A weekend in the city

9月とは思えない暑さの中、見知らぬ街を歩いていた。そもそもJRの33番線て何だよ、ハリーポッターかよ。京都の公共交通機関は初見殺しすぎる。

二条駅から徒歩10分ほど。住宅街の路地裏、接道要件ガン無視の小さな古民家がその焼き菓子屋だった。引き戸を引き店内に上がるとレジにいたAさんと目が合い、Aさんは目を丸くして驚く。ああ、昔と変わらないな。以前行こうとした時は閉店時間を過ぎてしまっていた。やっと行けてよかった。

丁寧に作られた焼き菓子は見た目も美しく、どれも美味しそうだった。丁度客がはけたこともあり、少しの間、昔話や近況報告をする。バンドを続けている人も、辞めた人も、変わらない人も、元気でない人もいるけど、皆何とか生きてます。自分もなんとか。なんて具合に。

「そうだ、Tさん(旦那)も近くにいるから電話してみるね」

「あっ、突然だし迷惑、あっもし暇なら…」

あまりに無計画な自分だったが、たまたまTさんも時間があったので昼食を共にした。突然押しかけて申し訳ないというか「おじさん誰?」的な視線が気になるというか。子どもは随分大きくなっていた。

「じゃあまた」

2人にそれぞれ言った“また”がいつになるのだろうか。そんなことを思いながら買った焼き菓子はどこまでも丁寧で美味しかった。特にレモンでなくライムを使ったウィークエンドが絶品だった。

甘みだけでない、後からくるライムの爽やかな酸味とほろ苦さ。忘れない。もう一度味わいたい。

ああ、美味しかったな、Tさんたちにまた会いたいなと反芻しながら眠りに落ち、朝目が覚めるともう一人のTさんことT-岡田が引退を表明していた。

会心だったのに飛距離が全盛期より落ちている、そんな翳りも含めて2021年のロッテ戦の逆転3ランの放物線は絶品だった。

喜びだけでない、後からくるリクエストの水差し感とほろ苦さ。忘れない。もう一度味わいたい。

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