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おしゃれは誇り、着道楽国家ブータン

写真: 仕事や学校へ行くとき着用するブータンの正装。男性用は「ゴ」、
女性用は「キラ」という。


「ちょっと待った!」

ブータンでは「着付警察」によく捕まる。正装である民族衣装を着て学校へいくと、同僚や生徒たちに頻繁に呼び止められるのだ。ほんのちょっとの裾のずれや襟の乱れでも彼らはそれを許してくれない。おせっかいなブータン人たちは、時間をかけて身だしなみを整えてくれる。彼らに何度捕まり、お世話してもらったことだろう。しかしながら、日本で昨今話題の「着付警察」とはちょっとニュアンスが違っていたのも事実だ。彼らから受けるチェックでぼくは嫌味を感じたことはなく、みな優しく親切に直してくれた。まさに民族衣装はぼくと彼らのいいコミュニケーションツールとなっていた。

写真: SNSで自分の着飾った自撮り写真を発信する若者。

 ブータンでは法律で民族衣装の着用義務というものがある。男性は「ゴ」女性は「キラ」と言う民族衣装があり、仕事をするとき、学校へいくとき、お寺やゾン(県庁)にいくとき、子どもから大人まで民族衣装を着なければならない。見た目が日本の着物に似ていることもあって、日本人旅行者の中にはブータン滞在を「まるでタイムスリップしたみたい」と表現するひとも多い。

写真: 長い時間をかけて造られる手織りの民族衣装は高級品。祭りなど特別な日のために仕立てる。

 ブータン人は民族衣装の着付けで人を判断するといっても過言ではない。着付けひとつでどの程度の社会的地位の人間か見極められてしまう。着付けが乱れていれば性格が荒々しく、出世できないと見られがちだ。
だから子どもから大人までブータン人は身だしなみに細心の注意を払う。例えば男性用の服「ゴ」は、丈がくるぶしまである着物を、膝までたくし上げ、帯で巻いて着る。膝あたりで裾ラインを綺麗にまとめるのがポイントなのだが、歩いたり激しい動きで少しずつ崩れてくる。おしゃれの意識が高い人はその乱れをすぐに察知し、すぐさま帯を締めなおし、裾を修正するのだ。また、女性用の「キラ」は150cm×250cmくらいの布で、これを巻きつけるようにして着込み、肩口をブーロチで留め、腹部を帯で締めて着る。着こなしのポイントは前の折り返しラインで、動くとここが一番乱れやすい。意識が高い女性は何か一つの動作を終えるたびにその折り返しラインをきちんと整える。整える動作までが一連の動きといってもいいくらいだ。着付けがうまい人は同性から尊敬され、異性から恋愛対象者として見られるという。だから誰もが身だしなみには尋常ではない情熱をもって挑んでいる。ブータンはそんな着道楽国家なのだ。

写真:伝統的衣装の需要が高いブータンでは織士はメジャーな仕事の一つ。

 ブータンの人々なぜそこまで衣装にこだわるのか。ぼくの同僚はいつもこんな話をしていた。「実際、民族衣装はけっこう重いし動きにくい。夏は暑いし、冬も寒い。快適とはとても言えない衣装だよ。でもぼくは民族衣装を着ることが嬉しいんだ。これを着るとブータン人としての誇りを感じることができるからね」

写真:民族衣装をおしゃれに着こなす首都ティンプーの若者。

 民族衣装を身にまとうことで、彼らは自分たちのアイデンティティーを確立する。徐々に個性がなくなってきている国際社会。そんな中でも自国の民族衣装、自国の言葉、自国の文化を大切にすることで、ブータン人唯一無二のブランドを作り上げてきた。自分の国に誇りをもつことは、この国際社会を生きていくために大切な要素なのだと彼らをみていつも感じさせられる。


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2019年8月18日(日)~8月24日(土)
タイ・バンコク発着 7日間
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この記事は昨年株式会社ぎょうせいから発行された雑誌「リーダーズライブラリ」の連載を修正、写真を加えたものです。
雑誌「リーダーズライブラリ」についてはこちら↓
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9699
現在、同じく株式会社ぎょうせいから発行されている雑誌「学校教育・実践ライブラリ」で「Hands 手から始まる物語」という新連載を書いています。こちらもご注目ください。
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