The Satoshi Trial 18日目
2024年2月29日 宍戸健
「クレイグ博士はサトシじゃない裁判 by COPA」(通称:COPA裁判、サトシトライアル)続きます。2024年2月28日(火)の審理は18日目です。本日はクレイグ博士側のブロックチェーン技術専門家、COPA側のブロックチェーン技術専門家の2名に対する尋問が行われました。
2.Zeming Gao
Zemさんは、中国出身で米国に移住したいわゆるPolymath(博学者)です。中国では、蘭州大学で物理学の学士号取得後、吉林大学で量子化学の修士号を取得された後、米国ワシントン大学で物理化学の博士号を取得目前で、米国ウィスコンシン大学法学部に転籍し、卒業後弁護士の資格を取得されました。
その後知的財産専門の弁護士事務所Lee & Hayesに勤務し、Microsoft, Alibaba Groupなどのクライアントを担当し長年勤めた後、自らテックスタートアップを起業したり、役員になったりとさまざまなビジネス経験をされました。
BitCoinにいつ興味を持ち始めたのかはわかりませんが、BSV界隈では彼のブログやCoingeekのインタビュー等でご存知の方も多い「ご意見番」的な人です。Zemさんは去年の9月頃にクレイグ博士の弁護士事務所から専門家としての意見書の提出と法廷で証言して欲しいと依頼があったとのことです。
Zemさんに対してのCOPA弁護士の尋問は主に、2016年4月26日にロンドンのホテルでクレイグ博士がGavin Andresen氏に対してBlock9のPrivate Keyを使って署名したことに対して、「それはクレイグ博士は偽物のソフトウェア、ホテルのWi-Fiをハック等した可能性もありますよね。」と言わせたいらしくしつこく粘着してました。(笑) ほんの一部ですが以下のような感じです。
COPA: Electrumソフトウェア(Wallet)が仕様変更された可能性はありますか?
Gao: はい、やろうと思えばできますし、それは簡単なことです。
COPA: 偽のWebサイトがダウンロードされた可能性はありますか?
Gao: はい、偽のソフトウェアがテストされる可能性はあります。偽のソフトウェアを入手することと、テストに合格する偽のソフトウェアも考えられます。
COPA: HTTPS だと仮定すると、証明書が検証されたという証拠はありますか?
Gao: そうですね、ElectrumがHttpsだったら、偽のhttp Websiteは DNS サーバーの権限を通過しません。
COPA: 偽のWebsiteが使用されたとします。その Webサイトは基本レベルの認定を取得できたでしょうか?
ガオ:はい。
COPA: それに、偽のサイトとの接続はhttpで行われる可能性がありますが、鍵マークは表示されません。表示されるのはそれだけですか?
Gao: いいえ、バイパスする必要があるトップレベルのインターネットセキュリティ警告は他にもあります。
COPA: マイケルジョン教授は、クレイグ博士はハッシュ値がチェックされたと言っていると述べています。彼女は、ソフトウェアが改ざんされていないことを確認するのは良いチェックだと言いますが、偽のハッシュが偽のサイトに置かれる可能性があり、それがソフトウェアの悪い証拠になるのでしょうか?
Gao: はい、検証者が偽の Webサイトに誘導されたと仮定します。したがって、その場合には認定証には価値がありません。
COPA: ミケルジョン教授は、ラップトップ上に干渉するように設計された他のソフトウェアを搭載することも可能だったと言っています。あなたが同意する?
GAO:はい。
COPA: 彼女は、それを防ぐための措置を講じるべきだったと言いました。たとえば、コンピューターが出荷時と同じように完全に密封されていなかった場合はどうでしょうか。
GAO:そのような措置が出来れば良かったかもしれませんね。
COPA: 長いセットアッププロセス中にマルウェアをダウンロードすることもできたでしょうか?
GAO:はい。
COPA: USB経由でも転送された可能性はありますか?
GAO:はい。
COPA: それともネットワーク接続経由ですか?
GAO:はい。
COPA: 改ざんは Wi-Fi 経由でも行われる可能性がありますか?
