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卒業研究「エビ中とは?」⑥




7人で見た夢










2018年1月5日、日本武道館。
『シンガロン・シンガソン』で始まった6人の挑戦。



欠けてしまった大きなピースを補うように藤井校長は新メンバーの加入を急いだ。
ところがそれに反対した柏木ひなたの意見を踏まえて、新メンバー加入は見送られた。

その4年後、その柏木ひなたの卒業発表で再び新メンバー加入を迫られたエビ中は桜井えま、仲村悠菜という即戦力を迎え入れることとなる。

その前年に加入し、柏木ひなたを筆頭にグループが育て上げた桜木心菜、小久保柚乃、風見和香とともに低学年メンバーといわれる若い新戦力達はエビ中を進化させさらなる高みへ導こうとしている。




『シンガロン・シンガソン』を歌って始めたいわば“反抗の道”。

主力メンバー・廣田あいかの転校で問われたエビ中の自尊心。
さらに柏木ひなたが形として示したのは「6人でやっていける」という新メンバー加入の拒絶。

『ebichu pride』で表した「これが私立恵比寿中学だ!」という6人の想いは、結果的に新メンバー加入をせず進む道を切り拓いた。



思えば小林歌穂と中山莉子加入以前も新メンバー加入に難色を示したことがあった。

加入を知らされた豊洲でのイベント後に話し合われたメンバー達の意見は「NO」。既存のメンバーに拘る。エビ中としては誰かが抜けたら誰かが入るのが当たり前かもしれないが、これはこれで人間としては当たり前なのかもしれない。

一方で安本彩花だけはずっと新メンバー加入に前向きなように、新しい風を入れることに積極的な人間もいる。結局時が進む中で変わってゆくもの変わらないものがあり、同時に人間も選択の連続を迫られる。

2014年に加入を拒んだあとには小林歌穂、中山莉子という今では欠かせないメンバーが加入した。それでも2018年に再び新メンバー加入を拒んだということはそれ相応の確固たる意志があったのだろう。それはもちろん加入に反対した柏木ひなただけでなく、結局6人で進むことを受け入れた真山りか、安本彩花、星名美怜、小林歌穂、中山莉子にも言えることでそれはある意味で覚悟に近いものだった。




「この勝負、エビ中の勝ちで終わりたい」




これは新メンバー加入の話がまだ生きていた2018年の春ツアー開始前に柏木ひなたが発した言葉だ。

同時にこのツアー中に新メンバー加入を見送る判断を下した藤井校長にも思うところはかなりあっただろう。

柏木ひなたが涙したほどに重かった6人体制の継続は、その決断を下した校長自身にもそれ相応の責任がのしかかったに違いない。
それでも春ツアー、ファミえん、ちゅうおんと駆け抜ける中でいつしか6人の形が見えてくる。

紫、緑、ピンク、オレンジ、黄色、水色の6色は徐々にファミリーにも馴染んでいった。




「好事魔多し」とはよく言ったもので。

翌年はエビ中結成10周年の記念イヤーであり、6人体制に藤井校長も手応えを掴んでいたところにアクシデントが起こる。
年末の大学芸会のリハーサル中に星名美怜がステージから転落。一歩間違えれば命に関わる大怪我を負った。

だが「360ºどこから見てもアイドル」星名美怜の意地か。向こう1年安静の怪我を押してステージに帰ってきた。

アルバム2枚に春ツアー秋ツアーと精力的に活動したアニバーサリーイヤーの2019年。その写真を見るとどこにも星名美怜が輝いている。



6人でいることの意味。




特に誰かがいなくなった時に「日常が当たり前ではない」ということを痛感した時により強く気づくことだろう。

星名美怜は自分がそこに居続けることでそれを示した。思うように身体が言うことをきかない中でも。

「神様神様」と人間は古来から困窮するとその虚像を頼る。神様なんてものはいない。それでもそんなありもしない何かに縋るのは、目を瞑りたくなる現実がそこにあるからだ。

それだけ星名美怜が身体に鞭を打って6人を続けても、安本彩花がステージを休まねばならなくなる。1度ならず2度までも。

2度目の休養発表はさらに衝撃的だった。悪性リンパ腫。
新メンバー加入を常に受け入れるだけでなく、安本彩花はいつも前向きだ。新メンバー加入に賛成だったなら人によっては6人体制でいくことに難色を示してもおかしくはない。なのに彼女はそんなことはせず、ただただ最新のエビ中が最高のエビ中であることを求め続けた。

