アメリカの美大で学んだこと08:ポートフォリオに入れるもの
みなさんはポートフォリオを作ったことはありますか?
ポートフォリオっていうのはいわば自分の渾身の製作物を詰め込んだ、作品集です。ウェブサイトにまとめたり、印刷物にしたり、作り方はたくさんありますよね。
僕はある時期まで、ポートフォリオとは「作品(技術力、実績)を見せるためのもの」と思っていたことがあります。もちろんそれは間違いではないんですが、ポートフォリオにはもう一つ重要な要素があるのを美大で教えてもらいました。
それは「自分らしさ」です。
とあまりピンとこない方もいると思うのですが、実はめちゃめちゃ重要です。
初めて作るポートフォリオ
僕が初めてポートフォリオを作ったのは、大学2年生の終わり頃でした。
うちの大学では「中期ポートフォリオ」というものの提出が義務で、卒業までの授業工程(約5年)が半分ほど終わった段階で今まで作ったもの(主に学校の課題)を作品集として提出しなければなりません。そしてそのポートフォリオが一定クオリティに達していると判断されなければ、その先の授業を取る許可がおりないのです。
※ちなみに中期ポートフォリオのクオリティチェックは教授とプロの卒業生が行います
この中期ポートフォリオは一度落選しても半年後に再度チャレンジできるのですが、二度落選すると「学校を続けるのか、続けるとしても次はいつ提出すべきか」という話し合いを教授としなければなりません。ポートフォリオが通過しないと取れる授業がなくなってしまうこともあるので、このタイミングで学校をやめてしまう人も結構います。恐ろしいですよね。笑
そして僕はというと、最初の挑戦で落選してしまいました。
後がない2度目の挑戦
ショックでしたがクヨクヨしてもしょうがないので半年後の再挑戦に向けて作品を作り続けます。全課題をポートフォリオに入れられるクオリティにするという気持ちで半年間授業を受け、いよいよ二度目の挑戦です。
正直二度目のポートフォリオ作りは気が気じゃなかったです。半年で上達しているし作品も増えているのですが、あと一回落ちると取れる授業がなくなる可能性もあったので、とにかく慎重に審査に受かるポートフォリオ作りを始めました。
教授は何も教えてくれない
中期ポートフォリオの提出が二週間後に迫った頃、教授にお願いして時間を作ってもらいました。僕はどの作品を選ぶか、そしてどの順番に並べるか(基本自分が推したいものが前のページにくる)について悩んでいたので、その辺りのアドバイスをもらえればと思っていました。
パラパラとページをめくった後、教授はなんとも気の抜けたトーンで口を開きます。
「まぁいいんじゃない?」
まぁって、、、
もう後がない僕は焦って質問します。
「これで受かるのかな?もっとこの作品を前に持ってきたほうがいいとか、この作品はクオリティが低いから外したほうがいいとか、なにかある?あとは全体の構成とか、、」
教授は僕を遮ります。
「ケンタ、一旦落ち着こう。状況もあなたの気持もわかってる。でもそれを踏まえた上で、どの作品を選ぶべきだとか、そういったことにアドバイスをする気はないわ。」
せっかく時間まで作ってくれたのに、、なぜ? 教授は続けます。
「私たちはポートフォリオを見る時、上手く描けた作品や技術力だけを見てるんじゃないの。あなたが何を良いと思い、何を良くないと思ったのか、そして何を見せたいのか、そういったあなた自身の考えが見たいの。どれを選ぶかっていうのがとても大事。だから私がそこに口を出すわけにはいけないの。」
言っていることはわかる、わかるんだけど、、、もう後がないんだからちょっとくらい助けてくれたっていいじゃん、、、
思ってたアドバイスがもらえなかった僕は、その先の進め方が見えないまま教授のオフィスを後にします。
クラスメートからのアドバイス
提出日の一週間前には、クラスメートや先輩が集まって中期ポートフォリオにアドバイスをくれるレビュー会が開かれます。先輩は僕らの苦しみを知っているので、これを入れたほうが良い、これはダメだと、たくさんのアドバイスをくれます。笑 でもこれはこれで難しい。判断基準が一人一人違うんです。ある先輩が入れた方が良いと言われた作品を、別な先輩は外せと言う。もうどうしたら良いのかわかりません。笑
そんな中、同学年で半年前に中期ポートフォリオ審査に合格しているクラスメート、ジョンがやってきました。僕はジョンの絵がとにかく好きだったのもあり、彼に状況を説明しアドバイスを求めてみました。
ひと通りページをめくったジョンは僕に質問をしてきました。
「この作品はなんで一番最後のページにあるの?」
「この作品」とは僕が美大に入る前に友達と製作したコマ撮りアニメーションのセット(の写真)でした。美術を学び始める前に知り合いと一緒に製作したものです。