GAO:その可能性はありますね。
COPA: では、メッセージに関係なく、Electrumが true を出力するようにすることもできるのでしょうか?
GAO:はい。
COPA: それとも、特定の文字セットが含まれている場合のみですか?
GAO:はい。
COPA:例えばCSWとか?
GAO:はい。
COPA: 信頼できる公的機関がより良い証明のための環境を整えることができるとおっしゃいましたね?
Gao: はい、公と私の間のどこかです。
COPA: マイケルジョン教授は、ジャーナリストとマトニスへの署名行為はGavin氏のよりも簡単に演出できた可能性があると言っていますが?
GAO: 同意します。
COPA: ということは、どのなりすましも実行不可能ではなかったということですか?
GAO: それは検証者によって異なります。必要なチェックを行うことができます。
COPA: つまり、一般的に、これらのことはどれも可能である可能性がありますが、これらは単なる理論上のものであるとは声明の中で述べていませんか?
GAO: いいえ、これらすべてを偽装する方法があることは知っています。
COPA: 偽サイトに基本証明書が存在する可能性があり、それを実行できるプロバイダーが存在することに同意しますか?
Gao: はい、しかし、それらは異なるドメインでなければなりません。
COPA: でも、ほんの少しだけ違うんです。
GAO:はい。
COPA: それは明確な警告なしに httpである可能性がありますか?
GAO: それは状況によります。本物のサイトが httpsの場合、バイパスすると警告が表示されます。
COPA: そして彼はコア ソフトウェアとチェーン全体をダウンロードしました。時間がかかりました。
GAO:はい。
COPA: コア ソフトウェアをダウンロードする必要がなかったということに同意しますか?
GAO: そうですね。
COPA: Electrumで実行できるかどうかを検証する必要はなかったのですか?
GAO:そうですね。
COPA: ということは、これは不必要だったということでしょうか?
GAO: 検証者はすべてをダウンロードする必要はありません。
COPA:それではだめですか?
GAO: 何をしたいかは検証者次第です。
COPA: それで、なぜそれをするのですか?
Gao: そうですね、アルゴリズムにはさまざまな実装があるため、これは広く認識されており、これを使用することには実用的な利点があります。
COPA: でも、それではなりすましは防げない可能性はありますよね?
GAO: 同意します。
COPA: 公開鍵を取得するためにダウンロードする必要もなかったのですか?
Gao: 公開鍵に関しては、それは本当です。ただし、ビットコインコアで検証する場合は、すべてダウンロードする必要があります。
COPA: でも、コアソフトウェアなしでもこれを実行できますか?
ガオ:はい。
COPA: でも、ダウンロードするのに長い時間がかかりましたよね?
Gao: はい、でも2016年時点ではそれほど長くはありません。今日なら何日もかかります。それはそういう選択をしたということです。有効なものです。
COPA: しかし、追加のセキュリティは提供されません。
GAO: 原則的にはよりセキュリティが高まることはありません。しかし、ブロックチェーン全体をダウンロードすることそのものは広く受け入れられており、信頼性を増すという可能性があります。
とまぁ、こんな具合で2時間30分の尋問ですww。Zemさんの立派な振る舞いは裁判長の心証は良いと思いますが、Zemさんは尋問を終えて以下のようなコメントをされています。
「私の法廷証言を聞いていただきありがとうございました。私の証言は非常に限られたものでした。尋問では質問に答えることしかできませんでした。(宍戸健:COPA弁護士が質問したことにだけしか答えることができない。)
法廷でビットコインについて説明する機会が与えられればよかったのですが、技術証人としての私の報告書の最も重要な部分は認められないとの判断を受けたため、話すことができませんでした。その理由は、サトシが創造したビットコインとはどういう仕組みなのかを、私が説明することは、今回争点である「サトシは誰か」の範囲を超えていたためです。しかしながら、ビットコインについてまったく質問されなかったことには、驚いています。
その結果、私の尋問は以下の 2 つの点に焦点を当てられていましたが、どちらについても私にとっては興味がなかったことなのです。