2度目の休養直前の2020年ちゅうおんのステージ上では彼女は既に自分の病を知っていた。それでも彼女のパフォーマンスは落ちるどころか上がってすらいるのではないかと思わせるものだった。



神様なんてものはいないし、仮にいたとしてもこんな彼女に病を与えるのなら相当に性格がねじ曲がった神様なのだろう。逆に言えば、このパフォーマンスだけでなく病と向き合った彼女に性悪神様も根負けしたのかもしれない。翌2021年春に寛解、夏にはステージ復帰を果たす。

復帰した安本彩花は喜びに満ち溢れていた。
その頃には新メンバーが入ってきていて、それも彼女の笑顔を引き出していただろうか。

安本彩花のいない間にエビ中は6人から9人になっていた。
この頃にはメンバー全員が新メンバー加入に納得しオーディションを開催した。
その一連の動きと並行して6人でラストツアーが行われた。まだその時は寛解前でステージに立てない安本彩花だったが、安本の映像とともに安本のフィーチャー曲も披露され、ステージは安本彩花のイメージカラーの緑1色に染まっていた。

『6voices』と銘打たれたそのツアーは紆余曲折あった6人時代を思い、誰もが感慨深いものとなった。
新たなメンバーを迎え入れる覚悟を決めても、それとはべつに思い入れがある。
星名美怜は2014年の新メンバー加入を知らされた時は「ここに誰かを入れてたまるか!」という気持ちで猛反対したが、2018年の時には受け入れている。それでもこの『6voices』や5月5日の新メンバー発表前などずっと涙を流していた。



小林歌穂と中山莉子はエビ中やエビ中ファミリーに育てられた双子の愛娘のようだ。
愛情をたっぷり注がれ可愛がられた彼女達はその思いを忘れていない。だからだろうか2018年の新メンバー加入の打診の際には2人ともに首を縦に振っている。「自分達が良くしてもらったから」と早くも新たな仲間を快く受け入れるつもりでいた。

小林歌穂と中山莉子。“かほりこ”と呼ばれるこの2人の加入はセンセーショナルだった。
前述のようにほとんどのメンバーが新メンバー加入を猛反対した2014年、その末に入ってきたのがこの2人だ。加えて瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃というファミリーに愛された3人が去るタイミングでの加入だった。しかもさいたまスーパーアリーナ公演成功直後のこれからというタイミングでグループの1/3が急に抜けるというただ事ではない状況。
嵐の中でも大嵐の中での加入だったわけだ。

それでも加入の一悶着の怒りや瑞季ら3人が去る寂しさをかほりこにぶつけることなどせず、誰もが2人に愛情を注いだ。それはグループを去る3人も例外ではない。道を分かつこととなったがエビ中を愛した3人はかほりこの未来に期待をかけて去っていった。

そんな愛情たっぷりに育てられた2人もまたエビ中を愛した。末っ子ながら懸命に走り続け、6人体制の頃には完全にエビ中の武器となっていた。小林歌穂が変なキャラ扱いされ、中山莉子が子鹿と言われていた加入当初を見ていたファンは度肝を抜かれたことだろう。パフォーマンスを見直し強化していた6人体制で先輩4人にひけをとることなく個性を発揮していた。エビ中の申し子とも言えるこの2人にとっては、エビ中は家族であり、家族を守るのは当たり前で本能的に家族を守る行動がとれるのだろう。




6人体制が終わりココユノノカが加入し9人となったエビ中。


ココユノノカという新たな個性を受け入れても濁らない確固たる土台が6人にはあった。



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