森をさまよう(中)
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学校を出たバスは町の中心部を越えて、森の入り口に到着した。教官のロブがバスを降りてゲートを開ける。森の入り口をバスがゆっくりと通り過ぎる。舗装された道路を通り過ぎ、林業専用道に入っていく。数十分ほど林業専用道を進むとバスが停車した。後ろの席から数人立ち上がり、昇降口の方に向かっていく。グループ1の5名がバスを降りるようだ。出口にいたクラスメイトが降りていく5名に声をかけている。「緊張している?」や「頑張れよ」という声が聞こえる。少し大袈裟かもしれないが、まるで戦地に向かう兵隊を送り出すようだ。グループ1のクラスメイトが降りたので昇降口が閉まる。先程より皆の口数が減った気がする。しばらく一本道を進む。10分ほどしてまたバスが停まる。今度はグループ2のクラスメイト達が順々に降りていく。僕はグループ3なので、次のエリアで降りることになっている。いつもは教官とクラスメイトと共に森で実習をするが、今回は一人で森を移動する。頼れるのは自分だけ。考えると緊張のせいか気分が悪くなってきた。グループ3の降り口までもうすぐだ。バスの扉が開き、いよいよ順番がやってきた。のろのろと席から立ち上がる。バックパックを背負い直し、意を決する。隣に座っていたジムが僕の背中をポンっと叩く。彼の方を見やり、「大丈夫だ」というように親指を立てる。ステップをグッと力強く踏んで地面に降りた。
バスを降りるとワイルドライフの指導教官がこちらに来るようにと手を振っている。彼の赤いピックアップトラックの方に5名で移動する。クラスメイトが一人ずつ地図を開き、教官に示す。僕も地図を広げて教官に近づく。まずは、地図にマーキングした今回自分が探し出す木の場所を指し示す。次に「どのようなルートで進むのか?5本の木を探して林業専用道に戻ってくるまでにどのぐらいの時間を想定しているか?」と確認される。たどたどしい英語で教官の質問に答える。最後に持ち物検査。「スマホは持っていないか?水分補給は充分用意してきたか?」と教官が優しい笑顔を向けながら聞いてくる。「スマホは置いてきたよ。ペットボトル2本持ってきたから大丈夫だと思う」と答える。教官から「気を付けて行ってこい」と声をかけられた。
教官の車から離れ、スタート地点と決めた場所まで林業専用道を5メートルほど歩く。地図上ではこの地点から比較的まっすぐ北に進めば最初の1本目に到着できる。道にしゃがみ込み、バックパックからコンパスを取り出す。地図の上にコンパスを置く。地図の上でコンパスの進行線と地図の磁北線が平行になるよう調整する。コンパスの回転盤の矢印と赤い矢印が平行になるように地図を動かす。地図をポケットに突っ込み立ち上がる。コンパスを片手に回転盤の矢印と赤い矢印が重なるように身体を動かす。二つの矢印が重なった進行方向を見る。進行方向の10メートルほど離れたところに少し大きめの岩があったのでこれを目標を定める。足元に気をつけながらゆっくり森に入っていく。地面は折れた枝や落ち葉で覆われている。一歩二歩と進む。自分の歩幅だと大体13歩で約10メートル。たった10メートルだが、まっすぐ歩けているだろうかと心配になる。ザクッ、ザクッと枝と落ち葉を踏む音が聞こえる。最初に目標にセットとした岩に到着した。地味な作業だが、10メートルぐらいの目標物をセットして、進行方向をコンパスで確かめながら歩く。この動作を繰り返す。そうすれば、進行方向は設定しているので目的の木に到着できる。クラスの実習で何度も練習したので大丈夫だと思うが、一人で実践するとなると急に自信がなくなる。まずは1本目を確実に見つけたい。1本目を見つけることができれば、次々に行けそうな気がする。
10メートルの目標物をセットし、そこまで歩くを何度も繰り返した。そうこうしている内に一本目の木があると思われるエリアに到着した。地図上の計算では、この辺りに目的の木があるはずだ。周辺を歩くと、木の幹にトランプぐらいの大きさのプラスチックのカードが杭で打ち付けられていた。カードには、番号と名前(Robert)と書いてある。フィールドブックに興奮しながらメモをとる。木の番号。名前。木の種類。手が少し震えて書きづらい。ここまで来るのに約45分。このペースでいけば、余裕で5時間内に5本見つけることができるかもしれない。無事に最初の1本を見つけられた興奮を何とか抑えようとする。地面にしゃがみ込み、次の木に向かう準備する。地図を広げて、コンパスをセットする。ここから西の方角。立ち上がり、また10メートルずつ進んでいく。自然と歩くスピードが上がる。「落ち着け」と自分に言い聞かせる。30分ほど歩くと、2本目があると思われるエリアに入る。先ほどと同じように周辺を歩きまわる。この辺に2本目があるはずだ。木の幹を隈なくチェックする。しばらく探していると、幹にプラスチックのカードが掛かっている木を見つけた。走り寄ってメモする。小さくガッツポーズする。まだ2時間もたっていない。いいペースだ。
3本目も難なく見つけ、4本目を目指し歩く。既に40分ほど歩いた。計算上だとこの辺りに目的の木があるはずだ。先ほどのように歩きまわるが、プラスチックのカードが全く見つからない。ポケットから地図を取り出し、見返す。周りの風景を見て、今はこの場所だと自分に言い聞かす。もしかすると、どこかで道を間違えたのだろうか?3本目の木に戻って、やり直した方が良いのだろうか?それとも、一番近くの林業専用道に出て、そこから4本目を探し直した方が良いかもしれない。地図上ではここから南に進めば林業専用道にあたる。気を取り直して歩くが、なかなか道に辿り着かない。少し焦りながらも歩き続ける。少し行くと、木と木の間からパワーラインが見えた。なぜここにパワーラインが?地図にはパワーラインは書かれていないのに。地図を読み違えたに違いない。かっと頭に血が上り、すぐに真っ白になる。一体全体、自分はどこにいるのだろうか?冷静になって地図を見直すべきタイミングだ。だが、気が付いたら今来た道を戻っていた。早く戻らなくては。完全に自分の場所を見失ってしまった。地図を見ようにも、焦りで手が震える。顔を手で拭う。もう一度地図を見るが、頭に入ってこない。目の前に見えるこの小川は地図のどこらへんだろう?焦りが増していく。時計を見る。3本目を見つけた時からもう1時間半以上たっていた。
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