(株)青山芸術 桂竜馬氏インタビュー(後編)~設計士と建築企業の未来をつなぐ新しいマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」~
【はじめに】
前回に引き続き、株式会社青山芸術 桂竜馬氏のインタビュー記事をお届けします。後編では、建築家・設計士専門のマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」の詳細と現在の状況、今後の展望などをお伺いしています。
中小の設計事務所からゼネコン・設計会社まで幅広く利用が進む
岡本:現在、全国4,000社、30,000名以上の設計事務所・設計士が「アーキタッグ」に登録されているそうですが、どんな設計事務所が登録されているのでしょうか?
桂:所員が数名の設計事務所から、ゼネコン、設計会社まで規模はさまざまです。ゼネコンさんや設計会社さんは、例えば国内トップ50社では7〜8割ほどの企業さまにご利用いただいています。登録してくださる設計事務所も増えており、営業活動をせずともクチコミだけで毎日数十件の新規登録があります。
大江:依頼が来る案件のジャンルとしては、どういったものがありますか?
桂:意匠、構造、設備いずれにも対応しています。建物の用途も、住宅から施設まで多種多様です。案件ごと・作業ごとにパートナーへ依頼を出せる仕組みなので、「パースだけ」「作図だけ」「申請だけ」といった案件、「大型施設のこの部分だけ作図を頼みたい」といったものもあります。ご登録をいただいているのは、自分でも元請けとして案件を完遂できる設計事務所の方々も多いので、ひとつの案件をトータルに任せることも可能です。「基本設計から参加してほしい」「クライアントの打ち合わせにも一緒に出るような役割で、主力として参加してほしい」といった依頼もあります。3〜4年かかる大規模プロジェクトへの参加を打診される場合もありますね。
そのほかにも、内装にこだわりがあり、店舗や施設そのものを重要な資産と考えている企業からご依頼をいただくこともあります。そういった企業からは、デザイン自体は別の設計事務所が担当するのですが、当社には予算管理やデザインコードのすり合わせなど、「プロジェクトマネジメント全体を任せたい」といった依頼が寄せられています。
珍しいところですと、美術館の作品収集や研究、調査を行うキュレーターの方から、「建築の素養がある方を探している」といった依頼もありました。
「人」が介在した丁寧なマッチングが好評
大江:さまざまな案件があるのですね。依頼主とパートナーはどのような方法でマッチングされているのですか?
桂:当社では、カスタマーサクセスの担当者が必ず一社/一案件について、依頼主とパートナーのマッチングをサポートしています。まず「アーキタッグ」にご登録いただく際に、対応できる業務範囲や得意分野、使用しているCAD/BIMソフトなどを詳しくご入力いただきます。依頼があった際には、その情報をもとにカスタマーサクセスが検討し、「この会社に最適な案件だ」と思った設計事務所へ電話やメールでご連絡を入れます。また、多くの設計事務所に向けて広く募集をかけた方がよい案件の場合は、条件を満たす方々に一斉にメールでご連絡を入れ、興味を持たれたパートナーからの連絡を待ちます。プラットフォームではありますが、システムを活用できるところは最大限導入しつつも、特にお客様と接する部分は自動ではなく人力でやっている部分も多いです。
その後、パートナーが「仕事を請けたい」となったら、当社のカスタマーサクセスが同席の上、カジュアル面談を行います。現在はオンライン面談が中心ですが、ご希望によっては対面で顔合わせをしています。案件の概要や進め方のイメージ、相性などを確認していただき、問題がなければ、業務委託契約へ進みます。
安心して利用していただけるように、収納代行サービスを導入
桂:業務委託契約は二社間で締結していただきますので、のちのちトラブルにならないように、当社側では契約書のテンプレートを何パターンも用意して、契約手続きがスムーズに進むようにサポートしています。「口約束で仕事を請けたので責任範囲が明確でなかった」といった事態などを防ぐためです。
また、サービスを開始する前の業界ヒアリングで「仕事をしたのに報酬の支払いが遅い、最悪の場合行われないことがある」といった声を多く聞いていたため、そのような事態を避けるために当社では収納代行サービスを提供しています。依頼主からは報酬の一部又は全額を事前に当社へ入金をしていただき、入金確認後にパートナーが作業を開始します。案件が完了次第、当社の手数料(報酬の10%)を差し引いた金額をパートナーへお振り込みします。万が一、途中でパートナーが作業ができなくなってしまった場合は、依頼主に全額返金されます。依頼主もパートナーもお互いに安心感を持って業務ができる体制を整えています。
業務終了後には、依頼主・パートナーともにお互いを評価できる仕組みを導入しています。「スピード」「品質」「コミュニケーション」などといった項目で評価をつけていただいて、今後マッチングを行う上での判断材料にさせていただきます。ゼネコンや設計会社の方々も、初めて依頼をする設計事務所に対しては少なからず不安を抱くものです。そこで、「こんな案件を手がけている」「こんな評価を得ている」といった情報を蓄積し、誠実な仕事をしていただける設計事務所さんがしっかりと報われる仕組みを作っていきたいと思っています。
岡本:きちんと「人」が介在して丁寧に対応されていることに驚きました。御社の社内体制はどのようになっているのでしょうか?
