SCM基礎能力① 実務能力
これまでサプライチェーン・マネジメント(SCM)についていくつか記事をかいてきましたが、ここから何回かSCMを行う人の基礎能力について整理していきます。
SCMは、企業が商品やサービスを消費者に届けるための一連のプロセスを最適化する管理手法です。
このプロセスには、調達、生産、流通、販売などの各段階が含まれ、これらの段階を効率的に管理するためには、様々な能力が必要になります。
その中でも、まず実務能力が重要だと考えております。
今回は、SCMを担う人材の「実務能力」の重要性をまとめます。
1. 実務能力とは
まず、実務能力とは、具体的な業務を効果的かつ効率的に遂行するためのスキルや知識を指します。
SCMにおける実務能力は、以下のような様々な要素から成り立っています。
1.1 発注・在庫管理能力
まず、SCMにおいて一番重要なのが、発注・在庫管理ができる力です。
これが実務能力として土台として必要です。
サプライチェーンの管理において一番よくない状態は、なんといっても在庫がないという状態です。
売るものがない、原料がなくて製造できない、こうなっては企業として何もできない状態になってしまいます。
こうならないために、在庫管理・発注管理ができる必要があります。
まずモノを切らさないために、自分が実務ができるということは、サプライチェーン管理の根本的な能力です。
その次に、コストが最適になるように発注・在庫管理を行う必要があります。こういった計算を伴う管理業務をこなす能力が必要です。
1.2 生産管理
次に、工場の生産管理について多少なりともできていることが必要です。
生産管理というと、やったことがない人からすれば複雑に聞こえるかもしれませんが、発注・在庫管理ができる人であればすぐ基本はできるようになると思います。
原価計算・原価管理で難しいことや、生産現場のライン管理の専門的なところまでできる必要はないです。
単純に、工場として生産計画をどうやってつくるか、原料の発注・在庫管理をどうしているか、という基本的な流れの部分についてちゃんとわかっていることが重要だと思います。
また、製造においては、品質管理についても実際に工場内でどういうことが行われているかを把握する必要があります。
1.3 物流・輸出入の管理
物流拠点に関する実務は非常に重要です。
入庫・保管・出庫・在庫管理・配車管理について、どういうシステムを使ってどういう業務があるのかについては、一通りわかっておく必要があります。
物流はサプライチェーンマネジメントの一番の管理ポイントです。店舗・販売拠点や工場はそれぞれ管理する部門がいても、その間のつなぎをちゃんと見れている人は少なかったりします。
そこにサプライチェーンの脆弱性が潜んでいる可能性はあり、SCMとしてはその脆弱性こそを課題として考えていく必要があります。
鎖で一番切れやすいのは、全体の中で一番弱い部分だからです。
バリューチェーンの中で、モノの滞留や欠品が起こりやすいのは、同じく一番チェーンの弱い部分になります。
そこに会社の人・モノ・金を投資していけるのは、全体管理を行っている人だけです。
また、輸出入に関する実務についてもちゃんと抑えておく必要があります。輸出入は非常にリスクを伴う商取引です。
いくら自分たちで輸出入をせずに国内サプライヤーを通しての取引であっても、そのサプライヤーが輸入をしているのであれば、そこには取引のリスクがある状態となります。
ですので、輸出入の実務としてどういうことがあるのか、把握する必要があります。
また、リスクに応じて契約の内容を変えたり、コミュニケーションの質と量を変えたりすることも重要です。
1.4 販売とサービスの管理
SCMにおいて販売というのは、ひとつのゴールです。売れて初めてスループット(利益)が得られるわけで、売れなければコストを積み重ねているだけになります。
ですので、すべてはモノが売れるために設計・運営されなければなりません。
SCMにおいても同じです。
モノを効率的に動かすにあたって、一番重要なのは最終的に販売できるということです。
販売を最大化するために、たとえば流通コストを最適化して売価をさげることを目指したり、品質劣化を抑える最適な保管・物流を行うことでクオリティを維持したり、SCMからみて販売のために行うことがたくさんあります。
ですので、SCMとしても営業・販売の実務についてわかっておく必要があります。
2. SCMにおける実務能力の重要性
上記で見てきたような、発注・在庫管理、生産管理、物流・輸出入管理、販売管理といったような実務ができるということはSCMを行う人にとって重要になります。
2.1各部署と渡り合えるようになる
