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エコノミスト・ハルシネーション(Economist Hallucination) −経済学者は何故もっともらしい誤情報を生成するのか?-

経済に興味のある人であれば、経済学でさも当たり前のように言われている理論や価値観に違和感を持つ人も多いかと思います。
もっと詳しく経済を勉強した人であれば、事実と異なる虚構を、さも事実の如く解説する経済学者や経済学教科書に戸惑う事もあるかと思います。
今回はこの現象を生成AIで良く発生するハルシネーションと紐づけて解説しようと思います。


生成AIのハルシネーションとは?

まず、生成AI(例えば、ChatGPTのようなAI)がどのように情報を作り出すかについて説明します。生成AIは大量のデータを基にして文章を生成します。
そのため、時には誤った情報や存在しない情報を作り出してしまうことがあります。これを「ハルシネーション」と呼びます。
ハルシネーションは「幻覚」を意味する英語で、「幻覚」とは存在しないものを見たり聞いたりする現象を指します。
生成AIの場合は存在しない情報を生成することを意味します。
例えば、あるAIに「宇宙にはスイカでできた星がある」と聞いたとします。AIはそんな星が存在しないと知っているべきですが、時には
「そうです、その星はスイカアースと呼ばれています」と答えてしまうことがあります。
これはAIが誤った情報を生成してしまった例ですが、まるで幻覚をみているように、もっともらしい回答をすることからハルシネーションと呼ばれています。
この生成AIのハルシネーションは知識が無いと判別が非常に難しく、真実なのか嘘なのかを判断することは非常に困難です。
そして、生成AIの信頼度が世界的に上昇している中、ユーザーが生成AIのハルシネーションを信じた結果、別の人に誤った情報を伝えてしまうという事故も発生しています。

経済学者のハルシネーションとは?

次に、経済学者のハルシネーション「エコノミスト・ハルシネーション(Economist Hallucination)」についてです。これは、経済学者が現実には存在しない誤った情報を、もっともらしく回答することを比喩した私が作成した造語です(英語でも日本語でも検索で引っかからなかったので、この表現は今までなかったと思われます)
これは、経済学の根本的な問題を表しています。
経済学は、多くの場合、理論やモデルに基づいて予測を行いますが、これらの理論やモデルは現実から完全にかけ離れていることが多いです。
次は具体的な例を紹介します。

銀行は企業や個人から預金を集め、貸出をおこなっているという幻覚

これは前回の記事でも書いたように、2014年に「Can banks individually create money out of nothing?(銀行は個別に無からお金を作り出すことができるか)」という論文で、”歴史上初めて”銀行が実際にどのようにお金を貸出しているかについて検証した結果、銀行は「無からお金を創造している」事が明らかになりました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1057521914001070

この論文では貸出に際し、銀行の会計処理を隅々までチェックした結果、銀行は誰の預金にも手を付けず、研究者の預金を20万ユーロが増やし、同時に研究者の負債も20万ユーロが増やしました。
銀行は他の預金者のお金に一切手をつけず、貸出時には単独で「無」からお金と負債を生み出し、返済時にはお金と負債を「無」に消滅さているのです。
こちらは量子物理学の「対生成」「対消滅」に似ていると言うことで前回の対生成貨幣経済理論としてまとめました。

物理学における対生成・対消滅と銀行における貸出・返済の類似

日本の国会(第208回国会 参議院 財政金融委員会 第3号 令和4年3月15日)においても日本銀行の清水企画局長も同様に回答をしております。

貸出しの際には、借り手の預金口座には同額の預金が発生し、ここに信用創造が行われる

https://kokkai.ndl.go.jp/simple/txt/120814370X00320220315/10

しかし、2014年から10年が経過した2024年時点においても経済学者や経済メディア関係者は、「銀行は預金を他の人に貸している」「銀行は預金で国債を購入している」などという既に誤りが明らかになっている虚構をベースに、もっともらしい誤った教科書、言論や記事を生成しています。
世界で最も売れているグレゴリー・マンキューのマクロ経済学の教科書でも、もっともらしい虚構が事実かのように文章が生成されております。
下の図はマンキュー教科書の誤りや矛盾を指摘した記事です

マンキュー教科書”銀行は預金を集める
銀行の主な仕事は、貯蓄したい人から預金を集めこの預金を借りたい人に貸付を行うことである
イングランド銀行(世界の中央銀行のモデル)”銀行は預金を創造する”

