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卒業研究「エビ中とは?」②




無双










2021年夏。

前年から続く世界的な新型コロナウイルス感染症の影響は未だ大きく、何かと不自由な世の中は続いていた。
この夏はデルタ株の影響で日本も欧米諸国に違わぬ流行が起こり、いわゆる″コロナ禍″の夏だったと言って差し支えないだろう。

エンタメ業界、特に問題となったのはライブやフェスなどのイベントだ。予定されていたものが次々と中止になり、開催されたものも感染対策にそぐわないものが批判の的となった。



逆風。
アイドルグループであるエビ中にとって苦しい時代だったのは間違いない。
特にエビ中の夏...いや1年でも最も大きなイベントと言える″ファミえん″の中止は大きかった。
今年は新メンバーを入れた新たなエビ中を初めて見せるターニングポイントとなるファミえんになるはずだった。
それが中止となった落胆はメンバーやスタッフ、ファミリー誰もが持っていた。

それでもファミえんはまた来年、それにライブはそれ以外にもある。
この夏のコロナ禍での問題はそこだけではなかった。





7月下旬。
小林、中山、風見、星名、柏木が相次いで新型コロナに感染。特に星名はホテル療養、柏木は入院を強いられるほどだった。
この時期、医療は逼迫しており芸能界でも感染者が続出。
いつ誰が罹ってもおかしくはない状況ではあった。それにしても、だ。
各メディアが大きく取りあげるほどにエビ中のメンバーが多く感染してしまっていた。

回復したメンバーもファミえんに向けて前向きに取り組んではいたが、メンバーが回復してもさすがに状況が状況だけにイベントは中止。

イベント中止は残念だが、メンバーの健康が第一なのは誰よりもエビ中に関わる人達ならわかるはずだ。
そしてこの人々は逞しい。

ファミえんの代替企画『FAMIEN24H』という24時間ぶっ通しの企画をYouTubeチャンネルで放送。メンバーもファミリーも一体でこの逆境を楽しんだ。

8月下旬には新メンバーの初ステージ、安本彩花の復帰後初ステージとなる『アットジャムエキスポ』に出演。
ファミえんに向けてレッスンを続けたココユノノカはその成果を見せ、それはファミリーも絶賛の出来だった。
安本彩花は復帰初ステージとは思えない歌とダンスを披露。それは休養前どころか、そこからさらに進化したものだった。
後に放送された日本テレビ系『深イイ話』の密着でわかったことだが、寛解後から徐々にピッチを上げ休養期間のブランクを埋めようとレッスンに多くの時間を割いた賜物だった。

しかもそれは「やらなきゃ」という焦燥感ではなく「歌える」「踊れる」という喜びからくるポジティブなもの。それはステージにも表れていた。

安本彩花のファンが魅了されるのはまさにそこで、いつでも前向きな彼女からもらうパワーは相当大きい。
そんな彼女が治療の苦しさから、それを辞めたいというほどだったのだから彼女が患った病はそれだけ大きなものだった。
反面彼女が凄いのは「エビ中に早く戻るため」と抗がん剤の投薬治療を続けて現に驚異的な早さで戻ってきたところ。
病気から戻ってきたところも凄いが、その思いの強さに驚かされる。



エビ中を形容する時によく言われるのが安本彩花と柏木ひなたのパフォーマンス力。
簡単に言うなら両翼とでも言えばいいだろうか。

ただ″あやひな″と呼ばれるこの二人はなかなか並び立たない。

かつては仲違いをした二人。
今はベタベタな二人だが、安本が復帰したかと思った矢先に柏木が休養を発表。

『FAMIEN24H』で発表された9月の『ちゅうおん』。
それを最後に暫く休養に入ることに。
これに関しては病状等は明言されてはいなかった。



同じ時期に体調不良としか明かされず中山がアットジャムエキスポを欠席。後に扁桃腺摘出手術をすることを発表した。
体調の面に関してはいろいろ難しいところがあるが...明かせないスタッフ側も心配であり知りたいファンの側も苦しい限りだろう。