「いや、これは学校で製作したものじゃないから、、、そもそも絵ですらないし。実はこのページはポートフォリオから外そうかと思ってるんだよね。」
ジョンは少し考えて、答えます。
「このページはなんていうか、、、すごくユニークでケンタっぽい気がする。絵じゃないし、確かに学校でやってることとは違うかもしれないけど、でもすごくケンタを象徴してる気がする。このページはもっと前に入れた方が良いんじゃないかな。」
ジョン本気か、、? その場で答えを出せなかった僕は「そっか、考えてみるね。」くらいに答えたのを覚えています。
余談ですが、このアドバイスをくれたジョンはこんな人。彼はなんと卒業後に東京に移住してきました。近いうち彼にフォーカスした記事も書きたい。
彼のウェブサイトはこちら
https://jonapilado.myportfolio.com/
提出、そして結果
提出日が迫り、いよいよポートフォリオを仕上げなければいけません。僕は提出日の数日前の段階でも、作品を選びきれずにいました。
「審査に通る作品ってどれだ?」と言う基準で作品を選んでいた僕は、もう道を見失っていました。今考えれば当たり前ですよね、だって僕は審査をする人じゃないし、基準なんてわかるはずもありません。
結局前日まで迷いに迷った僕は、ジョンに言われたページをポートフォリオ序盤の一番見せたい作品たちの中に入れました。悩み疲れたおかげで、一番自分らしい作品をぶつけてみようと直前になって吹っ切れたからです。
そして結果発表。ポートフォリオを提出した全生徒にメールで審査通過者一覧が送られてきます。その中に自分の名前がありました、なんとか合格していました。
受かったのはジョンに言われたページの効果だけではないと思います。でも「あのページを推しても受かった」という事実のおかげで、少し自分の中でのポートフォリオの概念が変わり始めました。
あるリクルーターの言葉
うちの学校にはたくさんの企業からリクルーターがきます。
リクルーターたちは学生のポートフォリオを見て、そこから数人選び面接をしてくれます。インターンの獲得に繋がることもあれば、アドバイスだけ受けて終わりの時もあります。
ラッキーなことに僕があるスタジオの面接に呼んでもらった時のこと。リクルーターにポートフォリオのどこを見ているのか、何が大切なのかを聞いてみました。その回答を聞き、先ほどの教授とジョンの話思い出したことを覚えています。
リクルーターの方はこんな話をしてくれました。
「ポートフォリオを見たときに感じる「その人らしさ」がすごく大事。技術って会社に入ってからでも教えられるし、実は学生の技術って本人達が思っているより差が少ないの。でもその作品から感じる雰囲気や、この人はアーティストとしてこういう物が好きだっていうのは、私たちは教えることはできない。そしてリクルーターっていうのは素敵な「らしさ」を持っているアーティストを見つけると、この人をチームに加えたらどんなマジックが起こるんだろうって想像するのよ。」
この話を聞いて、ポートフォリオについて大事なものがスッと理解できたのを覚えています。うまい人達がたくさんいる中でどうやって埋もれないようにしたらいいんだろうと悩んでいた時期もあったんですが、「らしさ」は他の人と同じにはならないんですよね。
例えばですが、僕は真面目にバカなことをするのが好きです。なので自分のポートフォリオサイトのトップページにはこの絵を置いています。
Banana Split(アイスクリームの味)というお題で描いたもので、普通にアイスを描いても面白くないんでボーリングのスプリットに見立てて描きました。本当くだらないダジャレだし、解説するのも恥ずかしいんですが、一番自分っぽいイラストだなと思ってます。
まとめ
もしかすると技術的に優れた作品や汎用性の高いスキルを多くポートフォリオで示すことができれば内定をくれる会社の数は増えるのかもしれません。
でもそれが自分が本当に作りたい作品に関わるチャンスをくれるかというと、そうではない気がします。
「自分はこんな人間で、こう言ったものが好きだ、こういうものを作っていきたい。」っていうその人「らしさ」が出ているポートフォリオって見ていて楽しいし、一緒に働きたいと思えますよね。そんなポートフォリオをしっかり準備しておけたら、きっといい機会に恵まれるのではないかと思います。
もちろん「らしさ」を出すには技術が、、、という話はこの記事の内容とかぶるのでもしよかったらこちらも読んでいただければと思います。
アメリカの美大で学んだこと05:「絵がうまい」より大切なこと
https://note.com/kenta_design/n/n54064d88a7de