市井の天才に寄せて

何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。大人になるにつれ、厭になるほどその取捨選択の場面に直面するし、何となくその痛みや後悔も薄れていく。

ドラフト会議で無数のシャッターを浴びながら華々しくプロ野球の世界に登場するルーキー達の一方で、非情な通告を受ける選手もそれ以上にいる。単純な実力不足もあれば怪我のせいもある。年齢や年俸…稀に素行が要因だったりもするが、ファンとしてはこの時期の贔屓球団の選手たちの去就を我が事のように案ずるのである。

私が四半世紀応援しているオリックスも、小田と私の誕生日である11月4日、戦力外通告が行われた。

そこには予想した名前があった。小島脩平、33歳。

頭では分かっていたがそれでも寂しい(何回パワプロ2020のマイライフをやろうと山崎と小島は初年度で退団する)。彼に何でそこまで肩入れしていたのか。同郷で年齢が近いのもあったが、本来プロ野球選手は親近感を抱くような存在ではないのだが、小島はどこか身近な存在だったことが理由なのではないかと推察する。

高校時代は当時の名門桐生第一で甲子園に出場し、大学に進学。東洋のヒットメーカーとしてプロ志望届を出すも秋の不振で指名漏れ、社会人を経て24歳でプロ入りをするが、下位指名。彼もまた一時オリックスが乱獲していた社卒ユーティリティ小兵に過ぎなかったし当時から期待値もそれ程高くなかった。しかしそれから10年近くに亘り、小島はプロの世界をサバイヴした。

恵まれた体格があるわけではない。足は速いが盗塁は上手くない。チャンスに弱い。小刻みなタイミングの取り方も何か期待出来ない。バッテリー以外何処でも守れるが守備職人というわけではない。掲示板ではスタメンに名を連ねる度にヘイトを集めていた。

しかしチームメイトをして練習の虫と言わしめるほど真面目で、たまのお立ち台でも控えめなハスキーボイスでジョークのひとつも言わず話す様は、怪物が跋扈する異世界に転生した一般人の様で、最早祈りに近い気持ちで小島の活躍を見守っていた。現地のユニ率や歓声を見るに、非常に主観的ではあるが、そんな気持ちで応援していたファンも多かったのではないか。

努力が結実したのは2016年だった。打撃好調で交流戦では何故か1番センターでチャンスメーカーとして定着。一時は3割台のアベレージも残した。しかし終わってみればチャンスの尻尾を掴み切れず、所謂スーパーサブとして時折守備固めに出るポジションに落ち着いてしまった。

背水の決意で臨んだ2019年は結果として最後の渋い輝きを放ったシーズンだった。何故かホームランも4本打ち、相変わらずチャンスには弱かったが代打打率も3割超え、守っては内外野全てをそつなくこなした。出場機会を始めほとんどの数字がキャリアハイだった。来年以降もいぶし銀としてチームに欠かせない存在であるはずだった。

しかし…2020年に関しては、今日の通告が全てである。結果が全ての世界で、やむない数字だった。

失礼を承知で書かせてもらう。はっきり言って3番大城4番中川5番小島なんてオーダーは2度と思い出したくない。何が守備固め小島だ、サヨナラのチャンスに代打小島だ。

でも、堪らなく寂しい。前言撤回だ。取捨選択の痛みなんて慣れやしない。私は、努力の天才が残した大きくはない爪痕をそれでも忘れないだろう。


昨年の8月、ドームで観戦した日のヒーローは先制タイムリーを放った小島だった。「いつも迷惑ばかりかけているので…」その先に詰まった小島に大声で野次が飛んだ。「そんなことないよ!!」

笑い声に包まれるドーム。小島が少しはにかんで笑った。その姿は、私を始め誰かにとってはまごうことなきヒーローだったのだ。

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