桂:現在スタッフが20名ほどで、カスタマーサクセスのメンバーが社内で一番多いです。一級建築士資格を保有している社員、設計事務所で働いていた社員もいれば、カスタマーサクセスのプロとして別業界で働いていた社員もいます。そのほかに、ゼネコンや設計会社に対して案件のヒアリングや提案を行う営業、システム担当などがいます。
岡本:「アーキタッグ」への登録料はかかるのでしょうか?
桂:現在は、依頼主・パートナーともに登録料はいただいておりません。案件のマッチングが成立して業務が完遂されたときに、パートナーさんから報酬の10%を手数料としていただく成果報酬型をとっています。もともと設計事務所さんが悩まれている「仕事の波」を解消したいと思ってスタートしたサービスなので、閑散期にきちんとお仕事をご紹介して売上を上げていただいて初めてお役に立てると思っています。ですから、固定費が発生してしまうと、そもそもビジネスを立ち上げたときの思想と異なってしまうので、登録料はいただいていないです。
全国47都道府県の設計事務所が登録、遠隔地での業務支援も可能に
岡本:登録されている設計事務所さんは、首都圏が中心なのでしょうか?
桂:現在、「アーキタッグ」には全国47都道府県の設計事務所にご登録いただいています。設計は施工と違い、オンラインで完結できる仕事が多いので、例えば東京の案件を九州の設計事務所がサポートする、といったことは珍しくありません。ですから、マッチングをする上での市場はとても広いと言えます。
他にも、あえて「地方の設計事務所を探している」という依頼も多くあります。例えば、東京本社で受注した仕事の現場が地方だった場合、本社から設計士が往復をするとなると移動のために時間もお金もかかります。そういったときに地元の設計事務所さんとタッグを組めれば、移動時間とコストの削減につながります。また、建築申請におけるローカルルールなど、地元の情報に精通した設計事務所の力を借りたいと考えている企業も多いです。
岡本:現在、建築確認を行う指定確認検査機関が人手不足に悩んでおり、国土交通省がリモートでの検査を推進しています。デジタルデバイスを活用して、現地の様子を撮影しながら遠隔で検査を行うという取り組みなのですが、現地で撮影をする人にも建築の素養がある程度求められることもあり、なかなか人手が確保できず、まだ浸透していないとも伺います。「アーキタッグ」に登録されている設計士のネットワークがリモート検査の一助となることはあるでしょうか。
桂:そうですね。北海道から沖縄まで、さまざまな設計事務所さんに登録していただいていますので、きっとお役に立てると思います。最近では、「2025年4月の建築物省エネ法改正に向けたセミナーを開催したい」「BIMの普及に向けたセミナーを実施したい」「補助金制度の利用を広めるセミナーがしたい」といった声もいただいています。ニッチな領域ではありますが、設計者に向けた情報発信を任せてもらう機会も増えていますので、検査員の人手不足解消もお手伝いできればと思います。
大江:最後に、今後の展望をお聞かせください。
桂:「アーキタッグ」は、建築の設計に関わる企業・設計事務所であれば、仕事を頼む側でも請ける側でも、いずれの立場でも使っていただけるサービスです。ですから、もっと多くの設計事務所の方々に利用していただけるように、さらにサービスを向上していきたいです。また、「アーキタッグ」という”面”を広げていくなかで、設計事務所の方々からはさまざまなお悩みを伺っています。すでに「転職」や「M&A」など、新しいサービスも開始していますが、今後も設計業界の課題を”縦”に掘り下げ、設計に関わるみなさんにさまざまな面で役立てるような事業を開発していきたいと思っております。
【おわりに】
いかがでしたでしょうか。
今回のインタビューを通じて、株式会社青山芸術の桂竜馬氏から「アーキタッグ」が提供する新たなマッチングプラットフォームの魅力や、業界におけるその必要性を深くお伺いしました。全国47都道府県の設計事務所が参加し、多様な案件に対応するその仕組みは、特に中小規模の設計事務所にとって大きな助けとなりそうです。
また、「人」を介した丁寧なマッチングにより、利用者は安心して相手とマッチングすることができ、そのアナログなマッチング手法が、むしろ両者の信頼関係構築に大きく貢献しているということも伺えました。今後の展望として設計業界の課題を”縦”に掘り下げた新たなサービスの展開を検討されており、設計士や企業のニーズに応えようとする柔軟な姿勢が印象的でした。
建築業界が抱えるさまざまな課題に対し、「アーキタッグ」から広がるプラットフォームがどのように成長していくのか、今後の発展に期待が高まります。
本研究所では、今後も建設DXに係る様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!