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なぜ私はフリーランス麻酔科医になり、そしてやめたのか?その道のりと現実①

はじめに

私は10年ほど大学病院で勤務した後、フリーランス心臓血管麻酔科医として独立しました。
その選択には不安もありましたが、チャレンジしたいという気持ちが勝りました。

フリーランス時代にはMM2Hビザを取ってマレーシアへの教育移住を行ったり、渋谷三丁目クリニックを立ち上げたり、一般社団法人東日本麻酔科医ネットワークを作って麻酔科医の有料紹介事業なども行ってきました。
いろいろとチャレンジすることができた貴重な時間だったなと思います。

現在、フリーランス麻酔科医という働き方は減少傾向にありますし、私自身もいわゆる典型的なフリーランス麻酔科医は引退しています。
ここまでの経験を振り返ることで、医師としてのキャリアや働き方の多様性を考える一助となれば幸いです。

今回はなぜフリーランス麻酔科医になろうと思ったのかを中心に総論的に書こうと思います。
詳細についてはかなり膨大な量になるので、適宜アップしていこうかと思います。



麻酔科医を選んだ理由

もともと私は内科医として研修を始めました。
今の研修医制度と違って、自分が入りたい科にいきなり入局するというシステムでしたが、いざ内科に入ってみると病棟業務や慢性疾患の長期的な治療は、自分には向いていないと感じるようになりました。

当時の研修医システムでも自分の興味のある他科をいくつか選んで3か月くらい回れたため、麻酔科をその一つとして選択しました。
やってみると、慢性疾患が多く、終わりが見えにくい「マラソン」のような働き方より、手術という短期間で結果が求められる「短距離走」のような麻酔科の業務が自分には心地いい感じがしました。

あと、仕事の評価の違いも大きかったですね。

当時(20年前ですが…)所属していた大学病院の内科では、効率的に仕事をこなす医師より、遅くまで残っている医師が評価されるシステムでした。
なにせまだ、電子カルテではなく紙カルテだったので、写経のように毎日同じ内容の文章を書いて、用事もないのに病棟に残る若手医師が褒められてましたね。
要点をまとめて、変化があった点に絞ってカルテを書き、患者さんの容体が落ち着いていれば定時に帰るタイプの自分は酷評されてました。

麻酔科研修時代は上司に、早く仕事を終わらせて定時に帰れ!と言われたのが何より衝撃でした。
早く仕事を終えるという当たり前のことが評価される数少ない科だったのが最後の決めてだったかもしれません。


フリーランスを選んだ理由

研修医が終わり3年目から麻酔科に転科し、麻酔科医としての修業を開始しました。

当時は麻酔科は不人気医局の代表格で自分の同期はゼロで上下1学年にもほとんど人がいませんでした。
その後の麻酔科人気を考えると信じられないような状況でしたが、そのぶん最初からハードな症例もどんどんやらされたため促成栽培されたような気がします。

大学病院での勤務はやりがいもありましたし、大学院での学位論文も書きおわったところで、次第に「このまま大学の役職を上げていくことに興味が持てるだろうか」と疑問を抱くようになりました。
また、自分の本当の市場価値を試してみたいという思いも強く、自分の力だけで仕事を獲得する挑戦をしたくなりました。
さらに、フリーランスであることを最大限利用して、開業などの事業も平行しておこないたいと考えるようになりました。

もちろん、不安もありました。大学医局という後ろ盾がなくなれば、仕事が途絶えたり報酬が減ったりする可能性もあったので。
しかし、それでも「安定より挑戦」を選びたいという気持ちが勝り、フリーランスという道を選ぶことにしました。


フリーランス麻酔科医としての現実

1. 初めての現場で感じたこと

最初の仕事は東京都内の中規模病院でした。
トラブルや困難が起きたとき、「もう医局は助けてくれないんだ」と感じ、自分が全責任を負うプレッシャーを実感しました。
それまで以上に、現場に対する緊張感が高まった瞬間でした。

2. フリーランスの魅力

フリーランスとして働くことで、報酬が増えたのは単純にやりがいになりました。
また、自分の裁量で仕事を受けられるため、時間や休みの融通が利きやすくなり、生活の自由度が大きく向上したのも大きかったです。

3. フリーランスの課題

一方で、体調管理には非常に気を遣うようになりました。
代わりがいないので、自分が倒れればすべてが止まってしまいます。
また、収入は給与所得扱いになるため、節税対策が限られる点もフリーランス特有の課題だと感じました。

給与を得ながら節税するためには別事業で個人事業主になるとか、給与ではなく事業報酬として受け取るなどの方法がいくつかあります。
いずれ、契約や節税などについて、そのメリット・デメリットについては今後の記事で書こうと思います。


現在のフリーランス麻酔科医の現状

現在、真の意味でのフリーランス麻酔科医はほとんど存在しなくなっています。
麻酔科専門医の更新条件により、単一施設で週3日以上専従することが求められ、複数施設を渡り歩く本来のフリーランスとしての働き方が事実上難しくなったためです。
現在では、単一施設で常勤もしくは半常勤として勤務しながら空いた日に他施設で働く「半フリーランス」の形が主流になっています。

この働き方は安定性が増す一方で、得られる給料の天井が低くなりやすいこと、自分で仕事を探したり開拓したりする事業性が薄れることなどフリーランスの醍醐味が失われているとも感じます。


フリーランス的な生き方を目指す方へ

過去のような本格的なフリーランスは難しいかもしれませんが、半フリーランスで空いた時間を麻酔以外の活動に充てることで新しい可能性を広げることができるかもしれません。
臨床業務に加え、教育や研究、事業に挑戦するのも一つの選択肢です。ビジネスのアイデアなどがあればそれを実現するのもいいでしょう。
安定と挑戦のバランスを取りながら、自分なりのキャリアを築いていってほしいと思います。
もちろん、安定のみを追求していけないわけではありません。
無理なチャレンジでストレスを感じすぎて心を病んだり、体を壊しては元も子もないですから。


おわりに

フリーランス麻酔科医として働いた経験は、私にとって貴重な財産です。
多くの現場で人脈を築き、麻酔業務以外の分野にも目を向けるきっかけになりました。
今後、医療界でのキャリアを考える方々に、この記事が一つのヒントになれば幸いです。

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