オートファジー機構は、MHC-1分解により 膵臓ガンの免疫回避を促進する
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2229-5
【Abstract】
ガン細胞が免疫系から逃れるための機構の一つとして、MHC class1 (MHC-1)の消失もしくは変異が知られており、免疫チェックポイント阻害治療への抵抗性が問題視されている。
pancreatic ductal adenocarcinoma (PDAC)は、非常に治療抵抗性の高く、MHC-1の消失を招く変異があるわけではないにもかかわらず、MHC-1の発現が減少しており、そのメカニズムは明らかにされていない。著者らは、このPDACでのMHC-1の減少に、オートファジー依存的な機構(Cargo receptors: NBR1が関わる)―リボソーム分解が寄与していることを報告した。
①PDACでの細胞表面MHC-1の減少とautophagosomes及びlysosomes内でのMHC-1局在化を明らかにした。さらにMHC-1のトラフィッキングに関与するものとしてNBR1を見出した。
②ここでオートファジー抑制すると、MHC-1の発現回復、抗原提示能の改善、T細胞への感受性向上、マウスでのtumour growthの抑制などが示され、ガン細胞でのオートファジー機構は、免疫系から逃れるための機構であることを示した。さらにこれらオートファジー抑制によってみられた抗がん作用は、CD8+ T細胞を消失させた場合あるいはMHC-1の発現を消失させた場合に失われた。
③また、オートファジー機構の抑制は、免疫チェックポイント阻害(anti-PD1やanti-CTLA4)と合わせることでより強力に抗がん作用を示すことが分かった。
PDACでは、オートファジー、リボソームの働きにより自身のMHC-1を分解することで免疫系の攻撃から逃れていることが示された。またオートファジー機構を標的とした治療が、免疫チェックポイント阻害治療との併用で強力な抗腫瘍効果を発揮する可能性を示した点は非常に意義深い。
【結果】
①human PDAC cell lines(PSN1、HupT3、PaTu8902、KP4):MHC-1免疫染色は、LAMP1(リソソーム膜)との共局在、LCB3(オートファジー膜)との共局在を示し、細胞表面では減少していた。
Flow cytometryによってMHC-1が細胞外にでている細胞の割合を調べると、PDAC cell linesの中でSUIT2、PaTu8988T、HupT3といった細胞株は上記cell linesより細胞外MHC-1の割合が高く、細胞株間に違いが認められた。
さらに膵臓がん患者のPDACにおいてもMHC-1は細胞内に局在していた。
MHC-1の細胞質内へのトラフィッキングは、オートファジー関連遺伝子(ATG3)のノックダウンにより抑制された(免疫染色)。さらにNBR1のノックダウンによっても同様に、MHC-1細胞内トラフィッキングが抑制されたため、オートファジー機構はMHC-1細胞表面消失に関与していることが示された。
②Dox依存的にATG4BC74Aを発現する(オートファジーを抑制する≒MHC-1が表面に発現する)mPDAC(以下、mPDAC-ATG4BC74A)を作製した。このmPDAC-ATG4BC74Aにovalbumin(OVA)を強制発現させることで、OVA peptideを抗原提示させた(OVA-mPDAC-ATG4BC74A)。またOVA-specific CD8+ T cells (OT-I 細胞)と OVA-mPDAC-ATG4BC74Aの共培養によりT細胞増殖が引き起こされることが確認され、mPDACは生存率が低下した。
mPDAC-ATG4BC74Aをマウスに移植した場合ではガンが縮小しており、CD8陽性細胞不全マウス(Batf3−/− knockout (KO))ではこれらの縮小がみられなくなった。
③mPDAC-ATG4BC74Aをマウスに移植し、免疫チェックポイント阻害薬の効果を調べた。免疫チェックポイント阻害薬を使用した場合はさらにガン細胞の縮小が起きたことから、オートファジー抑制と免疫チェックポイント阻害は併用により、相乗的(あるいは相加的)な効果が期待された。