柏木自身がコロナ療養後に後遺症があることを明言していたこともあり、休養に関しては割とすんなり受け入れられていたように見えた。
ただちゅうおんの前後も含めステージ上でも柏木はどこか苦しそう...というか何か思い詰めた表情のようにも見えた。いつものような笑顔がなく、自慢の歌唱力はこれまでどんな逆境でも高いレベルを維持してきたようにさすがのものだったが、心なしかどこか勢いや迫力に欠けた。

泣きそうになりながらちゅうおんでの去り際にファミリーに休養に入ることを直接告げた柏木。
真面目すぎる性格だけに2019年の1度目の安本休養からずっと、エビ中が飛び続けるために必要以上に翼を羽ばたかせ続けてきたのだろうか。
いや、もっと前からかもしれない。
2020年に安本が悪性リンパ腫で2度目の休養に入り、2021年には新メンバーが加入し教育係のかほりこと共にその面倒を見てきた。
少しいろいろなものを背負い過ぎたのだろう。



中山莉子も前述したようにアットジャムエキスポを欠席、さらに秋田分校後に扁桃腺摘出手術
を行うことを発表した。
夏のコロナ感染時も同様で、これまであまり休むことのなかった中山の欠席にファンは動揺したが、本人はあっけらかんとしていた。やはりそのへんはさすがリコナカヤマといったところか。
中山に関して意外だったのは割と新メンバーにズバッと注意をしているところか。言うとこは言う人ではあるが、あまり自分から主張をしていく性格ではないだけにそこは最年少ではなくなった変化なのか。



そんな中で安本彩花がいる効果は抜群だった。いつも場を明るくしながらステージ上では進化を見せ、グループに安定性をもたらした。
個人の写真集発売にそのプロモーションと明るい話題を提供し続け、これまでの不在を感じさせない活躍ぶりだった。

エビ中初心者の自分からすると安本彩花のいるエビ中をリアルタイムで感じるのは初だったため、よりその効果を体感しやすかった。
彼女のもたらす幸福感が周囲に波及していくのを見て嫉妬すら覚えた。
同時にこの人が「エビ中の歌姫」と呼ばれる柏木ひなたという存在に肩を並べる理由を思い知らされた。

安本柏木を両翼と例えるなら、柏木の休養で2021年の秋をエビ中は再び片翼で飛ぶこととなった。

個人的には9月のちゅうおんを観に行けなかったため、11月の秋田分校というワンマンライブでどんなパフォーマンスを見せるのか興味があった。

柏木ひなたはかつて突発性難聴を患った時に、首脳陣が「エビ中が終わるかもしれない」と覚悟したほどの存在だ。
いくら″エビ中は横一列″とはいえ柏木の存在感が大きいのは言わずもがな。
″エース″という称号はエビ中には相応しくないが、柏木ひなたのパフォーマンスはそう表現したくなるほどだ。

その柏木不在のワンマンライブでエビ中がどうなるのか、どんなパフォーマンスを見せるのか。





見る人の反応は想像以上に素直だ。
だからこそかつて瑞季、杏野なつ、鈴木裕乃の3人が抜けた後に珍しく藤井校長や西山恵美子が声を荒げたのだろう。
今回も柏木不在でパワーダウンしてはいけない状況。

特に前述のように安本彩花が存在感を発揮しており、彼女がいかに柏木不在のエビ中を引っ張るかという目で見ていた。

しかし開演後それは間違いだったことに気付かされる。

たしかに安本彩花のパーフェクトピッチは突っ込む余地がなく、フェイクにも磨きが掛かっていた。
彼女自身のパフォーマンスは文句のつけようがない。

エビ中自体もそうだ。

新メンバーであるココユノノカに多くを求めてはいけないが、彼女たちがいくら歌唱力やダンスパフォーマンスで先輩メンバーに劣ろうともグループのマイナスにならないことなどもう誰もがわかっていた。
懸命にそして自由に。先輩に見守られながらそれぞれ個性を発揮しエビ中の力となっている彼女たちにはもう「新メンバー」と呼ばれなくなる日も近いだろうと。


星名美怜はコロナ療養後に歌唱力も含め益々パワフルになっていた。この秋もオープニングナイト再演に生誕祭に個人のモデル仕事と大忙しだった。
そんな中でもいつもエビ中とエビ中ファミリーの幸せを考えていた。
藤井校長が「エビ中という旗を持たせるなら星名」と言う意味が今ならなんとなくわかる気がする。

