[交換小説#1]サトルは憂いていた。「ちくしょうっ!なんでオレの財布の中には50円しか入ってないんだっ!」
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差し手:オオシマ
書き手:モリタ
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サトルは憂いていた。
「ちくしょうっ!なんでオレの財布の中には50円しか入ってないんだっ!」
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これだとうまい棒が5本しか買えなかった。
礼になった小学生は6人いた。一緒にサッカーボールを探してくれたのだ。
1人にだけ何もあげないのは流石に忍びない。
これでは中学生としての先輩面ができやしない。
だからといって5円ガムは安っぽすぎる。
ところで駄菓子屋に行ったら、うまい棒は12円だった。これだとなんと4本しか買えない。
でも、先輩面ができないのだがら、4本も5本も同じことだった。
そもそも、昨日マンガ本を本屋で買ってしまったことがいけなかった。一日我慢していれば!
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「お兄さん、お困りかね?」
ハッとして振り返ると、制服を着た女性が立っていた。
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制服姿のお姉さんはしゃっくりを時々挟みながら、話し始めた。
どうやら、お姉さんはお金の使い方がわからないのだという。
「やっと(ひっ)、お兄さんみたいな(ひっ)とを見つけた。」
そう言って、制服姿のお姉さんはサトルの顔を覗き込みながら、1万円札がたくさん束になったものをサトルの手に握らせた。
「あたし、ゆ(ひっ)…由美子」
そう名を名乗り、礼はいらない。と言って立ち去った。
サトルは呆然と立ち尽くしていた。
1万円札自体、こうやってまじまじと見るのは初めてだった。手汗のせいで少しお札がよれた。
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「気に入られたみたいだねぇ」
駄菓子屋のおばあちゃんが声を掛けてきた。
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ゆみちゃんは昔から人見知りでね、と、駄菓子屋のおばあちゃんは遠くを眺めるようにして言葉にした。
「昔はよく一人でうちに来てたのよぉ。それがいつのまにか株にハマってねぇ。大金を動かすようになって…。近ごろは、時々駄菓子を3ヶ月分箱買いしに来るくらいよ。あの子、駄菓子だけじゃ、お金を使いきれないみたい。」
たしかに由美子からは、独特な、酢昆布の匂いがした、とサトルは思い出した。お札もまた、酢昆布の匂いがした。
酢昆布みたいなお札の塊をサトルは駄菓子屋のレジの上に置いて、「これでこの店買い取れますか?」と言った。
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おばあちゃんは少し驚いた様子を見せたあと、すぐさま真剣な表情に変貌した。
「クックックッ…これだから今時の子は…甘いよ…甘い。」
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「ドケチ!!あたしゃねぇ、プライドを持ってこの店をやってる。片手間じゃぁないんだよ。全国チェーンの女社長をやめて駄菓子屋やってんだ。あんたが何に悔いてたのかは知らんがねえ、癇癪を起こすもんじゃない。金の怖さはあたしが教えてやる!」
サトルは急に駄子屋のおばあちゃんが怖くなって涙が出そうになった。
そんなサトルを見ておばあちゃんは笑い、「あたしに勝負ふっかけるならねえ、目の前の子どもたちを喜ばせな」と声をかけた。
翌日。駄菓子屋にサトルの姿がある。「では、行ってきます」
「ほいっ!気合い入れて!」とおばあちゃんに背中を叩き気合を入れてもらった。
サトルはうまい棒を入れられるだけ入れたパンパンのリュックサックを背負い、自転車を走らせた。
通り過がりの子供たちに、うまい棒を配るのだ。
先日一緒にサッカーボールを探してくれた子たちがいたら、もう一本サービスしてやるんだ。
いつもよりも少し、自転車からの景色が高く見えるように感じた。
(終)
発行:森田新聞社