なぜかというと、SCMはチェーン全体の管理をするので、それぞれの関連部署・サプライヤーと協力して、全体最適をする必要があるからです。
SCMは、個別最適の積み上げの活動ではありません。
もし物流の人が、自部門の最適化で考えて、欠品してもよいから在庫を少なくすることを主張した時に、SCMとしては物流部門を説得して、全社最適なルールに落としどころをつけていく必要があります。
そこでSCMとして重要なのが、チェーン上の実務について実際に自分でできる・わかるという状態です。
そうでなければ、説得力がでません。
また、自分に肌感覚がなければ、いちいちいろんな部署にヒアリングを行い、意見集約に時間がかかります。
意見集約をしているうちに、また別の要望がでてきてがんじがらめになってしまうこともあるでしょう。
そうならないように、SCMを行う人は、主要な管理工程については一通りできている必要があると思います。
がっつり入り込んで行う必要はなく、勘所がわかれば十分かと思います。
2.2キーマンとつながれる
実際に自分で実務を行うと、現場のキーマンが誰なのかがよくわかってきます。
会議だけだと、各部署の、役職が上の人や正社員とのコミュニケーションになってきます。
しかし、現場に行ってみると、そういう会議に出ている人たちが全然現場のことはやっていないということはよくあります。
SCMを行うにあたっては、実際にモノと情報が動くところをコントロールできなければいけません。
いくら会議で何かが決まっても、実際にモノと情報が動かなければ意味がないのです。
会議で決まったことが実際に行われるかどうかは、現場のキーマンがそれに沿って行動するかどうかにかかっていることは往々にしてあります。
自ら実務を行うことによって、キーマンとつながりを持つことができます。それにより、本当は誰とコミュニケーションをとるべきなのかがよく見えてきます。
まとめ
SCMにおける実務能力は、サプライチェーンの各段階での効率化と最適化を図るために不可欠です。
調達、生産、物流、販売の各分野で高い実務能力を持つ担当者が揃うことで、強力なサプライチェーンを構築することができます。
ただ、実務能力が高い人がいる部署は、その部署の個別最適が強くなってしまうリスクもあります。
ですので、SCMを行う人は、各方面の実務能力をつけ、全体最適の視点で各部門の調整を行う必要があります。
実務というと、私は2つ気にかけていることがあります。
1つ目は、実務と企画を同じ人が担当すべきでないということです。
実務をやっている人に、その実務の改善やシステム構築を並行してやらせることは、なかなか難しいと思ってます。
それは、基本的に実務をやってる人は実務で忙しいからです。
改善・企画を行う余裕があるのであればそもそも改善も必要がないですので、問題があって忙しい人にその目の前の課題の対応と、根本的な対策を両方求めるのは基本的に高度な要求をしているということです。
スーパーマンならできると思いますが、会社にスーパーマンはそんなに何人もいるわけではありません。
よって、実務を行う人は実務を行い、企画を行う人は企画に専念すべき、というのが私の考えです。
とはいえ実際は業務も企画も自分しかやる人がいないという状況は発生するかと思います。
そういう場合は、時間を分けて業務時間の3割は企画に充てる、などジブンルールを作るのが良いのではないかと思ってます。
また、できる限りその日のイレギュラーに巻き込まれない早い時間の段階に無理やり企画を進めてしまう、なども一つの手かと思います。
メールを開く前に終わらせる、メールを一読して緊急の連絡がなければ、一定時間は企画に集中する、など工夫することも有効かと思います。
実務と企画については、人によって向き不向きがあるということです。どちらが良い悪いではなく、適正として実務向きの人と企画向きの人がいると考えてます。
ですが、企画をやる人は、実務がどうなっているかを知らないとよい企画をたてられない、というのは間違いないことです。
発注をしたことがないのに、発注システムは構築できません。
ですので、一通り実務を経験することは、企画を行う上で非常に重要なステップになります。
中途採用の人がSCM企画とかに配属され、実務を踏み込んで理解しようとしないまま、うわべのヒアリングだけでDXだRPAだといきなりシステム構築しようとして、全然実務とかみ合わずシステムが動かない、というのはあるあるだと思います。
そういったことにならないよう、まずは各部門での実務をしっかり地に足をつけて把握するということは重要かと思います
以上、今回はSCMにおける基本能力の第一回目として、サプライチェーン上の各分野での実務能力の重要性について書きました。
また今後もSCMについて書いていきますので、よろしくお願いいたします。