#19 僕のアルバイト遍歴②
大学一年生のころからテニススクールでコーチのアルバイトを始めた。もともとそこのスクールには中学のころからお世話になっていたため、ある種のコネ採用みたいな感じで、えらいコーチの一言で翌日には研修生としてレッスンに混ざっていた。そこで学んだことはたくさんありすぎるので、今回はその中でも一番印象に残ったエピソードを書きたいと思います。
基本的に僕の担当するクラスのお客さんは社会人の方々。夜の9時くらいから始まるレッスンで、皆さん会社終わりに来られるケースが多い。当然皆さんちゃんとした大人なので、ちゃんと説明すればちゃんと理解してくれる。質問も明確なので、それに的確にこたえることができる。
「リターンではねるサーブにはどう返したらいいですか?」
「基本的には後ろに下がりきって返すか、前に入って、ボールがバウンドして上がっていく最中に合わせるかの二択になります。○○さんはスイング方向が下から上なので、後ろに下がり切った方が合わせやすいと思います。だけどダブルスだと不利になるので、前に入って打つ練習もしましょう。」
定期的に先輩コーチとテニス談義をしたりして、自分の中のテニス指導に対する考え方も確立してきている。軸さえ固まれば、あとは実践して説明すればテニスコーチは成立すると思う。僕はそれに3年はかかったが、今はどんな質問でも基本的には論理的に説明できる。
しかし、たまに入るジュニアクラスのレッスンではそれが通用しないケースが多い。なぜならそもそもの会話が成立しないからだ。
「バックは両手だよ。」
そう伝えて、二球目打ったらすでに片手になっている。もちろん彼らは話を聞いているんだけど、本能的にそうなってしまうのだ。
僕はジュニア向けレッスンで、どうやったらうまく伝わるのかといつも悩んでいた。なかなか説明しても伝わることがすくなかった。
その答えが出たのは割と最近。
「スピンサーブってどうやって打つんですか?」
と質問され、
「体が開かないように。あとトスを後ろ目に。」
一般論を説明するのだが、やはりできない。僕は見かねて、
「まあ、結局はノリだね。」と投げ捨てた。
しかしそのアドバイスの後に、彼は一球だけキレイに跳ねるスピンサーブを放って、
「確かに、ノリですね。」と答えた。
僕はその時、それでいいのかと感動した。
結局説明よりも、僕が本心で思っていることや無意識的に考えていることを伝えればいいんだなと分かった。
「ノリだね」という説明はわかりにく過ぎるけれど、そんな感じのフィーリングをうまい言葉にすることの大切さを学んだ。
その反面、副作用的なことも生じてきて、自分のフィーリングに任せて説明しようとすると質問の回答として、「わかりません。」と言ってしまうケースも多々ある。
ジュニアの男の子に、スライスのコツを聞かれ、
「知らねえよ。」と素直に答えてしまった。なぜなら何も考えずに中学からスライスを放っているからだ。そういうところが、まだまだ未熟ですね。
けど、「体の横でボールを引き付けて捉えましょう」って説明しても、彼らはどうせ二球も打てば本能的に吹っ飛ぶので、「知らねえよ。」で正解な気がしないでもない。
今も細く長く続けているこのアルバイトだが、あと数カ月で辞める。たくさんの学びをもたらしてくれた点で、感謝が多いのでここに意を表したいと思います。