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PD-1のTonicシグナル抑制による抗腫瘍効果の増大

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けむ論文紹介(スペース)38

タイトル
Immune receptor inhibition through enforced phosphatase recruitment
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2851-2

【概要】

 PD-L1 or 2は、PD-1シグナルモチーフのリン酸化を引き起こすことでSHP1 or 2をリクルートする。これは傷害性T細胞のExhausted phenotypeを導くことが知られ、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体)はこれらのシグナル伝達を抑制することで抗腫瘍効果を発揮する。一方で、PD-1にはこれらの免疫チェックポイント阻害薬によって抑制されない、リガンド結合非依存的な恒常活性シグナル(Tonic PD-1シグナル)がある。そこでCD45によるフォスファターゼ活性(脱リン酸化)を利用することで、これらのTonicシグナルを抑制できないかと考え、CD45とPD-1の両者に結合するバイスペシフィック抗体をエンジニアリングした。このアプローチを筆者らは、Receptor Inhibition by Phosphatase Recruitment: RIPRと名付けた。

 このRIPRはPD-1/PD-L1を阻害する抗体に比べて強い抑制活性を持っておりT細胞の抗腫瘍活性を高めた。さらにRIPR技術は、マクロファージの貪食能を抑える“Don’t eat me”シグナル(SIRPα)にも応用可能であることが示された。このことはRIPR技術の汎用性の高さ示唆する。これまでの抗体を用いた分子標的薬は分子間の結合阻害にとどまっており、標的分子の恒常的な活性に対しての阻害作用が乏しかった。本研究により開発されたRIPRアプローチは、標的分子に対して直接的な抑制シグナル(脱リン酸化)を与えることでリガンド結合非依存的なシグナルを抑制することを可能とした。

【結果】

PD-1は発現しているだけでシグナルが入る(T細胞活性の抑制シグナル)
・Jurkat T cellsを使用
・活性化指標(CD69膜発現)
抗CD3ε(OKT3)でJurkat T cellsのTCRを刺激し、CD69発現を評価
→PD-1発現しているだけでCD69発現が低下、つまり抑制される(PD-Ll or 2は無関係)

Anti-CD45, PD-1抗体によるPD-1 Tonicシグナルの抑制
・Receptor Inhibition by Phosphatase Recruitment: RIPR はCD45(脱リン酸化活性をもつ)とPD-1をバイスペシフィック抗体で物理的に近接させることで、PD-1細胞質ドメインのリン酸化チロシン残基のリン酸化をはずす。


RIPRによりCD69発現が増加し、チロシンの脱リン酸化を確認された。
INFγの発現増大(anti-PD-1 nivolumab単独ではみられない)
CAR-T cellや末梢血単核細胞(PBMC:単球およびリンパ球)においても、RIPRによりCD69やINFγ、IL-2の増大が認められた。

上記のことから、PD-1のTonicシグナルがRIPRにより抑制されていることが示唆された。

CD45とPD-1の近接がTonicシグナル抑制に重要
・Anti-CD45, PD-1抗体の間に3C酵素によって切れられるリンカーを付けたRIPR-3C-PD1ではT細胞の活性化がみられない
RIPRにより腫瘍オルガノイドへの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の増殖がみられた(弱い?)

小細胞肺ガンモデルマウス及びにおけるRIPRの抗腫瘍効果
・KP1 SCLC cellsの移植による小細胞肺ガンモデルマウス
①コントロール(PBS)
②cisplatin and etoposide (chemo)
③Anti-PD1
④RIPR
⑤chemo+anti-PD-1
⑥chemo+RIPR

⑥が最大の抗腫瘍効果で、②-⑤は同程度の抗腫瘍効果(⑥の半分くらい)
①の腫瘍サイズを10とした場合に、⑥は腫瘍サイズが2くらいになっていた。

MC38 cellモデルマウス及びにおけるRIPRの抗腫瘍効果
MC38 cells (5 × 105 )を皮下投与したモデルマウス
①コントロール(PBS)
②Anti-PD1
③RIPR
③でのみ抗腫瘍効果あり。PD-1陽性CD4陽性T細胞やCTLA4陽性CD8陽性T細胞の割合の減少が認められた。

RIPRの応用:RIPR-SIRPα
・リツキシマブでRaji B細胞を分子標的し、マクロファージに貪食させる実験系を用いた。
リツキシマブ存在下において、RIPR-SIRPα-CD47( CD47 ectodomain)融合抗体によって抑えられると、Raji B細胞のファゴサイトーシス増大とリン酸化チロシンが減少した。(anti-SIRPα単独:AB21と比較して)。

【感想】

 抗体エンジニアリングによって、二つの分子を近づけるという技術・アイデアが生み出され、本論文のような新たな分子制御技術が誕生はとても興味深い。実際に、バイスペシフィック抗体による二分子タンパク間相互作用を促進する薬(ヘムライブラ)が開発されている実情を考えると、今後ますます発展が期待される領域なのかもしれない。RIPRという新しいアプローチは興味深いものの、細胞株を用いた実験系が多い。今後より広範な腫瘍モデルでの効果や分子メカニズムの詳細に期待したい。またCD45による脱リン酸化は単に距離が近づけば良いのか、だとすると生理的な条件下ではそれらはどのように制御されているのかなど新たな疑問も湧いてきた。

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