1 つ目はGavin, Matonisらに行われたプライベートな署名実演ですが、正直言って私はあまり気にしません。しかし、私は法廷で自分が信じていることを伝えました。
2つ目は、私の客観性です。それは、彼らが私に書いたすべての文章が確かに私の文章だったからです。すべてが公開されています。私が隠そうとしていたことを彼らが発見したわけではありません。
しかし、私は自分の客観性を強く信じています。
ある方向に傾いた結論に達したからといって、その人が偏っているというわけではありません。人の客観性を、その人が到達した結論に基づいて判断することはできません。客観性を判断するのは、その人がどのように結論に達したかに基づいてのみです。私の「方法」(私の実際の推論)については尋ねられませんでした。私は結論の表面だけを導かれました。
先ほども言いましたが、私はベイジアン哲学の実践者です。
ベイジアン哲学は、常に真実を追求することを奨励します。入手可能な事実に基づいて暫定的な結論に達する必要がありますが、新しい事実に直面して結論を常に調整する必要があります。
ベイジアン調整は確率を微分します。それが人間の認知の仕組みです。区別しないのは間違いです。
人生とは入手可能な事実に基づいて行動することであり、そのような行為は必然的に差別化をもたらします。あなたの生物学的な体は分化するために生きています。あなたの心と魂は区別されるので生きています。
中立を装って入手可能な事実に基づいて行動しないことは、不誠実の一形態です。しかし、新しい事実に直面したときに自分の結論を調整することを拒否するのは、具体的な偏見です。
彼らは、私がライト博士がサトシであることを証明するために全力を尽くしていると言います。彼らは私のことを知りません。私は真実に忠実です。そして、私は客観的に新しい事実が明らかになれば、それは常に自分の結論を修正する対象になります。」
尚、Zemさんは昨年11月に"Bit&Coin"という本を出版されました。英語版のみですが、Amazon Japanでも購入できます。私も買ってみようと思います。
3.Sarah Meikljohn
マイケルジョンさんは、カリフォルニア大学サンディエゴ校でコンピューターサイエンスの博士号を取得後、現在はロンドン大学で暗号学とセキュリティを教えてられる教授です。また、Googleのリサーチ部門の仕事もされているようです。
彼女は昨年COPAに依頼され、専門家としての意見書(約60ページ)を提出しています。意見書はクレイグ博士の証言について私の見解とは異なる、クレイグ博士の69台で始めたセットアップではもっとビットコインがマイニングされていたはず、Gavinでのプライベート署名実演ではパソコン、Wi-Fiがハックされていた可能性があるなどなど、ようするに全てに難癖つけてますww。しかし、「可能性がある」との言及だけなので何とでも言えるんじゃないかと思いました。
そんなマイケルジョン教授に対しての法廷尋問は主に、クレイグ博士側の弁護士がいろいろ尋問しました。これも2時間30分くらいで長いです。。以下は尋問のほんの一部分ですがこんな感じです。
Orr: あなたの報告書の要約についていくつかの点を指摘する必要があります。2016年にクレイグ博士がGavinらに対して行ったプライベート署名実演についての理解度についてです。
SM: わかりました。
Orr:ラップトップは「新品に見えた」が、工場で密封されているかどうかは確認していないと述べましたね。
SM:そうですね。
Orr: あなたの言い方では、封印されていないことを示唆しているように見えます。
SM: そんなことはありません。それはクレイグ博士が言っていることです。
Orr: ノートパソコンが新品かどうかは不明だとおっしゃっていますが、新品であったことは明らかのようですね。
SM: 私はそれがどのように提示されたかを述べただけです。
Orr: 通常の初期起動で起動されました。それは重要なことではありませんか?
SM: 私には重要ではありません。
Orr: ステファン・マシュー氏の証言によると、新しいラップトップは密閉された箱に入っていたそうです。それについては言及しませんでしたか?
SM: いいえ。
Orr: ここにあるメモにコメントしましたか?
SM: それはメモではありません。それらは電子メールです。
Orr: それで、あなたは彼らのことをよく知っていますか?
SM: はい。
Orr: ホテルのWi-Fiまたはホットスポットが使用できると記載されています。ここではWi-Fiを使用したと書いてありました。あなたはなぜそれを書かなかったのですか?あなたは客観的ですか?
