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トイレで話しかけてくんな
つくづく思う。
私は同時に2つ以上の何かをする能力が全くない。電車に乗っていた時も、吊り革を掴むのと人に気を遣って体を移動させることを同時にしようとして、そのまま混乱して動けなくなった。
そのぐらいすぐ混乱してしまう私に、トイレでは話しかけないでほしい。
私は生物学的には雄なので、小便器のあるトイレに入る。その小便器の前に立ち、下半身に力を入れている時、知り合いが話しかけてくる。
「最近どう?」だとか言ってくる。
知ったことか。
その話は今しかできないのか?いまはションベンを出す時だろう。邪魔してこないでほしい。私は彼の方に意識が向いてしまい、出かかったションベンは気まずそうに引っ込んでゆく。
待ってくれ、私はお前を出したいのだ。引っ込む必要はない。出てきていいんだ。そうしているうちに彼は心配そうな顔でこちらを覗きこんでくる。
「あ、いや、特に無いっすね……はい…。」
質問には答えた。もう私は知り合いの顔なんか見ずにまた下半身に意識を向け直す。
いやしかし、失礼な事をしたな…。このままだと冬場の便座のように冷たい男だと思われてしまうだろうか。もう一言返した方がいいか…?
と思っているうちにションベンは今まさに出ようとしている。出る前に何か言っておかなければ…!
そう思って振り向くと、彼はもう男子トイレの外だった。なんだったんだ。私の事情に興味がないなら話しかけてくるな。
悲しいような腹立たしいような気持ちで、私は素直にションベンを開放してやった。