治療抵抗性ガン細胞の出現に関する知見
single-cell RNA sequenceを用いて、治療抵抗性ヒト肺ガン細胞の出現過程を遺伝子発現から観る
2020.9.3にCell誌に掲載された論文紹介です。
実験方法)治療Stageごとの肺がん生検を用いたscRNA-seq
興深)scRNA-seqから治療中のガン細胞・微小環境変化を読み取る
治療Stageや治療予後と相関する、ガン細胞自身あるいはその周辺微小環境(免疫細胞)の遺伝子発現変化をscRNA解析から見出した点。
scRNA-seqで捉えた遺伝子変化に基づいて、治療全体を通して治療薬選択の迅速化、適切化が期待できることを示す知見であり、またこれらの情報から治療Stageごとに治療薬を選択する必要があるということを改めて感じた
治療薬によるガン細胞自身の変化
治療抑制期(RD)vs 進行期(PD)の間では遺伝子が変化が2182遺伝子ある一方で、RD vs 治療前比較は629遺伝子、PD vs 治療前比較は901遺伝子であった。おそらく治療抵抗性ガン細胞が出現したことにより、RD→PDにおいては大きな遺伝子発現変化が生じたことが推察される。
また、RD期で見られるガン細胞は生き延びることに特化したような遺伝子発現パターン(slow-cycling cancer cell)を示すことが述べられていた。肺に特異的に存在する alveolar cellやこの辺りの遺伝子機能については知識がなく詳細は分からなかったが、それらのガン細胞ではWNT/b-catenin signaling pathwayが活発化し、これらはinjury-repairやregenerationに関わることが述べられていた。実際に、in vitroの実験で、これらのinhibitorが増殖を抑えることが示されていた。
※これらの遺伝子変化は、がん細胞が少しでも生き残り(後に抵抗性を身につけ)、再発に寄与しているのだろうか。
一方で、PD期は、kynurenine pathwayが活発化し、ガンの増殖に関わる遺伝子発現や免疫系の抑制遺伝子が高まっていることから、ガン細胞がaggressiveな状態に移行しいることが述べられていた。
PD期のIDO1上昇。Immune suppressionに関わる遺伝子として述べられていた。Treg分化やT細胞増殖を抑制するようだ。IDO1 Inhibitorと免疫チェックポイント阻害剤が併用されているが、うまくいっていない?ようだ。
PD期のQPRT上昇。EGFR treatmentの治療抵抗性ガンで特異的に上昇することが述べられていた。だとすると、EGFR treatmentとはどういった関係性があり、また治療標的薬になりうるのかが気になった。QPRTは、キノリン酸をNAD+にする酵素のようだ。
その他にも、RD期→PD期変化での"プラスミノーゲン"や"ギャップジャンクション"などの遺伝子発現上昇について述べており、全生存率との相関があったことが示されていた。
※これらの遺伝子変化・機能がガン細胞のaggressiveにどのように寄与しているのだろうか。
治療薬によるがん細胞周辺微小環境(TME)の変化
がん細胞自身だけでなく、周囲の微小環境(TME)についても治療Stageごとに違いがあるようだ。それぞれのタイムポイントでのmacrophageやT細胞構成に違いが認められた。
※免染系の知識(特に細胞種分類について遺伝子発現パターンについて)がなく、まとめのfigureを鵜呑みするしかないのが悲しい。
感想
遺伝子発現変化から病態進行を予測し、治療薬を選択するストラテジーの魅力を改めて実感した。ガン細胞の多様性(ガン細胞自身)と患者の多様性(周辺環境)が組み合わさると、適切な治療選択が膨大に細分化(つまり治療薬の選択肢が必要)されていくのだろうか。企業はこういった論文からシード化合物を創出していくのだろうか。
創薬観点で考えたとき、
ガン治療が上手くいっている時期(つまり抑制期:RD)に畳み掛けるような薬が必要になってくる感じがした。