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Architecture for Spirituality

NOT A HOTEL DESIGN COMPETITION 2024に「JOMON」と題したプロポーザルを提出した。
一万年以上の平和が続いたといわれる縄文のエッセンスを現代的に解釈し、今まで探求してきた「和が自ずと生まれる場」を建築的に表現したものだ。
建築的な特徴としては、穢れを祓い清める10メートルの人工滝、大いなるものとの繋がりを感じさせる45度の茅葺き屋根、そして大小の円弧がある屋根裏空間。
自分と、他者と、自然と、宇宙との繋がりを思い出すヒーリングセンターを、NOT A HOTELのひとつとしてつくってみませんか、という提案だった。
正直言って、無謀ともいえる挑戦的なアイデアだったと思う。

結果は、一次審査を通過することはなかった。でも、この数ヶ月のプロセスを振り返ると、たくさんの学びと気づきを得ることができた。だからこそ、このnoteに記録しておこうと思う。
このプロジェクトを通じて、自分が建築というフィールドで何を感じ、何を考えたのか。そして、もしこれを読んでくれる誰かと新しい繋がりが生まれたら素晴らしいと思う。


建築への熱を取り戻す

僕が東京理科大学理工学部の建築学科を卒業してから13年が経った。その間、製図ソフトやCGソフトに触れることはなかったし、建築界隈との繋がりもほとんど消えてしまった。

でも、このコンペティションに参加することで、再び建築への情熱を取り戻すことができた。久しぶりにペンを取り、スケッチを描いた。モデリングやレンダリングはほぼゼロから学び直した。締め切りまでの時間は限られていたけれど、その過程で自分の中に眠っていたなにかが確実に目覚めた。

もちろん、提案としてはまだまだ未熟だったかもしれない。でも、それでも僕はこのプロセスを通じて、「和」という概念について建築的な視点で考え始めることができた。それだけでも挑戦した価値は十分にあったと思う。


物理的な場の重要性

かつて「せんだいデザインリーグ」のファイナリストの発表舞台でNETWORK VILLAGEという非現実的な構想をプレゼンテーションした時から、自分は物質的な建築設計の道から離れたと思っていた。
でも、社会に出てから様々な形で場づくりに関わってきて、一周回って物理的な空間の重要性に気付かされた。

清水博氏の「関係子」と「場所」という概念が連想して頭に浮かぶ。「関係子」は生命システムが自己組織化し、その「場所」に応じた振る舞いを決定する要素だという。
この考え方は、人間と空間との関係にも当てはまる。僕たちは単なる物理的存在ではなく、周囲との相互作用によって自己形成する生命システムだ。そしてその空間もまた、人間との相互作用によって意味を持つ「場所」になる。

僕自身、リトリートや研修などで場づくりに携わってきた。その中で感じたことは、人々の在り方に応じて、その場の空気感が変わるということだ。同時に、その場自体もまた、人々の意識に影響を与える。
四角と円、直線と曲線、高さや低さ、光と影──それぞれの要素がいつのまにか意識へ作用する。それを意図して純粋化された一つの到達点が茶室空間であろう。


Architecture for Spirituality

意識への働きかけを意図した建築設計は可能だろうか?
そう考えると、自然と縄文文化へと思いが向いた。縄文文化は日本の精神性と自然との共生というテーマで最も原初的な形態だと言える。そしてその精神性は、日本人が長い歴史の中で追求してきたものだ。

近代以降の成長主義によって物質的豊かさは得られた。しかし今、多くの人々はそれ以上の物質的豊かさを望まなくなっているようにも思える。では、精神的豊かさとは何なのか?それについて考え続けたいと思う。

精神的豊かさとは、人間と空間、部分と全体が相互作用する中で、「和」が生まれる状態、すなわち「ひとりでありながらひとつである」という状態に鍵があると僕は思っている。

建築物が規定する物理的境界内、家ならば家族内の、オフィスなら仲間内の、公共施設なら地域住民内で、いかにして「ひとりでありながらひとつである」状態になるのだろうか?

その鍵は、水平的には「周縁(ひとり)と中心(ひとつ)」の関係性、垂直的には「現象(ひとり)と潜象(ひとつ)」の関係性にあると思っている。
それらの要素を今回「JOMON」で空間的に表現しようと試みた。

主催するリトリートで共有しているダイアグラム

これからも、「Healing Connections」としてこの探求を続けていきたい。研修など人間の意識に直接働きかけるソフトコンテンツと、建築という環境そのものに働きかけるハード要素。先端的な科学的な見地と古来からの文化的蓄積。この両者を統合しながら、「和」する場の出現を見届けたい。

この6ヶ月間のコンペの挑戦は一旦ここで終わる。でも、この旅路そのものはまだ続いている。というか、建築としては始まったばかりだ。
このような旅路のきっかけをくれたNOT A HOTELの挑戦に感謝して、この文章を結びたい。

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