SM: 私は完全に客観的です。
Orr: ギャビンはどのブロックかを尋ねられました。サトシからハルまでは10だと信じていた。彼はブロック9について言及するつもりですか?
SM: 彼はブロックのHeight10 ではなく、10 番目のブロックについて話していると思います。
Orr: ここでは公開鍵のソースについて言及していますね。ギャビンは自分のストレージから、初期のブロックから公開鍵のリストを持ってきたと述べました。目的は、クレイグ博士がこれらのブロックの 1 つからの秘密鍵を使用してメッセージに署名することでしたか。
SM: はい。
Orr: それで、ギャビンは初期のブロックからビットコインアドレスのリストを持ってきたんですか?
SM: 初期のブロックは P2PK で、そこからアドレスを導き出すことができましたが、私たちにはわかりません。
Orr: それでは見てみましょう。彼は、初期のブロックのパブリックアドレスを言ったと言いました。最初の4 ~ 6 文字と最後の4 ~ 6 文字。このことから、彼はパブリックアドレスを持っていたことがわかると思います。
SM: 断言はできませんが、キーではなくアドレスのようです。
Orr: それで、彼はアドレスを使用してキーを確認できるのですか?
SM: ごめんなさい、戻ってもらえますか。
Orr: 言い直します。彼はパブリックキーを確認するためにパブリックアドレスのリストを使用しているのでしょうか?
SM: いいえ、彼は署名を確認するためにそうしています。
Orr: このプロセスはパブリックキーがそれに対応するパブリックアドレスであることを検証することだったと同意しますか?
SM: もし彼がパブリックアドレスを持っていたら、パブリックキーは出てこなかったでしょう。
Orr: このプライベート署名実演がまったく意味のなかった可能性について話しましょう。
SM: [満面の笑み] はい。
Orr: ギャビンにはクレイグ博士の主張を検証する資格が十分にあることに同意しますか?
SM: はい。
Orr: 彼がプリンストン大学出身だったことを覚えていますか?
SM: いいえ。
Orr: 2010 年にビットコインを含む多くの認証を取得し、サトシによってリードコア開発者に任命されましたよね。
SM: はい。
Orr: そして2012年にはBitcoin FoundationのChief Scientistでしたよね。
SM: はい。
Orr: つまり、署名実演の時点では、彼はビットコインに関して最も資格のある専門家の一人だったということですか?
SM: 私の懸念は、ビットコイン技術に精通していることが、必ずしもこの署名実演に直接関連しているわけではないということです。
Orr: そうですか。彼はビットコインの秘密鍵を使用していました。
SM: メッセージは毎日署名されます。それにはビットコインの専門知識は必要ありません。
Orr: つまり、あなたの壊滅理論(Gavinに対してのプライベート署名実演がまったく意味をなさない理論)に基づくと、コンピュータが初めて起動され、新しいOS がインストールされていることが示された場合、OS は最初から新しいものであるため、コンピュータが新しいかどうかは問題ではないというのは正しいことですか。
SM: [微笑みながら] 確かに、マシンが新しく、初めて起動した場合は、新しいものになります。
Orr: 新しいかどうかに関係なく、新しいOS はシステム上の以前のものを上書きしますか。
SM: それは分かりません。コールドブート攻撃もありますが、署名実演に使われたパソコンは新品だったと受け止めたいと思います。
というわけで、マイケルジョン教授はクレイグ博士の証言とか読むと驚くべき知識があることに感嘆しないんですかね。まー、大学の教授だといろんな圧力というかいろいろあるのかも知れません。
それにしても、デジタルの時代になって言った言わないで揉めると、膨大な時間とコストがかかりますね。結局のところ、ファイルに付随するメタデータも変更なんか簡単にできることがわかったので、そうなると、とりあえずビジネス界から早くビットコインのタイムスタンプ機能、オリジナル証明機能を使い始めないと誰がいつ、何をいったかの証明がまったくできないとかいう状況になる気がします。
それでは今日はこの辺で。