中枢骨髄細胞による脳転移促進メカニズム
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けむ論文紹介(スペース)39
タイトル
CNS-Native Myeloid Cells Drive Immune Suppression in the Brain Metastatic Niche through Cxcl10
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2851-2
【概要】
脳転移は免疫学的に特殊な脳転移性ニッチ領域において発達する。中枢神経系におけるナイーブ骨髄細胞(CNS-myeloids)や骨髄由来骨髄系細胞(bone-marrow-derived myeloid cells: BMDMs)は共役的に機能して脳転移に対する脳内免疫を制御している。CNS-myeloidsは中枢常在性のマイクログリアや境界マクロファージで、脳内ホメオスタシスを保ち、病態時には活性を変化させて対処しようとする。一方で、BMDMsは炎症部位に遊走されて脳内への浸潤が知られており、本研究では脳転移性ニッチ領域への浸潤が引き起こされている。転移性ニッチ領域は脳転移ガンの成長を制御すると考えられているが、転移性ニッチ領域では上記のような多様な骨髄細胞サブセットが混じり合っているためのその役割について不明な点が多い。多様なシングルセル解析を用いることで、これらの骨髄細胞サブセットごとの役割を遺伝子発現から明らかにし、脳転移成長におけるCNS-myeloidsの変化とその役割を明らかにした。脳転移に関連しているCNS-myeloidsではCx3cr1発現が低下しており、CNS-myeloids 選択的Cx3cr1欠損マウスにおいては脳転移の発生が増悪した。一方で、Ccr2欠損マウスでは脳転移に大きな違いは認められなかったことから、Ccr2陽性BMDMsは脳転移成長への関与は小さいと結論づけている。CNS-myeloidsは豊富なインターフェロンレスポンスを導き、特にCxcl10の発現上昇を招いた。Cxcl10の中和抗体実験によって、脳転移が抑制され、Cxcl10投与実験では脳転移が促進された。またCxcl10は免疫チェックポイント能の高いVISTAhigh PD-L1陽性CNS myeloidsを脳転移領域にリクルートすることでガン免疫を抑制している可能性が示唆された。以上の結果をまとめると、CNS-myeloidsにおけるCx3cr1の低下はCxcl10を増大させ、脳転移ニッチ領域にCNS-myeloidsをリクルートする。これらの悪循環機構は、CNS-myeloidsに発現している免疫チェックポイント機構による免疫抑制を増悪させて、脳転移ガン細胞の成長を促進してしまう。
【感想】
ガン細胞が転移した領域では、血管透過性が高まっており、末梢免疫細胞の浸潤や常在性免疫細胞が刺激され、多くの細胞が混在しカオスが生まれる。シングルセル解析の発展により、このカオスで絡み合った紐が一本ずつ解かれていくのを感じるような論文だった。DTRによる細胞除去の実験は少々乱暴な実験なので、中枢骨髄細胞除去による二次的な反応などは十分に考慮しなければならないが、マイクログリアあるいは境界マクロファージが脳転移を助長している可能性は示されていたと思う。末梢血骨髄細胞は過去には肺転移への関与やグリオーマ成長への関与が報告されている。Ccr2欠損マウスによる遊走抑制によって脳転移に変化がみられないため、末梢血骨髄細胞の関与は弱いという結論だが、この結論にはまだ議論の余地がある気がした。