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偉大なる失敗作列伝

K.S.R.C ResearchReport FileNo.010014
オリジナル公開日 1999/5/17 報告
  報告者:シルビー

 テクノロジーの急速な発達に伴い、様々な製品が我々の前に現れては消えている。その中には、技術進化の正当路線に乗っているモノもあれば、突然変異的に現れる製品も数多い。
 今回は、そういった技術進化の脇道に入ってしまった製品をリサーチしていくことにする。

製品1:ソニー ベータ・プラス

 今から15年近く前(2022/6/19筆者注:1970~80年代)、家庭用VTRはソニーのベータ方式とビクターのVHS方式の2つの規格に内外のメーカーが分かれ、競争を繰り広げていた。後にVHS・ベータ戦争と呼ばれるこの戦争を勝ったのは、VHS陣営であるのは、歴史の示すとおりである。
 この争いの中、技術は革新し、それまでのモノラル録画からステレオ録画へと、またノーマル録画からHi-Fi録画へと主流は移っていくことになるのだが、その過程で生まれたのが、「ベータ・プラス」である。
 当時、Hi-Fiビデオはまだ高価な製品であり、主流はノーマルビデオであった。そこで、考え出されたのがこの製品なのだが、これはこういうモノだ。
 ベータ・プラスとは、ノーマルビデオにアダプターをアドオンする事によりHi-Fiビデオに変えてしまうという製品だったのである。形状としては、ビデオデッキの下にボックスを敷くような形だ。今のノートPCのドッキングステーションを思い浮かべてもらうのが一番近いイメージだ。
 ソニーの技術力とベータHi-Fiの記録方式がこの製品を可能としたのだが、商品としては今ひとつだった。それは、技術進化により、Hi-Fiビデオの低価格化がソニーの予想よりも速く進んだことと、ベータ陣営の崩壊によるベータ方式ビデオシェアの下落によるものが大きい。


製品2:NEC PC-98DO

 1980年代の第1次パソコンブームでの主流は8bitパソコンであった。そのなかでも、NECのPC-8800(通称88)シリーズは圧倒的なシェアを誇っていた。が、時代は16bit機へ移行していく。当時、NECの16bit機PC-9800シリーズのシェアはパソコン全体から言えば、まだ圧倒的とは言えない状況であった。そこで、NECは88ユーザーを98に取り込むために88用のソフトが動作可能な98を作った。それが、98DOだ。
 98DOの画期的なところは、一つの筐体に2つのCPUを搭載し、それぞれ別のモード(88と98)で動作した点だ。
 しかし、それはまったく別の2台のPCをただ一つの筐体に閉じこめたに過ぎず、モードを越えてのデータの移行などはまったくできなかったのである。

製品3:シャープ クイックディスク

 第1次パソコンブーム初期には、いろいろな製品が乱立していたが、当時の外部記憶媒体はカセットテープが主流であった。それが、フロッピーディスクに置き換わるのは、PC-8801の登場まで待たなければならない。
 しかし、88にフロッピーが標準搭載されてもまだカセットテープが主流の状態は変わらなかった。それは、フロッピードライブに比べ、カセットデッキの方が圧倒的に安かったためである。しかし、プログラムをロードする場合、カセットからのロードは時間がかかりすぎるという欠点があったため、ユーザーはローディング時間の短いメディアを求めていた。
 そこに目を付けたのが、シャープであった。シャープは、カセットテープの安さとフロッピー並のローディング時間を実現させたクイックディスクシステムを開発したのだ。
 このクイックディスク(QD)はシャープMZ-1500に搭載された。が、その販売は難航した。と、言うのも、その当時すでに8bit機のシェアの大部分はNEC88、富士通FM-7、シャープX-1の3大パソコンに占められていたため、MZ-1500の入る余地はなかったのである。
 また、一見、安価なフロッピーのようなQDであるが、そのアクセス方式はフロッピーのようなランダムアクセスはできず、カセットテープと同じシーケンシャルアクセスしかできなかったのである。
 そういったことから、パソコンの新外部メディアとしての普及は、なし得なかったが、思わぬ形でそれなりの普及を見せたのである。任天堂のファミリーコンピュータ・ディスクシステムという形で。
 しかし、このファミコン・ディスクシステムもそれ以降の主流にはなり得なかった。
 ファミコンのソフト供給は専用カセットという形で行われていたが、当時の技術では専用カセットにメガ単位の情報を書くことができなかった。そこで、目を付けられたのがQDだったのだ。しかし、ここでも技術進化のスピードの方が、ディスクシステム普及よりも速かった。
 メガカセットの登場により、ディスクシステムは忘れ去られていくことになったのである。

