け出しています。自ら体を張って行ってきた挑戦のプロセスや結果です! 総合型地域スポーツクラブをはじめ、地域スポーツクラブの運営や指導をしているかた、これからクラブを設立しようとしているかた、特に、スポーツをより多くの人に楽しんでもらいたいと思っているかたにぜひお読みいただきたいです!

総合型地域スポーツクラブのマネジメントをしている著者が、東京から長野県喬木村(人口6000人)へ移住して悪戦苦闘した軌跡や、総合型地域スポ…

総合型地域スポーツのマネジメントを仕事としています。定期購読マガジンでは、総合型地域スポーツのマネジメントに関して突っ込んだ内容を毎日配信しています。ぜひご覧ください!https://note.com/kenta_manager/m/mf43d909efdb5