父の土下座
中学2年生を目前に控えた3月、僕の鬱憤は溜まりに溜っていた。
元々持っていた強烈なエネルギーを、学校で発揮できない日々、
息をひそめながら、自分を殺す中で、ひとり悶えていた。
そして僕は人生で取り返しがつかないことをした。
詳細はここでは伏せるが、とんでもなく姑息で身勝手な不祥事だ。
気弱な同級生のひとりに、とんでもない迷惑をかけた。
理由はひとつ。
これまで勝手に押さえつけていた自分の存在を見せつけたかったのだ。
「本当の俺はこんなヤワじゃない」「もっと悪くてイケてるんだ」
「一線だって超えられる」
何度も何度も我慢していた被害者の同級生は、
ついに勇気を出して先生へと事を告げた。
急遽、職員室の隣に呼び出された。
そこから先は頭が真っ白になった。
何故自分は大丈夫と思っていたのか。
生徒指導の先生に何を言われたかは覚えてないが、
鉄拳制裁を食らいつつ、他の生徒と同じように怒られたと思う。
そう、この学校において、俺は他の生徒と同じではない。
「教師の息子」が、不祥事を働いたのだ。
似たようなことは過去にあったのだろうか?
先生たちの中では、どんな空気でこの問題を扱ったのだろうか?
そして息子の不祥事を同僚の先生から聞いた父は、
職員室で何を思ったのだろうか…
その日の夕方、迷惑をかけた同級生の家に謝りに行った。
放心状態の僕が覚えているのは、玄関先で土下座をする、父の背中だった。
自宅に帰る。
母と姉は苦し紛れに僕を庇う。何か理由があったのだと。
理由はある。
ただそれは、あまりにも身勝手な、自分自身のエゴ。
父は怒鳴り声を上げながら、13歳の僕を本気で蹴り続けた。
言葉にならない「ごめんなさい」を僕は念じ続けた。
それから大学を卒業する間際まで、父との会話はなくなった。