製品4:東芝ウォーキー

 携帯型カセットプレーヤーのサイズは今でこそカセットケース並であるが、このサイズになるまでは、様々な挑戦があったのだ。その最たるものが、東芝ウォーキーであろう。
 ウォーキーの最大の特徴はその大きさにある。なんと、カセットよりも小さいのだ。厚さこそカセットケース2本分程あるが、その高さも幅もカセットよりも小さい。高さに至っては、実にカセットの約3分の2になっている。
 では、どうやってカセットを入れるのかと言えば、カセットを挟み込むのだ。当然、カセット上部及びサイドはむき出しの状態となる。
 こんな状態では、再生中にカセットに直に触れることができてしまうため、音が振れてしまうことが頻発した。
 また、ウォーキーには、ラジオアダプターと呼ばれるラジオを聴くためのオプションがが存在した。このアダプターはウォーキーに完全に隠れるサイズとなっていた。


製品5:日産エクサ

 エクサという名前は、そもそもパルサーの2ドアクーペに名付けられた名称だ。初代エクサはパルサーエクサという名前だったが、2代目はパルサーの冠がとれ、単にエクサと呼称されることとなった。
 2代目エクサはTバールーフと着脱可能なリアセクションを持った車であった。Tバーループとリアセクションを全て取り外すと、オープンカーと同じ爽快感を得ることができるのであった。
 着脱可能なリアセクションの形状により、クーペとキャノピーという2つの形態をもった車であったのだが、ユーザーは購入する際にどちらかを選択しなければならなかったのだ。すなわち、クローズド状態においては、クーペを購入した人はクーペ形状のみ、キャノピーを購入した人はキャノピー形状しか楽しむことができなかったのである。
 リアセクションの取り付け構造や取り付け形状が、クーペとキャノピーで異なっているわけではなかった。現にアメリカではオプションによりどちらの形状のリアセクションも保有でき、1台でクーペとキャノピーの2つの形状を楽しめたのだ。
 これは、ひとえに日本の法律によるものであった。日本の法律では、車の形状が異なってしまってはいけないのである。せっかくの工夫が台無しであった。
 また、日本においては、取り外したリアセクションを保管しておく場所の確保も困難という事情もあり、ヒットしなかったのである。
 カリフォルニアにあるNDI(Nissan Design International)でデザインされたエクサは、美しいデザインであったのだが、非常に残念だ。

製品6:dcc(デジタル・コンパクト・カセット)

 カセットテープに変わるメディアとしてMD(MiniDisk)が普及している(2022/6/19筆者注:1999年当時。その後シリコンオーディオ(デジタルオーディオ)に駆逐されることとなる)が、このMD発表と同時期に発表されたデジタルメディアがdccである。
 MDがディスク形状をとっているのに対し、dccはカセットテープと同じ形状をとっている。カセットテープと同じなのは形状だけではなく、その大きさも同じで、さらにはdccデッキでは従来のカセットテープも再生できるという互換性までも備えていたのである。
 MDがソニー、dccはフィリップス、松下が開発というまるでVHSとベータのビデオ戦争を彷彿とさせるこの戦いは、MDの勝利に終わった。
 dcc敗北の最大の理由は、ランダムアクセスができないという点である。CDによってランダムアクセスを知ってしまったユーザーは、もはやカセットテープのようなシーケンシャルアクセスには戻れなかったのである。
 また、メディアのサイズ的にも、MDのサイズに比べカセットテープサイズのdccでは大きすぎたことも要因の一つと言えるだろう。

製品7:NTTドコモ ドッチーモ

 携帯電話とPHS、その両者を一つにしたのがドッチーモである。携帯電話とPHSの両方を販売しているNTTドコモならではの製品だ。
 携帯、PHS同時に待ち受けしており、2台電話を持つ必要がない。高速移動中は携帯モードで通話し、データ通信を行う場合はPHSという具合に切り替えて使用することができ、一見便利に見える。
 が、当然のことながら、携帯とPHSの2つの契約をしなければならないし、片方を使用中にはもう一方は使用できない。2台別々であればそんなことはないわけで、あまりメリットがあるとは思えない。
 消え去るのは、時間の問題であろう。(2022/6/19筆者注:案の定あっという間にいなくなった。が、時を経て現在ではSIM2枚刺しで複数のキャリアと接続するという選択肢が出てきていることは非常に興味深い)


 これまで挙げてきた製品から、技術進化の脇道に進んでしまう製品の傾向がわかる。
 それは、2つの技術がドッキングした製品にその傾向が強いと言うことだ。商品を企画する人にとっては、同じことができるならば2つの製品をもつよりも1つの製品の方が、使いやすいだろうと考え、商品企画してしまい、また、実際に開発する人も2つの技術を1つにすることは、技術的なチャレンジとなりやる気がでるのだろう。

 しかし、本当に消費者が望んでいるのは、1つになった製品ではなく、2つでも使いやすい製品なのだ。


<解説>
メガ単位の情報
ファミコンの場合のメガとは、メガバイトではなくメガビットであった。

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