見出し画像

脳内グリオーマは神経細胞に化けている。

Twitterでは毎日論文をパワーポイントで紹介中
https://twitter.com/kensho_2021pham

Electrical and synaptic integration of glioma into neural circuits
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1563-y

【概要】
ガン細胞が周囲の環境に順応するのは末梢組織に限った話ではなく、脳などの中枢神経系においては神経細胞にも化けるのだなと改めてガン細胞の恐ろしさを痛感する論文となった。脳腫瘍の研究がもっと進んで、革新的な薬ができることを願う。

著者らは過去に神経活動によって悪性腫瘍の成長が調節されており、これは活動依存的なneuroligin-3 (NLGN3)放出が重要であることを報告している。またNLGN3は、グリオーマにおいて数多くのシナプス関連遺伝子をグリオーマで発現させることを示した。このような背景から、グリオーマは神経回路に溶け込み、神経伝達を受けとることで成長を遂げるのではと考えた。
シングルセル解析から、多くのグリオーマには、シナプスからの興奮伝達を受け取るのに必要なグルタミン酸受容体遺伝子が共通してみられることがわかった。足場タンパクやAMPA受容体サブユニットだ。
adult isocitrate dehydrogenase (IDH)- mutant glioma
adult IDH wild-type glioma
paediatric histone-H3 mutant (H3K27M) diffuse midline glioma
(DMG; pontine DMG is also known as diffuse intrinsic pontine glioma (DIPG)

シナプス構造はとんでもなく小さい。約20 nmの距離(髪の毛は0.05mmくらいで、その1000分の1の厚さだ)。
これは電子顕微鏡(EM: electron microscopy)を使って観察される。ガン細胞を蛍光タンパク質(GFP)で標識し、観察すると約10%でシンプス構造が観察された。この構造はNLGN3依存的に形成された(NLGN3欠損ニューロンを用いた場合でシンプス構造が減少)

シンプスというのは本来、神経細胞と神経細胞がやりとりする場所だ。糸電話の糸の部分と考えてもらうと良い。グリオーマにシナプス構造があるのはわかったが、ではこの糸電話は本当に繋がっている?というのを調べた。これは電気生理学的な手法で専門性がかなり高くなるので、詳細は一部割愛させていただく。
電気生理学的な手法を用いることで微小なシナプス構造において、糸電話で声を出す(電気刺激)ことと、声を受け取る(電気信号)ことができる。
では、声を出したときにガン細胞では、その声を受け取れるのだろうか?
結果は予想通りで、電気刺激を送るとガン細胞において興奮性の電気信号でキャッチすることができているようだ。この興奮刺激はAMPA受容体の阻害剤により完全に抑制されるので、ガン細胞はグルタミン酸興奮伝達を受け取る機構を手に入れている。
グリオーマとは、グリア細胞が悪性腫瘍化したものだ。これについては、Twitter上で解説しているので、本日22時の論文紹介を参照されたし。Twitter上で『けむ論文紹介 22』と検索していただけると見つけられます。

グリア細胞は本来、このような電気的な信号を受けることは知られていない。つまりグリオーマはグリア細胞が悪性化して変化する中で神経細胞に化けるようになるという驚きの結果だ。ガン細胞が周囲の環境に依存して上手く化けるのは得意技だ。脳内神経系においても同様に神経回路に溶け込みように化けているというなんとも恐ろしい結果だ。

グリオーマの恐ろしさはまだ続く。グリオーマ同士は非シナプス的につながりをもっているようだ(ギャップジャンクションという)。これは細胞間トンネルのようなもので、ただカリウムイオンのようなとても小さなもののみが通過できるような構造体である。要するに神経からの興奮刺激を他のグリオーマに伝えていくのだ。これの何が恐ろしいかというと、グリオーマは活性依存的に増殖するのだ。
チャネルロドプシン(ChR2)は、特定波長の光(470nm)により陽イオンチャネルを細胞内に取り組む受容体だ。このChR2をガン細胞に発現させ、光を当てるとガン細胞に陽イオンチャネルがバンバン入っていく。この光を1日30分5日間行うだけで、ガン細胞は成長するというのだ。
つまりこうだ。ガン細胞は周囲の神経回路に溶け込んで、一部のガン細胞は神経からのシナプス伝達を受けとるようになる。この興奮刺激はギャップジャンクションというトンネルを通じて周囲のガン細胞にも伝播していく。ガン細胞全体で興奮刺激を共有し、どんどん成長するというシステムが想定される。やはりガン細胞は恐ろしい。

最後はヒトグリオーマの患者さんで皮質脳波検査(intraoperative electrocorticography)を行うと神経細胞活動が増しているというデータだ。これはグリオーマなのか本来持っている神経細胞の活動なのかは私には分からないが、神経活動が増大しているという結果だ。

いいなと思ったら応援しよう!