小林歌穂もここにきてまた歌唱力が安定してきたのではないだろうか。
他者には真似できない絶対的な声色を持ちながら安定感に欠けるところがたまにきずだったが、ここのところピッチを外さなくなってきてるし良い意味で声に重さがあり説得力が増した。
星名の生誕祭の絵に新曲のカバーデザインと芸術性にも益々磨きをかけている。


中山莉子は安定のリコナカヤマだ。

「あーエビ中は9人になってもすげーな」

そう言えるパフォーマンスだった。

文句のつけようがない。

でも1番目を引いたのは注目していた安本彩花ではなかった。


正直これには驚いた。

復帰した安本彩花でも、成長著しいココユノノカでもない。



真山りかのパフォーマンスと存在感に度肝を抜かれた。



この日のエビ中は柏木不在を感じさせないものだった。



その穴を埋めていたのが真山だった。




ただ冷静になって考えてみると柏木に得意な音域が近い真山がその代役を担っていたからかもしれないとも思った。
実際柏木パートを真山が歌う場面が多く、柏木不在で仕事量が増えたからとも考えられる。さらに語弊を恐れず穿った見方をして言えば柏木がいないから目立ったとも言える。


そんなことを考えながら11月下旬にちゅうおんのフジテレビTWOでの放送日を迎えた。
直接観れなかったちゅうおん。特に9人でのパフォーマンスを観るのは初だったので期待値は高かった。

そして1曲目の『LIFE feat.BIRD』で秋田分校で抱いた疑問はすべて確信に変わった。

この日柏木ひなたは調子が良くなかった。
それでもずっと「エビ中の歌姫」を張る彼女のパフォーマンスは相当に高い。

だがこの日の真山りかはそれに匹敵、いや部分部分で上回っていたように思う。

ちなみにこのちゅうおんは実際のライブから二ヶ月後に放送されたもので編集をされたものだ。
いくらかのピッチ補正はされているだろう。

真山も安定感はあるが、柏木安本という歌唱力オバケに比べるとピッチを外す場面がかつては見受けられた。

この日は補正がかかっている。
でも結局ピッチはあくまでピッチでありその先にある声の伸びや表現力はまた別物である。
わかりやすく言えばヒャダインがかつて「ボーカロイド」と形容した安本彩花がいまや「パーフェクトピッチ」と呼ばれる理由でもある。

何が言いたいかというと結局ピッチは歌を歌う・聴く要素の1つであるということ。

いくらピッチ補正をかけようが歌声を修正しようが伝わるものは伝わるし伝わらないものは伝わらないのだ。

この日の真山の存在感と安定感は凄かった。

ピッチを外す場面は見受けられなかった。

ちなみに秋田分校はリアルタイムで見ていた。ここでも真山はピッチを外さなかった。

真山りかはここにきてまた進化しているのだ。

秩父では9人での初ステージに柏木が不調だったからか、秋田では柏木不在だったからか。

ここに来ての“真山無双”とでも言うべき凄まじいパフォーマンス。

天の邪鬼な真山のことだ、決してストレートにはその答えは明かさないだろう。

それでもここにきてまた進化し、グループを支える彼女に

「エビ中は真山」

その本当の意味を実感させられた2021年の秋だった。






ちゅうおんの放送翌日には柏木ひなたがYouTube生配信で復帰を発表。
翌年の生誕ソロツアーも同時に発表された。

正直ちゅうおんの頃の雰囲気からグループを離れることもあるとも思っていたが、それは杞憂だった。
たしかにその時までは。

2021年のエビ中の1番の出来事は桜木心菜、小久保柚乃、風見和香の3人の加入だろう。

だが、その3人の成長の裏で真山りか、安本彩花、星名美怜、柏木ひなた、小林歌穂、中山莉子もまた進化し続けていた。

6人体制から9人体制となった上半期よりも、下半期がもしかしたら濃かったかもしれない怒濤の2021年。
その中でまたパワーアップしたエビ中が見られるだろうと期待をさせる2022年。

『playlist』以来のアルバム、そしてその先へ。

9人となったエビ中はこれから。だった。



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