森をさまよう【完全版】

重いカフェテリアのドアをグッと押す。ギギッと軋んだ音がした後、ゆっくりとドアが開く。まだ11時前ということもあり、カフェテリアの人はまばらだ。今の時間帯は、林業学校の教官や市の林業課に所属するレンジャー達が休憩している。ティム・ホートンズのコーヒーとドーナツも置いてあるので、僕もクラスの合間に時々カフェテリアに来ることがある。今日は休憩しに来たのではなく、テイクアウト用のランチを取りに来た。キョロキョロと見渡すと、食器返却コーナーの近くにテーブルが設置され、茶色の紙袋がうず高く積まれている。あれがテイクアウト用のランチに違いない。テーブルに近付いて、自分の名前が書かれた袋を探す。青いマジックペンでkimiと書かれた紙袋を奥の方に見つけた。袋を開けて中身を確かめる。小麦の食パンにチキンを挟んだサンドイッチとローストビーフのサンドイッチ。あとは、林檎とシリアルバー。テーブルの隅に置いてあった段ボールからペットボトルの水を一本掴んでからカフェテリアを出た。学校出発は11時の予定なので、5分ぐらいまだ余裕があるはずだ。トイレに寄っておいたほうが良いだろう。ひょいと校舎の裏口のほうを見ると、ドア越しに何人かのクラスメイトの姿が見えた。もうみんな集まっているのか。バスの席がなくなるから、早目に向かったほうが良いかもしれない。トイレはあきらめて裏口に向かう。鉄製のドアを押すと、冬の空気が一気に吹き込んできた。むき出しの頬がチクチクと痛む。ニット帽を中途半端にかぶっていたので耳もチクチクする。これから森の中を長時間歩くのに、今着ている青いダウンジャケットで寒さを防げるのか少し不安になってきた。足踏みしてから、裏口から少し離れた所に止まっている黄色のスクールバスまで歩いて行く。既に大半のクラスメイトたちがバスに乗り込んでいるようだ。