パイプオルガン合宿

松本市音楽文化ホール(通称ハーモニーホール)に来たのは通算何回目なのか、、安曇野在住のジャズピアニスト伊佐津さゆりさんのプロジェクト『信州ジャズ』『Jazz Irise』などでここ数年よく来ていてすっかり馴染み深い場所という感覚なのですが、今回は初めてパイプオルガン常設の大ホールの方への出演でした。

世界のコンクールで入賞を果たしている実力派、山田由希子さんのパイプオルガンとの二重奏は四回目。第一回は2021年4月25日の水戸芸術館で。その前日に水戸『GirlTalk』に和泉宏隆さんとDUOで出演し、翌日の昼公演がそのパイプオルガン公演。それを客席で聴いてくれた和泉さんと一緒に移動して御茶ノ水『Naru』でのCD発売記念LIVEが和泉さんの最後の演奏となってしまったので、この日のことは全て忘れるべくもない色濃い記憶としてずっと脳裏に、鮮明な映像で残っていて。和泉さんが聴いた最後のLIVEが、わたしのパイプオルガンとの初公演だったわけです。なんとも恐縮至極な話です。。

第二回は豊田市コンサートホール、第三回は六本木のサントリーホール、と続き、そこから2年空いて今回の松本公演。このホールの常任パイプオルガン奏者に就任した山田由希子さんのコンサートシリーズ、その第一回公演にご指名いただき、これまた恐縮至極でございます。実はお話しをいただいたのは一昨年。クラシックコンサートのブッキングは数年先まで決まってゆくのが通例ということで、ジャズ界ならば「半年先?ブッキング早いねー」は、広く音楽業界全体を見渡したらそんなに早くないのかも。。

サントリーホールでの2022クリスマス公演

パイプオルガンとサックスの二重奏の過去3回公演、客席で聴いていただい方にはなかなか好評な様子。しかしながら日頃、メロディとコード進行だけを頼りにあとはアドリブで…みたいな演奏を主に活動している自分にとって、クラシックの名曲・難曲を、音を間違えずにキチンと吹いて、尚且つそこに叙情的だったり情熱的だったりする曲のストーリーを表現するというクラシック奏者皆様の凄いワザを一朝一夕で体現するなんて至難の業で、先ずは1人で譜読み→実演を繰り返して完成度を高めてゆくわけですが、やはり2人で合奏しないと作って行けない部分も多く、今回は公演前の二日間にわたって、ホールでみっちりリハーサルをやらせていただきました。松本市に泊まり込み2泊3日の合宿です。

初日は1曲ずつ合わせて、細かいところをどういう風に奏でるかを決めてゆく作業に半日費やし、二日目はプログラム全てを曲順通り、通しリハーサルをして再び微調整して、で半日。おかげで色々クリアになって自分の改善点も多々見えてきて。この練習は普段やっていることと全然タイプの異なる歩みを進めている感じなので、とてもためになります。出来ること、出来ないことが浮き彫りになるんですね。畑違いのジャズ屋のわたしにこの機会を与えてくれる山田さんには感謝感謝の雨あられです。

バルコニーへの階段

席数700名満席のコンサートホール。
黒いスーツに身を固め、パイプオルガンのバルコニーに向けて一段ずつ昇ってゆくときの緊張感は、可能ならば皆さんにも味わっていただきたいというか、出来るものなら代わってもらいたいという弱音も吐いてしまいそうな超ハイプレッシャーなんですが、波のように押し寄せる皆様の拍手な音と期待感の「気」の中、いざ曲が始まると、あとはもう吹くだけ。何も考えず、只々、この演奏を良いものにするために全神経を集中させて、しっかりと吹くだけでした。

時々「演奏中は何を考えているんですか?」と聞かれたりしますが、それはいつも同じ。ただ良い演奏になるように吹くだけで、他には何も考えてないのですね。音楽のことしか頭にない状態、それはある意味「無心」と言えるかもしれなくて、その直前まで気に病んでたことなんかも、演奏中だけは何処かに忘れてきてしまったような感覚なんですよね。不思議なものです。

どんな演奏だったか、細かいところは薄っすら憶えているものの、録音を聴いて確認して、その日の自分の音に感じた何かを肝に銘じて次の演奏の糧にしたい。それの繰り返しを続けて数十年。
四度目のパイプオルガン&サックス二重奏、自分としては今までで一番良く吹けたような気がしましたが、実際のところは、また後で録音を聴いて凹んだりすることでしょう、きっと。おそらく。間違いなく。 でも大失敗の箇所も無く、全曲無事に完奏できてホッとしました。

ホール職員の皆様、聴いてくれた皆様、そして山田由希子さん、この貴重な体験をくれた皆様に心から感謝の意を。ありがとうございました。
またやりたいです。パイプオルガン合宿。

演奏中に見ていた風景

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