銀行の役割は貯蓄者と投資家の単なる仲介者に縮小される。
これは現実とはまったく関係ありません。イングランド銀行のツイートで明らかにされているように、貨幣モデル(および現実に基づくモデル)では、預金は主に商業銀行の融資によって創出されます。

https://www.ineteconomics.org/perspectives/blog/best-of-mankiw-errors-and-tangles-in-the-worlds-best-selling-economics-textbooks

これは「エコノミスト・ハルシネーション」、経済学者の幻覚と読んで差し支えないでしょう。
ここで問題なのは、生成AIと同様にエコノミスト・ハルシネーションを信じた結果、別の人に誤った情報を伝えてしまうことが発生してしまっているのです。
日本では全国銀行協会ですら、このエコノミスト・ハルシネーションに侵されてしまっています。

「貸出」の元になるお金は、皆さんが預けた預金です。

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/education/material/loan_jr_highschool/pdf/seito/seito_4h-2.pdf

こんな状況であるのであれば、元メガバンカーの経済評論家など推して知るべしの状況となります。

銀行の主な仕事は、資金に余裕がある人(たとえば給料日のサラリーマン)から預金を預かって、資金を必要としている企業等に貸出をすることです

https://www.excite.co.jp/news/article/gentosha_Gold_Online_article61106/

なぜ経済学者は誤情報を生成するのか?

それでは、なぜ経済学者は誤情報を生成するのでしょうか?
それの答えは前回の記事にも書いた、ノーベル経済学賞受賞者のロナルド・コースの有名な演説に隠されています。

経済学は長い間、現実の世界からどんどん離れて抽象的になってきました。多くの経済学者は、実際の経済の動きを研究するのではなく、それについて理論を立てています。
イギリスの経済学者イーリー・デヴォンズはかつて会議でこう言いました。「もし経済学者が馬を研究したいと思ったら、彼らは実際に馬を観察するのではなく、自分の研究室に座って『もし自分が馬だったらどうするだろう?』と考えるだろう。」そしてすぐに、自分たちが利益を最大化することを発見するでしょう。

国際新制度派経済学会年次大会開会
演説 ワシントン DC、米国
1999 年 9 月 17 日
ロナルド・コース
https://www.coase.org/coasespeech.htm
実際の馬を観察せず、「自分が馬だったらどうするか」を考える経済学者

つまり、経済学者は現実経済には興味がなく、妄想で理論化された経済学という「幻覚」を見ているのです。
経済学者は現実をそのまま見ることを拒み、経済学という幻覚を起こすフィルターを通して現実を見るのです。だから、誤情報が生成されてしまうのです。

何が問題になるか?

今回は特に銀行貸出に関する業務について解説しました。(今後、別の幻覚にも触れていきたいと思います。)
銀行貸出について、現実の銀行システムを理解すると、お金は銀行にて負債と共に生成される事がわかります。
であれば、政府の負債が増えると、その分、民間のお金が増えることが理解できます。

しかしエコノミスト・ハルシネーションに侵されると
「銀行は預金を貸しているのだから、政府にお金を貸したのは民間の預金である。民間の預金があるうちは大丈夫だが、政府の負債が民間の預金を上回ったら危ない」
ということを言い出してしまいます。

民間銀行などは、何を財源として、国債を購入したのだろうか。例えば、それが民間銀行の場合、国債を購入するために利用した原資は我々が民間銀行に預けている預金である。つまり、政府が国債を発行して借金をする場合、民間銀行などがその国債を引き受けるが、民間銀行は我々国民の預金の一部を利用して国債を購入したわけである。

https://cigs.canon/article/20220523_6785.html

このように有りもしない幻覚を見て、もっともらしい誤情報を生成し続ける経済学者や、経済アナリストなどの影響を受けることによる日本経済への悪影響は深刻です。
現実の経済では、民間と政府が銀行で「負債とお金」を増やすことが経済成長のエンジンです。
にも関わらず、日本ではバブル崩壊によって民間の「負債とお金」を増やす能力失われた後、政府が「負債とお金」を増やして経済を支えることを
「国の借金を増やすな!」「子孫へのツケの先送りだ!」
というエコノミスト・ハルシネーションによって阻止され、30年以上成長できない状況が続いています。
経済学者や、その影響を受けた人々がハルシネーションに侵されて、誤情報を生成していることに日本国民が気づく必要があります。

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