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上海で実感した中国自動車マーケットの進化
先月、自動車メディア「レスポンス」が開催した、テスラ上海ギガファクトリー及び中国自動車市場視察ツアーに同行しました。日本では初めてメディアがテスラ上海ギガファクトリー内部を見学するツアーとなり、春から企画・準備してきた個人的に楽しみにしていたイベントでした。
テスラ訪問の模様についてはレスポンスでレポート記事を書いています。まだの方はぜひ(会員登録をすれば無料で読むことができます)
ツアーではテスラのグローバル生産ハブとなった上海工場の様子や中国市場をゼロから見てきたテスラVPの講演もあり、改めてテスラの成長背景を身近に感じることができた見学でした。そして、個人的に印象的だったのは、中国市場の大きな変化と発展でした。
変化が激しい中国自動車マーケット
中国上海はテスラ時代の2018年に上海オフィスを訪問したのが最後でしたから、約6年ぶりの訪問となりました。久しぶりに訪問した中国はとにかく新しく変化しており、驚きの連続です。
中国の大きな都市ではガソリン車のナンバープレート発行が制限されていること、電気自動車は交通制限区域や時間帯の影響を受けにくいことなどから、市内にはテスラを含め多くのNEV車(New Energy Vehicle)が走っています。
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2018年はまだ、日本車やそれらをコピーしたような中国車、フォルクスワーゲンの車が大半だったイメージがありますが、もはや過去の話。6年間でこここまで車風景が変わるのか、本当に不思議でした。
ご存じの通り、背景には中国の強力な電気自動車シフトと政府の優遇政策があるわけですが、それ以上に、日本にいる中国の友人からも聞いていた、中国市場の特徴や消費者の嗜好もこの変化を助長する要因であることを身をもって体験することができました。
中国ではとにかく車はステータスという側面が強い。新しい車=ステータスであるため、通常5年から10年の買い替えサイクルは3年程度。結果、上海のような富裕層の多い一級都市では新しいNEV車が溢れています。
特にその中でも目にしたのは販売データにある通り、テスラ、NIO、BYD、そしてAITOのようなファーウェイの車たち。いわゆる緑のナンバーが付いている電動車であるため、高速道路も静かで、新しい車ばかりです。それ故に街並みも近代的に感じます。
ガソリンの新規ナンバープレートの取得はかなり困難であり、取得できても約200万円掛かります。ガソリンでは乗り入れできない曜日もあるため、NEV車を所有するメリットは多くあります。従来のアウディ、BMW、メルセデスのようなドイツ車そしてレクサスも見かけました。ただ、高級車でない一般車のガソリン車は少数派になってきているようです。
街中ではどこに行ってもデジタル決済がデフォルトになり、現金ましてやクレジットカードも使うことはありません。DiDiのようなライドシェアは非常に発達しており車は3分以内にEVが迎えにきます。交通や社会のITインフラとしては日本をはるか超えてしまっているように思えます。
もはや家電と車の境目はない
現地メーカーのショールームも訪問しました。現在多くの自動車メーカーが従来の郊外ディーラー型店舗から都市部のフットトラフィックの多い商業施設などにブランド施設を構えるようになっていますが、中国ではこの店舗戦略とD2C(消費者直販)が主流です。
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上海市内にあるファーウェイが展開するショールームには、STELATO、LUXEED、AITOのような車がスマホと一緒に展示してあります。その展示もスマホのデモ機の横にオプションのホイールが並べてあったり、車のカラーが選べるようになっていたり、中国でEVは完全に家電の延長線上にあります。
このお店の隣にはNIOのショールーム「NIO Space」があり、ここはNIOの車だけが展示されていましたが、車内には彼らが開発するスマホ「NIO Phone」が備えてあり、ここでもスマホと車が統合されセットとして展示されているのが分かります。
中国で販売台数のトップを走るBYDが量産メーカーとすれば、中国初のプレミアムEVブランドとして台頭するのがNIO。テクノロジーの革新と持続可能なモビリティの実現に取り組んでおり、そのプロダクトの見せ方もテックアプローチです。彼らが展開するもう一つのブランド施設が「NIO House」でオーナー同士の交流やイベントスペースなどショールーム以上の役割を果たしています。さながら、アップルストアの自動車版と行ったところです。
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上海の高級ショッピングモールHKRI Taikoo Hui(興業太古匯)にあるNIO Houseを訪問しました。高級で洗練された空間のショールームで1FにはNIOの車両が展示されていますが、2Fはオーナー用のコミュニティースペースでカフェやワークスペースもあります。実際に我々が訪れた際も多くのオーナーが滞在していました。ちなみに同じショッピングモールにはテスラのショールームも入っており、テスラ時代にはこの店舗をベンチマークしていました。
デジタルとエンタテイメント機能が命
いわゆる新興EVメーカーのインテリアは基本的にはテスラのような大きなスクリーンとシンプルな内装となっています。シートはヴィーガンレザーが使われマッサージ機能を搭載、音声コマンドが主流で殆どの機能や動作を音声でコントロールすることができます。
We Chatの搭載やOTA、カラオケ、リアエンタテイメントモニターは必要最低限の機能、そういったエンタテイメントを楽しむために自動運転も必要とされています。走る曲がる、剛性や作り込みと言った従来の自動車の機能はベースで、それ以上の娯楽性や快適性が求められています。
極め付けは若者にとって車のフロントにガソリン車が持つエアインテイクのグリルがあると古臭くて嫌だとのこと。たとえEVでもグリルらしきものがあるとよくないようです。最新機能や見た目が重要である以上、言わんとしていることは十分かります。
多くの従来メーカーがこのような消費者の変化は十分わかっていると思いますが、それらに対して方向転換を図るのは新しいEVメーカーの方が対応が早い、もしくは中国では彼らがトレンドを作っていると言えます。
新しい自動車業界の勢力
中国の経済状況は、2023年の経済成長率は約3%前後で、過去の高い成長率と比べてかなり低調です。2024年に入ってからも不動産の低迷など様々な困難にも直面しています。ただし、中国の新車販売は2024年においても成長しており、年間では約3100万台に達すると予測されています。引き続き、特にNEV、新エネルギー車の需要が牽引、2024年の初めにはNEVの市場シェアが43%に達しています。
中国の自動車市場やモビリティに関する分析を専門とする調査会社、Automobility ioのウェブサイトには興味深い自動車業界の変遷が描かれたグラフがのっていました。実際にはドイツブランドもあり、こんなに単純なわけではありませんが、大枠としては掴みやすいです。黄金時代、東アジアの台頭、中国・電気自動車、そして未来のモビリティと年代別に示されています。
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最近ではこの図にあるように、多くの従来メーカーが中国での苦戦を強いられています。改めて上海訪問を通して、やはり自動車は電動化と知能化の方向へ進み、従来の勢力図は変遷を見せるのだろうと実感しています。
12月の講演:世界の自動車マーケット最新動向
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テスラやポルシェなど外資系自動車会社を経て、Undertones Consultingで独立。EVを中心としたセールス&マーケティング戦略やブランディングに関するコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界トレンド、電動化、マーケティングに関するセミナー登壇や講演、自動車・ビジネスメディアへの寄稿を行う。Xでは世界の自動車ニュースをポストしています