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ニホンオオカミは存在するのか

K.S.R.C ResearchReport FileNo.200037
オリジナル公開日 2000/12/3報告  報告者:Ken-chang

 レッドデータブック。
それは、絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取りまとめたものである。
ニホンオオカミもそんな動物の一つである。

 ニホンオオカミは、かつて本州、四国、九州に広く分布し、1905年(明治38年)、奈良県東吉野村で捕獲された若いオスを最後に絶滅したとされる動物である。

 しかし、近年になってもその目撃情報は後を絶たない。

<目撃例・1>

1996年10月14日、夕方。

 八木さんは小雨の中、秩父山中の林道にライトバンを走らせていた。道路は舗装されているが、車一台がやっと通れる道幅だ。
 右側はがけ、左側は下が沢になっている緩やかなカーブにさしかかった。左の沢のほうから「ヒョコッ」と動物が姿を現した。徐行していたブレーキを踏んだ。

 「一目で『犬じゃない』と確信しました。とにかく写真に収めなければと思って」

 八木さんは27年間、ニホンオオカミを追い続けてきた。
 「無我夢中で行動していました」と振り返る。
 ところが、車を降りて、ライトバンの荷台にあったカメラをセットしようとしているうちに、その動物は姿を消してしまった。

 悔悟の念を抱きながら車を後へ前へと20分ほど走らせた。

 「前方に、またいたんです。こんどは夢中でシャッターを切りました」と八木さんは語る。1、2分の間に19枚の写真を撮った。その動物に静かに車を降りて近づく。

 「1メートル近づくと、向こうも1メートル離れ、一定の距離を保とうとしていました。ダッシュボードにあったせんべいを放り投げましたが、見向きもしなかった」と八木さんは興奮ぎみに話す。

 3分ほどして、その動物は林の中へ姿を消した。「ずっと目が合っていました。ものすごく長い時間に感じられた」という。

<目撃例・2>

2000年7月8日、夕方。

 3年前から独自に野生動物の調査を続けている西田さんは、九州中部の山中で調査のため一人でキャンプしていた。
 そんな時、一頭のイヌ科の動物に遭遇した。西田さんは夢中で持っていたカメラで写真を10枚撮影した。このうち2枚は、左真横3~4メートルの距離からとらえた鮮明な写真である。

その動物は、体長約1メートルで、乳首が発達していることなどから授乳期のメスとみられる。

 西田さんの様子をうかがうようにした後、山頂の方向に走り去ったという。

 
 写真にもおさめられたこれらの動物。
これは本当にニホンオオカミなのだろうか。

 ニホンオオカミはタイリクオオカミの亜種説と日本固有種説があるが、生態はほとんど分かっていない。当時、国立科学博物館動物研究部長だった今泉吉典博士が、日本産のオオカミに「ニホンオオカミ」という和名を付けたのだ。

 ニホンオオカミの標本は極めて少なく、国内に3体、外国に2体残っているのみである。外国の2体は、幕末に出島のオランダ商館付の医者として来日していたドイツ人・シーボルトが、オランダのライデン王立博物館に納めたものと、明治38年、イギリスが企てた「東アジア動物探検隊」の一員として来日したアメリカ人・アンダーソンが、奈良の山里、鷲家口(わしかぐち)で買い、大英博物館に納めたものである。
 国内の3体は、上野の国立博物館、東大、和歌山大に残されている。

写真はオランダのライデン王立博物館にあるニホンオオカミの剥製

 目撃例1、目撃例2で撮影された写真は、ニホンオオカミ研究の第一人者であり、ニホンオオカミの名付け親でもある元国立科学博物館動物研究部長の今泉吉典博士が鑑定している。

 その結果は、

〈1〉尾の先端が切断されたように丸く終わる。
〈2〉耳の後ろと四肢の外側の毛が、赤みがかった鮮やかなオレンジ色を示す。
〈3〉耳の前からあごにかけて頬髯(ほおひげ)がある。
〈4〉尾の上部にフェロモンの一種を出すスミレ腺(せん)がある

――など多くの点がニホンオオカミの持つ特徴と一致しているというのだ。
「特に、尾の先端の独特な形がニホンオオカミの特徴をはっきり示している。写真から判断する限り、ニホンオオカミそのものと思わざるをえない」と、同博士は語っている。

 また、国立科学博物館の小原巌・科学教育室長も「頭骨を比較しないと結論は出せないが、特に背中や足の外側の色が非常によく似ている」と話している。

 しかし、研究者の中には、「飼われていたジャーマンシェパードか、ジャーマンシェパードとタイリクオオカミとの交雑種ではないか」とする丸山直樹・東京農工大教授(野生動物保護学)をはじめ、否定的な見方や慎重論を唱える人も数多くいるのだ。

 そもそもニホンオオカミはその生態はもちろん、外見的特徴も残された剥製を参考にする程度しか分かっていない、幻の動物なのである。
しかも、ニホンオオカミの特徴とされている尾の先端に関しても、残された剥製からそう言っているに過ぎないのである。肝心のその剥製にしても当時の技術では、尾の先端がどうなっていたのかを正確に保存することは非常に困難だったと言わざるを得ない。

 また、オオカミは群で行動する動物であり遠吠えもするため、その姿や声などがこれほど長い期間、人目に付かないままというのは考えにくい。

 結局の所、捕獲して頭骨の形状やDNA鑑定などの調査をしない限り、最終的な結論は下せないのだ。
いろいろと議論や推測をする前に、一刻も早くその動物を捕獲し、調査する必要があるだろう。

その動物が、絶滅する前に・・・。


<解説>

 本文中の目撃例以外にも、ニホンオオカミと思われる動物は数多く目撃されている。
しかし、オオカミの姿は犬に酷似し、また狐や狸の子供の姿はオオカミの子供と非常に判別しにくいためオオカミ目撃の多くはそれらを誤認したものではないか、というのが一般的見解だ。

 また、これほど開発が進んでしまった日本で、オオカミほどの動物が発見されずに生存しているというのは考えにくいことではある。

 しかし、現地では「弁当箱ほどのカブトムシ」と噂されていたヤンバルテナガコガネや、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコの発見、絶滅したと思われていたニホンカワウソの生存確認など、20世紀後半の出来事なのである。

 ニホンオオカミがまだ生存している可能性は、ゼロではないのだ。

 秩父山中や紀伊半島、九州中部などは目撃例も多く、早急に調査する必要があるだろう。
また、ニホンカワウソが再発見された四国地方も、可能性は高い。四国にはニホンオオカミ生存の記録が無いのだが、記録が無いが故に逆に人目に付いていなかったということも考えられ、期待できる。

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